図書館
レオンたちについて行くと、研究所から外に出た。そこには今朝自室から見えた芝生があり、石畳の上を歩いていく。王城に勤める人々にとっては魔法使いは珍しくないようで、行き交う人々はこちらを見ることなくすれ違っていった。
研究所から少し歩くと、城の外観が目入った。明らかにそれとわかる造りをしており、あまりの立派さにオードリーは目を見開いた。
本当に王城なんだ……
オードリーは生まれてこの方王都に訪れたことがない。地方の小さな村や町に住んでいた時期が長く、領主様のお屋敷さえ、殆ど目にしたことがなかった。
辺りをきょろきょろと見回しながら、レオンたちの後ろを遅れないようについて歩く。
いくつかの建物を通り過ぎると、3階建ての建物にたどり着いた。研究所よりも王城の中心に近いところにあるようで、下町では目にすることのない服装をした人々が、忙しそうに行きかっている。時折、身綺麗な格好をした男性が歩いているのも遠目に見えた。
レオンはその建物の少し手前で立ち止まり、オードリーを真剣な眼差しで見つめた。
「ここが王城図書館だ。研究所でも書籍は管理しているが、多くは図書館に置かれている。司書たちの方が本の扱いが上手いからな。ただ、ここは王城唯一の図書館だ。貴族の方々、もっと言えば王族の方もいらっしゃることがある。侍従や侍女が訪れることが多いとは思うが……。何かあれば、俺たちや周りの人の真似をするんだ。そのことだけ注意しておいてくれ」
何かって何かしら。私、貴族の方への対応なんて知らないわ……
オードリーは戸惑い顔をこわばらせ、ただ静かに頷く。レオンはオードリーを案じるような顔をしたものの、何も言わずに図書館に向かって歩き始めた。図書館の入口は大きな両開きの扉で、かなり頑丈そうな造りをしていた。取っ手に手をかけ、その重たそうな扉をレオンは静かに手前に引いた。
図書館の内部はかなり広かった。エントランスには見取り図が置かれており、どこにどういった本が置かれているのかも大まかにわかるようになっている。本棚の側面には、そこに収められている本の分類が記載されている。さらには机と椅子の置かれた広いスペースもあり、座って本を読んでいる人もいた。
この光景を見た時、オードリーは先ほどまでの心配をすっかり忘れてしまった。
レオンは目を輝かせているオードリーを見てクスリと笑う。慣れた様子で薬学書のスペースにオードリーを連れてきて、小さな声でオードリーに囁いた。
「好きな本を選んで、あっちの椅子に座って読んでいてくれ」
その視線の先を確認し、オードリーは心底嬉しそうな笑顔で頷き返した。レオンとブラッドリーは2人で何やら話しながら入口の方へと戻っていく。どこへ行くのか気にはなったが、それよりもオードリーは目の前の本に興味深々だった。
改めて本棚を見てみると、かなりの種類の薬学書が置かれていた。ヴォレンティーナ唯一の小さな図書館とは雲泥の差だ。
何の本から読もうかしら……
オードリーは楽しそうに本のタイトルを1つ1つ確認していく。その時ふと、レオンたちの扱う魔法薬とはどんなものだろうと興味が湧いた。
薬学書の置かれた区画を端から端まで探したが、『魔法』などと書かれた本は1冊もない。同じ薬とはいえ、魔法が関わる書籍は別の場所のようだった。オードリーは魔法薬の本を諦めると、その中から薬草についての書籍をいくつか手に取った。そして先ほどレオンに指定された席に座って、いそいそと本を開いた。




