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盗むと決めたから

「私を盗んでって…正気か?」

「はい。お願いします。理由は後で話しますから、どうか…」



頭を下げてお願いする銀髪の美少女。

これまでの盗賊人生において人を盗む…なんてのはやったことがなかった。

だが、俺は言った。



「任せておけ!俺に盗めないものはない!この国からあんたを華麗に盗んでやるさ」

「あ、ありがとうございます!」



ははは…盗む事でお礼を言われる日がくるなんてな。

いつも罵詈雑言を浴びせられている俺からすると、彼女の言葉がとても心に沁みた。



「さて、それじゃあどうやって連れ出すか」

「あの、今更なんですけど…」

「ん?どうした?」

「貴方のお名前を聞いていなかったので教えてもらえませんか?」

「あー、そういえば言ってなかったな。俺はクリフ・クロード。職業は盗賊をやっている。年齢は二十一歳でコルク村出身だ」

「クリフ様…ですか」



ん?なんだ?今一瞬驚いていたような…。



「っていうか、クリフ様ってのはやめてくれよ?様なんて呼ばれたことないからむず痒い」

「で、でも私、男性の名前を呼んだことがあまりなくて…」

「そんなの、普通にクリフで良いぞ」

「む、無理です無理です!呼び捨てになんてできません!」



んー、流石は王族ってことか?

いや、こいつが変なのか。

盗賊相手に敬意を持って話してくれるんだからな。



「なんて呼ばれても俺は気にしないぜ。あ、クリフ様はなしな?」

「で、ではクリフさん…というのはどうですか?」

「それなら大丈夫だ。ついでにあんたの名前も教えてくれよ」

「えっと、私は…」



彼女が俺の質問に答える前に、部屋の扉が乱雑に開かれた。

しかし、俺は盗賊だから足音でこの部屋に大勢の人が近付いて来ているのが分かっていたので、目にも留まらぬ速さでベットの下に潜り込んでいた。



「おい!この部屋に賊が来ていたのは分かっているぞ!どこに行った!」

「ま、待ってください、私にも分かりません」

「惚けるな!貴様、我々ラグレシェルムに逆らう気か?」



大勢のラグレシェルム兵が部屋に入ってきて、凄い剣幕で彼女に迫っている。

うわ、なんだこいつら?

俺の予想では彼女はラグレシェルムの王女だと思っていたんだが…この様子だと少し違うのか?

それにしては、彼女の身なりは綺麗だったが。



「敗戦国の王女が待遇の良い生活が出来ているのは、ラグレシェルム王のご厚意だということ、忘れてはいないだろうな?」

「…はい」



…え、ちょっと待て、今なんて言った?

敗戦国の王女って言ってなかったか?

つまり、俺が盗むと宣言してしまった銀髪の美少女は、ラグレシェルム王国に敗戦した国の王女だったってことか?



…まずいな、これは非常にまずい。

きっと、敗戦国は今でも彼女を取り返そうと戦争の準備をしているに違いない。

そして、ラグレシェルム王国は彼女を盾にして、相手国に揺さぶりをかけようとしているだろう。



今の彼女は両国にとって重要な人物で、無くてはならない存在なのだ。

俺がもし、彼女を盗んだら…確実に指名手配犯だ。



うぉおおお…悩む…。

俺の盗賊としてのプライドが、一度盗むと決めたものは、それを成し遂げるまで次の宝を盗むのは駄目だと…そういっている気がする。



なら、やるしかない。

俺は彼女を…盗む。



「ちっ、おい!こいつを拷問部屋に連れて行け!賊を匿っている可能性がある!」

「はっ!」

「いやっ、や、やめてください!きゃっ!」

「大人しくしろ!」



男二人掛かりで彼女の腕を取り押さえた。



「くくっ、たっぷりと拷問してやるからな?」

「うぅ…」



彼女が頭を下げて、抵抗するのをやめた。

兵士たちが部屋の外に向けて歩き始めた瞬間に、俺は素早くベットの下から飛び出した。



先ず、彼女の腕を掴んでいた兵士二人の首に手を当てて魔法を唱えた。



電撃エレキショック



すると、兵士は力を失ったようにその場に倒れた。

その時の音で、部屋を出ている途中だった兵士が部屋の中の異変に気付く。

が、既に遅い。



「貴様!盗賊のクリフ・クロードだな!そこの王女は我々ラグレシェルム王国のものだ!」

「バーカ。こいつは今から俺のもんだ。悔しかったら奪い返してみな!」

「きゃっ!ク、クリフさん!?」



俺は彼女をお姫様抱っこしてから、月明かりの射し込む窓を蹴り破ってそこから脱出した。

あ、ここ何階だったっけ?



「うおおおおおおお!?」

「いやぁぁぁぁぁぁ!!」



実は彼女の部屋はとても高いところにあったことを、今更思い出した俺。

遅すぎるだろ!



って、やばいやばい!



「クリフさん!私、死んでも貴方を恨みません!」

「縁起悪いこと言うな!それと、諦めるにはまだ早いぜ!」



腰にぶら下げていた魔道具『魔拡収納袋』の中から、昔商人から盗んだ『妖精の羽』という道具を使った。

これを使うと、一時的に背中に妖精の羽が生えて空を飛べるのだ。



「あれ?…え?そ、空を飛んでる!?」

「ははははっ!気分はどうだ?」

「は、はい。…最高な気分です」

「そうか」



幸せそうな顔で空から地上を眺める彼女。



「そういえば名前、まだ聞いてなかったな」

「そうでしたね。私の名はソアラ・ティテュールと言います。ティテュール王国の王女でした」

「ティテュール王国の王女か。…まあいいさ。ソアラ、しばらくは俺と一緒に生きてもらうが、覚悟しろよ?」

「はい!よろしくお願いしますクリフさん!」



満面の笑みを浮かべるソアラ。

盗賊をしていて、美少女にこんな笑顔を向けられる日が来るなんて思ってもいなかったな。

…あぁ、盗賊やってて良かった。



俺はゆっくりと、自分の家に向かって空を飛び続けた。

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