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柘榴石の瞳  作者: 美都
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第四研究室

「とりあえず、オードリーさんの薬と試験薬の分析から入るしかなさそうねぇ……」


 グレイスは手を止め、羽ペンをコトリと机の上に置いた。


「レオンとブラッドリーは、図書館で過去の文献を探してきて頂戴。今日のところはオードリーさんも一緒に連れて行ってあげて。薬学書も揃っているから、何冊か借りてくるといいわ。こっちは今手元にあるものの分析を進めておくから」

「了解しました」


 レオンは行こうか、とオードリーの手を引きソファから立ち上がらせる。オードリーはそのままグレイスたちに頭を下げると、レオンとブラッドリーについて部屋を出た。


 少し歩いた所で、レオンが徐ろに口を開いた。


「オードリー、既に気づいているかと思うが、研究所内の扉はドアノブのあるものとないものにわかれている。研究室だとか、基本的に限られた魔法使いだけが出入りする部屋は、ドアノブを無くして扉に魔力を流すだけで開けられるようになっている。魔力は指紋のように1人1人違っていてな。扉は許可された魔力を持つ者しか開けられない。だからオードリーには開けることができないんだ。研究所内では、必ず第三研究室の誰かと行動を共にしてくれ」


「わかりました。では、ドアノブのある扉はどういったものなんですか?」


「不特定多数が入室する場所だ。室長室だったり所長室だったりは、部屋主以外の魔力を登録する訳にいかないし、魔法使い以外が尋ねてくることもある。それに、ノックの音がする度に室長が扉を開けに行く、退室するときには扉を開けてあげる、なんてことも馬鹿馬鹿しいからな」


 勿論例外もあるが、とレオンは付け加えてオードリーに視線をよこした。


「確かに、それはそうですね」


 オードリーはエヴァンやグレイスが扉を開けてやる様子を想像し、思わずクスリと笑う。


 そのまま雑談をしながら歩いていると、何人もの魔法使いとすれ違った。その内の何人かは、オードリー達とすれ違う瞬間、レオンとブラッドリーを見てクスクスと笑う。その様子をオードリーが不快に感じていると、レオンが苦笑いをしながらオードリーの頭をポンと叩いた。


「第三研究室は、既存の魔法薬を取り扱う部署だ。市場に出回っている魔法薬に問題が生じた場合の調査、王都内での抜き打ち検査なんかが主な仕事でな。そして、薬を扱う部署はもう1つ、第四研究室がある。こちらは新しい魔法薬を開発する部署で、第三より遥かに人数も多い。第四の中には自分たちこそが花形職だと思っていて、第三の俺たちを見下している者もいてな。ああやって笑っているのは第四の奴らだと思えば間違いない。まぁ、皆が皆悪い奴でもないが。それに、こっちも大事な仕事なのにな。第三に配属されても、異動希望を出し続けて第四にいく者もいる」


「そんな、魔法を使えるってだけで、凄いことなのに……」


 オードリーはなんとも遣る瀬無い気持ちでレオンを見上げる。レオンはふっと寂しそうな顔つきになった。


「……そう、だな。魔法を使えることは、凄いこと、だよな。まあでも、今第三にいるのはこの仕事が好きな者ばかりだ。ああやって笑ってくるやつは無視していればいい」


 レオンはすぐに優しげな笑みを浮かべ、なぁ?とブラッドリーに同意を求める。


「そうっすよ。無視してれば大丈夫っす。本当に嫌な奴がいるんすよ、第四には。最初は俺も憧れてたっすけど、研究所に勤め始めてから、第四には行きたくなくなったっす」


 ブラッドリーはにかっと笑うと、オードリーの頭に手をのせてガシガシと思い切り撫でた。


「だから、オードリーさんは何にも気にしなくていいんすよ。嫌な奴は、基本的にはああやって笑うことしかできない奴らばっかっすから」


 私は魔法使いではないし、私が気にするべきことではないわね……


 2人の笑顔を見て、オードリーは1つ頷き笑みを返した。

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