国家指名手配犯
ソアラを盗んでから数十分後。
俺たちは、場所も分からない森の中を彷徨っていた。
「まさか…『妖精の羽』の効果があんなに短かったなんて…」
「元気出してくださいクリフさん。私が怪我をしないように庇ってくれたの、嬉しかったです」
「…ありがとな」
ソアラに慰められながら、手に持っていた『妖精の羽』を眺める。
魔力を流せば背中に妖精の羽が生えて飛ぶことのできる魔道具。
これのせいでさっきは死にかけた。
空を飛んでいたら、いきなり背中の羽が薄くなり始めてどんどん高度を落としていき、地面につく前に背中の羽が消滅。
俺とソアラは地面に真っ逆さまになった。
まあ、俺の身体能力でなんとか事なきを得たが、これの使い方は考えないといけないな。
「歩いても歩いてもずっと木ばかりですね」
「そりゃ森だからな。しばらくは木ばかりだろうよ」
「なんか…不思議です」
ソアラが感慨深そうに言った。
彼女は王女だったから、森には来たことが無かったのかもしれない。
「何が不思議なんだ?」
「えっと、私たちって今日会ったばかりで…ついさっきまでは他人だったんですよね」
「そうだな」
「でも今は、一緒に森の中を歩いています。これってとても不思議な事だと思いませんか…?」
「そう言われてみればたしかに不思議だよな。俺があの部屋に入らなかったら、ソアラとは出会ってないわけだし」
「クリフさん」
突然、ソアラが真剣な顔を向けて来た。
な、なんだ?
「私を盗んでくれて、ありがとございます。この恩は私の命に代えても、絶対に返しますのでどうかこれからもよろしくお願いします」
「あ、改まって言わなくてもいいって。それに、俺がソアラを盗んだのは俺がソアラを欲しかったからだ」
「あ…ぅ…はぃ…」
俺は照れて、自分が何を言っているのか理解していなかった。
隣で顔を赤くしたソアラが俺を凝視していることに、全く気付かなかった。
しばらく歩いていると木ではなく、街道が見えてきた。
「クリフさん!これは?」
「これは街道だな。この先に街があるんだ」
「街道ですか。初めて見ました!」
「さすが王女様だな…」
ここまで箱入り娘だと逆に心配になってくるな。
街道を見て喜ぶ奴なんて、後先にもこいつしかいないだろう。
「クリフさん!この先に行きましょう!」
「はいはい、行くから走るなよ。お前はドレスなんだから走ったりなんかしたらコケるぞ」
「うぅ…早く街に行ってみたいです」
「すぐに着くさ」
落ち込むソアラを慰める。
しかし、この街道には見覚えがある。
…おそらくこの先にある街はラグレシェルム王国の管轄にあるデボールの街だ。
あの街にはラグレシェルム兵もいるし、正直に言うとあまり行きたくない。
が、このままでは俺たちは餓死してしまう。
予定なら俺の家がある村までひとっ飛びする筈だったんだが、生憎このような事になってしまった。
俺の『魔拡収納袋』に入っている食糧は俺一人分しか無いから、ソアラの分まで用意するとすぐに底を尽きる。
だから、どこかの村や街に寄るのは既に決定事項なのだ。
「…クリフさん、これって…」
デボールの街に着いた俺たちを待っていたのは、厳しすぎる現実だった。
「あぁ、掲示板にズラリと俺の顔写真が貼ってあるな」
デボールの街の外に立てられた掲示板、そこに貼られてある紙にはこう書いてあった。
ティテュールの姫が拐われた。
罪人の名はクリフ・クロード。
国家指名手配犯。
まじか。
俺、国家指名手配されてるじゃん!
「ど、どどどどうしましょう!私のせいでクリフさんが!」
「ぉ、おおおお落ち着け!ま、先ずは…そうだ!身を隠すんだ!」
「クリフさん!無理ですよ!『魔拡収納袋』に人間は入れませんよ!」
いや、入れる!
ていうか入りたい!
もう逃げたい!
その後、ソアラが必死になって俺を止めてくれたおかげでなんとか正気を取り戻した。
「よ…よし、こういう時は堂々としていればなんとでもなる!俺の経験論だ!!」
「ほ、本当ですかね…」
ソアラは疑心暗鬼に陥っているようだ。
俺の痴態を見てしまったからか…頼むから忘れて欲しい。
話は変わるが、俺が渡したフード付きの黒いローブで身を包んだソアラは、一見すると魔法使いに見えなくも無い。
これなら、怪しまれることはないだろう。
そして俺は、新たな魔道具『虚偽の眼鏡』をかけた。
黒縁で普通の眼鏡に見えるが、これをかけるだけで他人が俺という存在を認識できなくなってしまうという代物だ。
「あ、あれ?クリフさん…ですね?なんだか別人のように…見えて…えっ?誰ですか!?」
とまあ、このように誰これ構わず認識妨害してしまうので、注意が必要だ。
「俺はクリフだよ」
「や、やっぱりクリフさんですよね!何故私は分からなくなって…って、どうして私の手を握るんですか!?」
「『虚偽の眼鏡』の効果を受けない条件は、装備した者との接触だ。この眼鏡をかけている間は俺と手を繋いでもらうからな」
「うぅ…は…はいっ!」
顔を赤くして緊張気味に返事をするソアラ。
男と手を繋いだとこが無いのだろう、恥ずかしい思いをさせて悪いと思ってる。
周りには俺たちがただの恋人に見えているだろうから、これで本当にバレる心配はなくなったな。
「さて、それじゃあ食料の買い出しと、ソアラの社会見学も兼ねてデボールの街を探索するか」
「…はい!とても楽しみです!」
すこし照れ臭そうに笑うソアラの手を握って、俺たちはデボールの街に入っていった。
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