プロローグ
俺の名はクリフ・クロード。
こんな大層な名前だが、職業は盗賊だ。
大富豪の貴族や大商人から金を盗んだり、ダンジョンから出てきたばかりのトレジャーハンターから魔導具を盗んだりしている。
危険な仕事だが、儲けは良い。
盗賊は基本的にソロだ。
分け前なんてないから、報酬は全て自分のものになる。
今の俺の財産は、既に国家レベルにまで到達している。
そして今夜もまた、俺は金のために建物に忍び込んでいた。
今盗みに入っているのは王族の住んでいる王城。
つい最近戦争に勝ったこの国…ラグレシェルム王国が敗戦国の相手から国宝級のお宝を奪い取った…と噂が流れている。
俺はその国宝級の宝を奪いにきたのだ。
「おい!王城に侵入者が忍び込んでいるらしいぞ!」
「なんだって!?こうしちゃいられない!王様に報告だ!」
場内の兵士達が慌ただしく動き始めた。
おかしい…こんな夜中に忍び込んだのに、見つかるのが早すぎる。
俺はこれでもかなりの数の仕事(盗み)をこなしてきたベテランの盗賊だ。
そう易々とバレるわけがないのに…。
「まさか…未来予知の巫女か?ちっ、この城にいるってのは本当だったのか」
巫女予知の巫女。
その名の通り未来を予知する能力を持った巫女のことだ。
巫女が見たいと思った時に見たい未来を見ることができるらしい。
その能力でこの城の未来を見て、俺が侵入したことを見抜いたのだろう。
だが、甘いな!
俺はそんなに馬鹿じゃない、こうなれば国宝級の宝なんてどうでもいいさ。
忍び込んだのなら何かしらを持ち去る。
俺は盗賊としての誇りを、プライドを持って最低でも宝を一つ盗むことを心に決めているのだ。
「お?ここの部屋の扉は他の部屋と違って豪華だな。間違いない、ここには宝がある!」
この部屋には国宝級の宝と同等の価値のあるものがある。
俺の勘がそういってるんだ、絶対にあるぞ!
豪華な扉は簡単に開いた。
ラグレシェルム王国ってのは、こんなにも脇の甘い国なのか?
部屋に鍵くらいかけた方がいいぞ?
盗賊の俺が言うのもなんだけどな。
ゆっくりと部屋に入っていく。
もちろん、足音や気配は消している。
しかし、真っ暗で何も見えないな。
「…だれ?リリアン?」
「…っ!?」
な、なんだと!?中に人がいたのか!?
全く気付かなかった…声からして女か?
「リリアン…じゃ、ない?」
「…あぁ、悪いが俺はリリアンとやらじゃないな」
「な、なんで私の部屋に?」
部屋の中央に行くと窓から入る月明かりで薄っすらとベットが見えてきた。
どうやら、声を発している女はベットで寝ていたようだ。
今は上体を起こして、俺の方に顔を向けている。
「この部屋に入ったのは…ここからお宝の匂いがしたからだ」
「お宝…ですか?ここには何もないですよ?」
「…え、まじ?」
「はい、まじです」
月明かりが強くなり、薄っすらと見えていた女の姿がようやく鮮明に見えてきた。
腰まで伸びた銀色の髪、翡翠色の綺麗な瞳、身体の線がスラリとしていて、シャープな輪郭を持った美少女がそこにいた。
「貴方は…本当に盗賊なんですか?」
「え?あ、あぁもちろん!こう見えても俺はかなりの腕を持った盗賊だ。何でも盗むことができるぜ!」
「そ、そうなんですか。盗賊って凄いんですね」
彼女は何故か俺にキラキラとした目を向けてきた。
俺…盗賊なんだけど?
「あ、あの…」
「ん?」
「その、貴方は何でも盗めるんですよね?」
「ああ、何でも盗めるぞ」
「絶対ですか?」
「絶対だ」
「…あの、貴方に頼みたいことがあるんです」
「なんだ?」
銀髪の美少女は目を閉じて胸の前で手を組むと、祈るように俺に言った。
「どうか、私をこの国から盗んでくれませんか?」
「…はい?」
俺はどうやら、とんでもない事に巻き込まれてしまったようだ。