表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
柘榴石の瞳  作者: 美都
25/80

第三研究室

 昨日入った『第三研究室室長室』の1つ奥にある、ドアノブのない扉の前で3人は立ち止まった。『第三研究室』とプレートがついている。レオンが前に出るのを制し、ブラッドリーは扉の前で息を整えている。中々入る様子がないため、レオンはこそっとオードリーに耳打ちをしてきた。


「ここが第三研究室だ。室長以外に俺とブラッドリー、それとあと3人が所属している。変人ばかりだから、覚悟しておくといい。室長は隣の室長室にいることが多いんだが、今はこちらにいるみたいだな」


 コンコンコンっと軽快に扉を叩く音が聞こえた。オードリーが視線を向けると、ブラッドリーが緊張した面持ちで扉に向かって手をあげていた。


「ブラッドリーっす。レオンさんとオードリーさんを連れて来たっす」

「早く入りなさい」


 ブラッドリーが扉に掌を当てると、扉がゆっくりと手前に動いた。手を使って大きく開け、ブラッドリーはレオンとオードリーに入室を促す。中に入ると、手前にある応接台にグレイスが座っていた。その奥には大きな机と椅子のセットが複数並んでおり、左右の壁には3つずつ扉が付いている。


「ブラッドリー、ここではノックする必要はないのよ?」


 グレイスが呆れた様子でブラッドリーを見る。ブラッドリーはひきつった笑みを浮かべた。


「だ……だって、ミラー室長、レオンさんたちが遅いってイライラしてたじゃないっすか。だから入るのに勇気がいったんすよぉ」

「なあに? 私が怖いの?」

「そういうとこっすよぉ」


 2人のやり取りを余所に、レオンはグレイスの背中を押してソファに座らせた。そして自身も隣に腰かける。するとグレイスもオードリーの方を向いてにっこりと笑った。


「おはよう。オードリーさん。昨夜はよく眠れたかしら?」

「おはようございます。グレイスさん。ええ、おかげさまで」


 オードリーが微笑むと、グレイスははっと目を見張った。そしてソファから立ち上がり、オードリーの前に跪く。


「あらやだ。本当に瞳の色が緑色ね。えぇぇ。本当にこんなことがあるなんて。でもやっぱり、オードリーさんから魔力は感じないわねぇ」


 グレイスはいきなりオードリーの顔を両手で包んでじーっとのぞき込んできた。そしてそのまま、頭や肩、腕などを触って何かを確かめている。オードリーが驚き固まっていると、レオンがグレイスの手を掴んだ。


「ミラー室長、そのくらいで。オードリーが驚いています」

「あらやだ。私ったら、つい。オードリーさん、ごめんなさいね。とりあえず朝食にしましょうか。お腹すいたでしょう?」


 グレイスがブラッドリーに目配せすると、ブラッドリーはいそいそと食事の準備を始めた。


「うちは9時始業なの。他に3人研究員がいるから、全員が集まったら今後のことについて話すわね。それまでゆっくりしていてちょうだい」


 グレイスはそう言うとさっそく食事に手を伸ばす。パンと温かいスープだけの簡単なものだったが、オードリーが普段食べているものよりずっと良い品だった。



 食後のお茶を飲んでいると、先ほどオードリーたちが入ってきた扉から1人の女性が入ってきた。幼さの残る顔立ちで、歳はオードリーと同じくらいに見える。黒いローブを身に纏い、茶色の癖の強い長い髪は無造作に跳ねている。翡翠色の目は眠たそうで、その瞳を瞼が半分隠していた。


「あれ? 室長? 珍しーい。おはよーございまーす」


 その女性はソファを通り過ぎて、机の1つに荷物をおろす。そこが彼女の自席のようだ。椅子に座り、ソファに集まるオードリーたちをみると、彼女は表情を変えずにコテンと首を傾げた。


「あれー? 知らない人がいるや。室長、その人だあれ? 新人さんー?」

「この時期に新人が来るわけがないことくらい、わかるでしょうに」


 グレイスは呆れたような顔で、彼女を手招きして呼び寄せた。


「アビー、こちらはオードリー・クロムウェルさんよ。で、オードリーさん、こちらはアビー・ハル。気づいているかとは思うけど、この第三研究室の一員よ」

「よろしくお願いします、アビーさん」

「ん……よろしく」


 オードリーが手を伸ばすと、アビーは相変わらずの顔のままそっと握り返してくれた。しかし、すぐに離してグレイスの方を向く。


「室長、オードリーさんって何の人?」

「それはモーリスとジェフリーが来たら話すわ。それまでちょっと待っていてちょうだい」


 アビーは頷くと、先ほどの椅子に座り直し、ぐでんと机に突っ伏した。そしてそのまま目を瞑る。するとすぐに寝息を立て始めた。


「気にするな。アビーはいつもああだ」


 唖然としてアビーを見つめるオードリーに、レオンは笑いながら言った。


 キィっとまた扉の開く音がして、30代半ばくらいの体格のよい大きな男性が無言で入ってきた。身につけた黒いローブは大きく、オードリーがすっぽりと入ってしまいそうだった。兵士と言われた方が納得するほど強面で、青い切れ長の目に短く刈り上げた茶色の短髪は、彼の人相の悪さに拍車をかけている。


「お、おはようございます」


 その後ろから、小さな声がしてもう1人入ってきた。茶色、というよりは金色に近いふわふわの短い髪に、クリッとした翡翠色の大きな瞳。中性的な顔立ちで、女性なのか男性なのかオードリーにはわからなかった。それに、オードリーよりも年下に見える。しかし、背はオードリーより高く、黒いローブを身につけていた。


 その時、9時の鐘が鳴った。


「さて、そろったわね。3人はソファのところまで来なさい」


 グレイスは寝ているアビーを起こし、部屋に入ってきたばかりの2人を集めると、オードリーに席を立つよう促した。


「まずは、こちらはオードリー・クロムウェルさん。ヴォレンティーナの薬師さんよ。どうしてここにいるのかは、2人を紹介してから説明するわね。さて、オードリーさん、この大きいのがモーリス・ブーリン。この小さいのがジェフリー・ハルフォードよ。これで第三研究室のメンバーが全員揃ったわ」


 可愛らしいとは思ったが、小さい方は男性のようだった。魔法使いとして働いている時点で18歳を確実に超えているためオードリーは驚いたが、顔に出さないよう努めながら笑顔を作る。


「よろしくお願いします。モーリスさん、ジェフリーさん」

「ああ」

「よ、よろしくお願いします。……オ、オードリーさん」


 モーリスは愛想のない顔で淡々としていたが、ジェフリーはおどおどした様子でもごもごと挨拶をする。アビーは相変わらず眠そうな顔であくびをしながら立っており、オードリーはレオンが『変人ばかり』と言った意味を理解した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ