TRUE OR FALSE
最近身体が重い。肩こりも酷い。頭痛までする。
典型的な風邪の症状であるが、熱は無い。当然だ。栄養もちゃんと摂ってるし、睡眠だって問題ない。就寝時間も規則正しければ、帰宅後のうがい手洗いも欠かしていない。そもそも、病にかかる要素は無いはずだ。
となれば、問題があるとすれば生活環境にあるということになる。
ことに、居住という点では私は恐ろしいほど運がないのだ。
以前住んだとある家では、壁紙をはがせば一面お札が張ってあったし、またある家では玄関やら寝室に塩が盛ってあったりしていた。
まあ、お札はいかにもプリンターで大量生産したワンコインで手に入りそうな代物くさかったし、塩だってスーパーの特売品で買ったような物を適当に積んどいただけのようにも感じるが、精神的圧迫には違いないだろう。
さらに今度は、目と鼻の先が寺である。この時点で気が滅入というものだ。その上仕事で上司に怒鳴られた日にはもうどうしようもない。だいたい部長は社員の気持ちがまるで分かっていないのだ。いつも重箱の隅を突付くかのようにネチネチと文句をつけてくる。最近の若者言葉で何て言うんだっけ? ……ああ、そうだ、『KY』だ。本名も佐藤義雄だからイニシャルはKY。ぴったりじゃないか。
閑話休題。
今、私の目の前では、法衣を着たおばさんが何やらぶつぶつ囁いている。なんでも、この家から霊気を感じるのだそうだ。見るからにうさんくさそうである。実際、今まで生活してきて本物の霊能力者なんて奴には会った事がない。頭に『自称』が付く奴には腐るほど会ってきたが、最終的には『インチキ』に変わるのが常である。
そんな婆さんに付き合って、こうして素直に正座している自分の人の良さ(甘さ?)に呆れつつ、私は必死にあくびを噛み殺していた。
それにしても長いな。かれこれ静座して三十分も経つ。いい加減足も痺れてきた。そろそろ抗議でもしようかと思った瞬間、婆さんの声調に変化が感じられた。
呟くような小さい声だったが、段々と音量が増してきた。
クレッシェンドに忠実に、激しく、力強くなる音。
拳を固め、眼を閉じ、奥歯を食いしばって必死に耐えていたが、五分を過ぎたあたりで、忍耐が尽きた。
今ではもう、耳を塞がなければ立ってもいられない程にまでなりつつある。
もう限界だ!
「ババア! おぼえてろよ!」
怒鳴りながら、私は勢い良く飛び上がった。
殺意に満ちた視線にひるむどころか、婆さんは悠然とした態度で私を一瞥し、少し離れたところに青ざめた顔で座っていた妻を見て言った。
「ご主人に憑いていた悪霊が今、外れました」