宿にて
「オードリーさん、可哀想な人でしたね。夜には人に会わないよう、生活しなきゃなんないなんて。怪しまれない訳がないのに」
オードリーの薬屋から宿へ戻ると、ブラッドリーはベッドに腰掛け、ぼそりと呟いた。
「そうだな。それに、作っている薬にも自覚のないまま問題があるときた」
「最後まで、嘘はついてなかったっすよ」
「だろうな……」
「それに、独りぼっちっすよ。家族もいないし、この町にも自分の居場所があるとは思ってなかったみたいっす。この先、もし仕事までなくしたら、彼女はどうするんすかね……」
オードリーの様子を思い出すと、レオンもブラッドリーも居た堪れない気持ちになった。
ただ、とブラッドリーは珍しく真剣な表情をし、レオンを見た。
「レオンさんは、感情移入しすぎっすよ。同じ瞳を持っていることが原因なのはわかっているっすけど、得体の知れない物を作っている娘には変わりないっす。レオンさん、いつもは仕事に厳しいのに、オードリーさんには甘かったっすよね? 自分もないとは思っていますが、騙されることがないよう、原因を解明できるまでは、適度な距離感が大事だと思うっす」
レオンは目を瞑ってぱたりと仰向けにベッドに倒れこむと、右手を瞼の上に置いた。
「あぁ、そうだな。肝に命じておくよ」
わかっては、いるんだがな……
レオンはそう思いながらも、どうしてもあの瞳を思い出してしまう。自分と同じ色を持つ娘。それだけで、自分の辛さをあの娘なら理解してくれる、気味悪がられることなく、憐れまれることなく、対等に接することができると考えてしまうのだった。