表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
柘榴石の瞳  作者: 美都
35/80

我儘

 第三研究室では、エヴァンに集められた面々がぽかんと呆けた顔をしていた。いつも好々爺然とした雰囲気を崩さない所長が、珍しく興奮した様子で今更確かめようもない話をしたのだ。驚かない訳がない。


 エヴァンの話が終わってしばらく無言が続いた後、腕を組んで考え込んでいたグレイスが、写真を持ってにこにこと笑っているエヴァンを見つめてゆっくりと口を開いた。


「あの、ルイス所長、もしこの方が本当にオードリーさんのお父様だったとしましても……この方についてはわからないことだらけですし……流石にもう……その、ですね……」


 グレイスの話を聞きながらにっこりと笑みを浮かべ続けるエヴァンに、グレイスは言葉を無くしていく。何も言えなくなると、右手を額に当て長い長いため息をついた。そして何かを諦めたような顔つきになり、今度は両手を腰に当てた。


「わかりました。フレドリック・レイナーについても調べてみますわ。もう20年も昔のことでどこまで調査できるかはわかりませんので、あまり期待なさらないでくださいね」

「お願いしますぞ」


 エヴァンはそれはもう満足そうに笑うと、「それでは」と言い残して研究室から出ていった。


「あぁ、もう。あのご老人は本当に勝手なんだから」


 グレイスはソファに勢いよく倒れこむと、再度長いため息をついた。そしてひじ掛けにもたれかかり頭を抱えている。


「すみません。私が父に似ているなんて言ってしまったので……」


 オードリーはグレイスたちの様子に申し訳なくなり、頭を下げる。エヴァンと2人で話していた時には、こんな風に困らせる事になるとは思ってもみなかったのだ。


「いいのよ。本当に似ているんでしょう?他人の空似という可能性の方が高いかもしれないけど、調べてみる価値はあるわ。……それに所長はフレドリック・レイナーに対して本当に執着しているのよ。いつかこうなると思っていたわ」


 落ち込んでいるオードリーに、グレイスは弱々しく微笑みを向けた。グレイスはオードリーに対していつも笑顔だったが、今回ばかりは本当にオードリーを労わっているのだと感じとれる。


「ミラー室長、そうは言っても第三研究室の中でフレドリック・レイナーと関わりのあった者は誰もいません。確かに彼の話は有名ですが、その功績と失踪について話を聞いたことがあるだけです。一度彼を知っている者に話を聞いてはどうでしょうか」

「そうねぇ。ってことは第四かしらね。あそこに所属している人たちは大抵異動したがらないから、年寄りも多いのよね」


 レオンの意見にグレイスは嫌そうに顔を顰めて頷くと、またため息をついた。


「とりあえず、当時の調査報告書の閲覧申請をしておくわ。許可が下り次第、レオンとブラッドリーはフレドリック・レイナーについての調査を始めて頂戴。……ああ、ほんっと頭が痛い」


 グレイスはよろよろと立ち上がると、研究室から1人静かに出ていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ