3 誰よりも愛おしい存在
本日3話目。
言いたいことは色々あるでしょうが・・・突っ込みはなしでお願いします
それは僕が10歳になってからすぐのこと。
いつものように編み物をしていた母さんなのだが、どこか朝から様子がおかしかった。
具体的には体調が悪そうに見えたのだ。
「お母様大丈夫?」
馴れないながらも最近になって母さんから「お母様」と呼んで欲しいと言われていたので、恥ずかしさを感じながらも心配して聞いてみた。
「ん?大丈夫よ~。レオンは優しいわね~」
僕が話しかけると母さんは笑顔を浮かべて答えてくれたがどこか無理をしているように見えた。
「お母様。今日の分は僕がやっておくから休んでも大丈夫だよ?体調悪いでしょ?」
「あら?大丈夫よ?ふふ・・・レオンは心配性ね~」
「お母様」
なおも何でもないと言う母さんに僕は真剣な顔で言った。
「お母様が無理をしていることぐらい何年も側にいた僕には分かるんだよ。だからお願いだよお母様。今日は早く休んで・・・それで早く元気になって」
「レオン・・・」
僕の言葉に少し困った顔をした後に母さんはいつものように笑った。
「分かったわ。ありがとうレオン。正直朝から少し気持ち悪いのよ。」
「やっぱりね・・・」
「ふふ・・・レオンは騙せなかったか~」
「当たり前だよ。家族だもん」
「ふふ・・・そうね。じゃあ、レオン。早く終わらせて添い寝してね?」
「・・・分かった」
この年になってもまだお風呂も寝るのも一緒なのはもはや言うまでもないだろう。
まあ、そんなこんなでその日は早く母さんを寝かせることが出来たんだけど・・・翌日も母さんの体調は安定しなかった。
2日も連続で体調を崩すことなど今までなかったので、僕は心配になって村の医者を呼ぶことにした。
きっと単なる風邪とかのはずだと、不安になる気持ちを落ち着かせるために自分に言い聞かせていたが、母さんを診察した後に馴染みの医者の顔が曇っているのを見て心が凍りつく。
「非常に言いにくいのですが・・・」
そう切り出した医者の次の言葉に僕は頭が真っ白になった。
「最近南の方で流行っている病の前兆があります。この病は感染力こそ低いものの、発症からの進行が早くて薬もまだ出来てはいません。体調に異変が起こってから3日・・・いえ、早くて2日で命を落とします。つまり・・・」
止めてくれと心の中で叫ぶ。
この続きを聞きたくはないと。
だが、無情にも時間は止まってはくれない。
「あと2日でお母上の命は尽きるでしょう」
「た、助かる方法は・・・」
震える声で僕はそう尋ねた。
分かりきっているはずの答えなのに・・・
「残念ながら・・・」
「そう・・・ですか・・・」
失意になりながらも僕は苦しげな表情の医者に礼を言って帰って貰ってから母さんの側に寄った。
「レオン・・・聞いちゃったよね?」
「うん・・・・」
「そっか・・・」
「お母様」
「何?」
病気のせいなのか少し苦しそうに見える母さんに僕は抱きついた。
「えっ・・・・レオン?」
「お母様・・・なんで・・・なんでなんだよ・・・」
「レオン・・・」
「なんでお母様が死ななきゃならないの!?なんでお母様だけ・・・なんで・・・なんで僕は一緒に・・・」
「レオン!」
僕の言葉を遮った母さんは僕の体を抱き締めて優しい声を出した。
「ダメよ?一緒に死のうとしちゃ。あなたは生きて」
「でも・・・でもお母様・・・」
「大丈夫よ。私はいなくなるかもしれないけど・・・あなたは一人にはならないわ」
「え・・・・?」
その言葉に僕は顔を上げた。
母さんはどこまでも優しく微笑んでいた。
「確かにこうして抱き締めたり話したりは出来ないかもだけど・・・あなたの中には私の思い出があるでしょ?」
「思い出・・・」
「そう。人と人との繋がりはね、形があるものもあれば目に見えないものもあるの。そして・・・目に見えないもので特に大きな繋がりを持てるのが思い出なの。あなたの中には今まで私と過ごした思い出があるでしょ?だからあなたは一人じゃないわ」
「お母様・・・」
「それにほら・・・私は常にあなたの側で見守っているわよ。なんなら今まで以上にベッタリするわよ?」
悪戯っぽく微笑んだ母さんに自然と笑みが浮かんだ。
同時にその瞳に映る感情に僕は圧倒された。
母さんの瞳には悲しみの色が強く見えたけど・・・それでもしっかりとした決意のようなものを感じた。
だから僕は・・・
「お母様」
「何?」
「大好きだよ・・・お母様・・・」
「うん・・・」
「僕を生んでくれてありがとう。育ててくれてありがとう。愛してくれてありがとう・・・僕のお母様になってくれてありがとう・・・」
「れ・・・お・・ん・・・」
「お、・・・おか・・・さま・・・」
「レオン・・・レオン!大好きよ!愛しい・・・愛おしい息子・・・」
「僕もだよ・・・お母様・・・」
この日僕はこの世に生まれて初めて大きな声で涙を流した。
大切な人との別れを惜しんで。
大好きな母親に抱きついて幼子のように泣いた。
僕には異世界小説の主人公のようなチートはない。
だから母さんを助けることは出来ないし、それは凄く悔しいことだけど・・・ならせめて最後の時まで母さんと一緒にいようと思った。
出来ないことを嘆くことはせずに、今ここにある愛おしい人の温もりを最後まで感じていようと。
そうして僕は・・・初めての母親との別れを経験することになった。