表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
柘榴石の瞳  作者: 美都
27/80

生い立ち

 オードリーは、マイカ王国の最南端に位置するクロンプトン伯爵領にあるアンバーという村で生を受けた。


 そこは海に面する伯爵領の中で最も海から遠い場所に位置し、歩いて2時間程かかる町にいかなければ医者もいないような小さな村だった。


 オードリーの父、フレッド・クロムウェルはその村唯一の薬師で、医者の代わりのようなことまで務めていた。母、バーバラ・クロムウェルは手先が器用で、薬屋の一角に作業場をつくり仕立て屋として細々と働いていた。


 2人はオードリーが生まれる2年ほど前にその村に移り住んでいた。その短い期間でも2人は村人たちと良好な関係を築いていたが、オードリーが生まれたことでそれは終わりを告げた。


 オードリーが生まれたのは、ある晴れた日の朝だった。小さな村ではお祝い騒ぎとなり、その日は村人たちがひっきりなしにクロムウェル家を訪れていたという。バーバラは大事をとって休んでおり、フレッドが揺り籠で眠るオードリーを時々抱いては村人の相手をしていた。


 日が沈み、フレッドが部屋の蝋燭に火を灯したとき、オードリーを見ていた村人がその瞳の色が変わったことに気づいてしまった。


 結局、その日のうちにフレッドとバーバラはオードリーを連れて夜逃げ同然にその村を出た。近くの村では噂が届いてしまうと考えたフレッドは、オードリーを隠しながら北へ北へと移動した。


 次に住んだのは、クロンプトン伯爵領から北西に位置するオールストン辺境伯領のルチルという村だった。フレッドは薬師として働き、バーバラは常にオードリーの側にいた。


 この村ではオードリーの秘密がばれないよう、夕方になるとオードリーを外に出すことはしなかった。オードリーも、瞳の事を誰にも言わないようにと毎日言い聞かされていた。


 それでも、それは穏やかで幸せな日々だった。


 しかし、その生活も3歳で終わる。バーバラが息を引き取ったのだ。それはあまりにも急なことで、病気だったのか事故だったのか、フレッドは結局最期までオードリーに教えてはくれなかった。


 その村にいるとバーバラのことを思い出すと、フレッドは再度旅をすることに決めた。幼いオードリーをつれ、今度はルチルから東に位置する、オールストン辺境伯領の端にある町、ベリルに移り住んだ。


 バーバラの死で何かを感じたのか、その町ではオードリーは外に出て遊ぶことを禁じられた。


 日中はフレッドの仕事に付き添い、字や計算の勉強をさせられた。読み書きができるようになると薬学書を与えられ、フレッドの仕事を見ながら薬学の勉強をすることになった。


 幸い、オードリーは勉強をすることが苦ではなく、それが生きがいに感じるようになった。


 フレッドの仕事を手伝い、その技術や知識を盗もうとし、暇な時間は薬学書を読みふけるようになった。次第に薬の作り方も教えてもらえるようになり、上達するとオードリーの薬も商品として扱われるようになった。


 この町では、オードリーが13になるまでフレッド と2人、落ち着いて生活をすることができた。


 しかし、やはりまたその生活も突然終わりを告げた。蝋燭を灯す前に窓のカーテンを閉め忘れたのだ。


 しまったと思ったときには遅かった。窓の外には、オードリーを見て目を見開いているパン屋のおじさんがいた。そして、叫んだのだ。「化け物だ」と。


 それは町中に知れ渡り、「化け物は出ていけ」と叫んでいる声が扉の外から聞こえてきた。それは次第に大きくなり、石をなげつけられ、とうとうガシャンと窓も割れた。


 結局、裏口からフレッドと2人、隠れるようにして逃げ出した。


 フレッドは王都に近づきたくないようで、王都から離れた西側の町を転々と、北へ北へと移動していく。


 次に腰を落ち着けたアストリー伯爵領のシトリンという町で、オードリーが15の時にフレッドも静かに息を引き取った。それまで体調が悪い様子でもなかったのに、オードリーが朝目覚めた時には既にフレッド の心臓の鼓動が止まっていた。


 この時既に、フレッド は自身の持つ薬の知識全てをオードリーに伝え終わっていた。そのためオードリーは、フレッド は自分の死期を悟っていたのではないかと思っている。


 オードリーはその町でフレッドの葬儀を済ませると、1年間旅をしながら自分の居場所を探し続け、マイカ王国の東に位置するヴォレンティーナの街にたどり着いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ