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第4話 準備

 次の日、昼食を食べ終わったころに佐藤さんがやって来た。昨日言っていたダンジョンの監視小屋を設置するために、設置業者と一緒に現地調査に来たようだ。俺は業者の担当者にあいさつだけすれば、後のことは佐藤さんたちがやってくれるらしい。

 その後、1週間とかからずにダンジョンの監視小屋の設置は完了した。監視小屋は、ダンジョンの入り口を挟んでダンジョンクリスタルと向き合うような位置に設置されていた。見た目は会社の守衛室のようなプレハブ小屋だ。また、電気も引っ張ってきているようで小屋の屋根にダンジョンに向けて照明と監視カメラが取り付けられているのが見えた。

 その間の俺はというと、探索者登録が完了していないこともあってやることがなかったのでダンジョンの監視小屋ができるのを眺めながら普段通りに過ごしていた。


 そして、土曜日になり探索者登録の講習会の受講日となった。探索者登録の手続きは問題なく行われていたようで、直近の講習会の日程で受講案内が届いていた。

 講習会の会場には市役所の会議室が指定されていた。しかし、探索者の数が減っているというのは事実のようで、講習会はまさかのマンツーマンだった。

 探索者の資格は20歳以上でかつ学生を除く男女に与えられているが、想像以上に例の“闇のクリスマス事件”の影響は大きいようだ。資格の取得条件を大学生にまで広げれば探索者の数も増えると思うが、別の問題が出てくるのでダメなのだろう。


 受講した講習内容はありきたりな内容だった。探索者の規則の説明から始まり、攻略時の事前準備の大切さや最近のダンジョン内での事故の傾向からの注意事項の説明、その後にダンジョンへ入退場する際の手続きの仕方と続いて、最後にダンジョンで入手したアイテムの取り扱いについての説明があった。


 探索者の規則や注意事項は基本的に当たり前のことばかりだったが、1点だけ意外な事実が分かった。ダンジョン内では探索者同士の争いができないということだ。規則として探索者同士の争いを禁じているのは当然だが、ダンジョンのシステムとして探索者同士で争おうとしても攻撃が無効化されるらしい。ただ、魔法によるフレンドリーファイアは有効らしいのでダンジョンは個人の思考を読み取っているのだろうか。そんなことを考え、俺はなんとなく恐ろしさを感じた。


 ダンジョンの入退場についてはICカードになっている登録証を使用して管理しているらしい。また、ダンジョンに入る際は退場予定時刻も申請する必要があるらしい。退場時間を過ぎても退場手続きが取られていない場合には捜索隊が組まれるケースもあるそうだ。俺の場合、もしもダンジョンから出られなくなっても探す家族がいないのでしばらく放置されるかもしれない。


 最後のダンジョンで入手したアイテムについては、事前に調べて知っていた通り全て探索者の所有物となるらしい。ただし、金貨や銀貨、ポーション類以外の魔法道具などのアイテムはダンジョンエリアの外で使用することができないので自分で使わないものはダンジョン管理機構に買い取ってもらうのが普通らしい。

 また、アイテムの買い取り金額の資料が配られていたが、上級ポーションの買い取り金額がすごいことになっていた。なんでもアメリカでダンジョンから得られた上級ポーションを使用して植物状態だった人が回復したらしい。まあ、ダンジョンから得られるアイテムはほとんどが金貨や武器でポーションは稀らしいが。ましてや上級ポーションになると少なくとも30階層以上に行かないと手に入らないだろうとのことだ。


 1対1の何とも言えない講習を終えた後、俺は無事に探索者としての登録証を受け取った。登録証はシンプルなデザインで探索者としての管理番号と名前が書かれているだけだった。

 まあ、なんにしてもこれでダンジョンへ挑戦するための資格を手に入れたわけだ。うちのダンジョンを消滅させるのにどれだけの時間がかかるかはわからないが。

 そんなことを考えつつ、久しぶりの座学に疲れていた俺はそのまま外食して帰宅した。



 探索者講習の翌日、俺は隣町にあるダンジョン管理機構のアイテムショップへ来ていた。ダンジョンへ挑戦するための装備を揃えるため、ダンジョン産の武器、防具にどのようなものがあるのかを確認に来たのだ。

 店は隣町のダンジョン近くの雑居ビルの1階にテナントとして入っていた。店の中に入るとすぐに大きな鎧と大剣が飾られた展示スペースが目に入った。この店の目玉商品なのか結構なインパクトがある。

 俺の目的は武器と防具の確認なのだが、まずは武器売り場を探す。どうやらこの店のレイアウトは右側に武器、左側に防具があり、奥側のレジカウンター近くにスキルスクロールや魔法道具となっているらしい。

 武器売り場に移動してみると映画で見るような長剣や大剣、槍、斧といった武器が壁や棚に展示されていた。近くにあった長剣に近づいて商品の説明を読んでみる。どうやらこれはダンジョン産の“魔鉄の長剣”という武器らしい。

 ちなみに魔鉄というのはダンジョン産の金属で魔素を吸収した鉄のことで上位の素材には同じように魔素を吸収した魔鋼や空想金属と言われていたミスリル、オリハルコンがある。これらのダンジョン産の金属については再現しようという試みがされたようだが、うまくいかなかったようだ。そもそも、ダンジョン産の武器、防具については加工が一切できないらしい。手を加えようとすると全く歯が立たないか壊してしまうかの結果にしかならないそうだ。


「武器をお探しですか?」


 長剣の説明を読んだ後、ダンジョン産武器について考えながら隣の大剣の説明に目を向けたところで横から声をかけられた。声をかけられた方を向くと白髪交じりの人のよさそうな顔をした50くらいの男性が立っていた。胸には店長と書かれた名札がついている。


「ええ。昨日探索者になったんですが、ダンジョン産の武器にはどういったものがあるのかと思って確認に来たんですよ。」


「そうですか。この売り場にはダンジョン産の金属製武器を置いています。当店では魔鉄素材と魔鋼素材の2種類しか扱っていないのですが、それ以上のランクをお求めの場合でもお取り寄せという形で対応は可能です。金属製武器以外ですと隣の売り場に杖や弓が置いてあります。」


 店長の言葉に隣の売り場に目を向ける。言葉通り木製の杖や弓が置かれている売り場があった。しかし、俺には魔法のスキルもなければ弓を扱う技術もない。残念ながら隣の売り場には用はなさそうだ。


「魔法のスキルも弓を扱う技術も持っていないので杖と弓はいいです。こちらにおいている武器を持ってみてもいいですか?」


「もちろんです。ですが、本物の武器ですので取扱いには注意してください。」


 俺は店長からの了解を得て、先ほど見ていた魔鉄の長剣を手に取る。手に取ってみるとずっしりとした重さを感じる。軽く構えてみたが長い刀身を少し持て余すように感じる。

 他にも大剣や槍、斧を手に持たしてもらったがどれもしっくりこなかった。素人がいきなり扱ってもケガをするだけだろう。そこでふと思いついたことを質問してみる。


「そういえば、武器のスキルスクロールはありますか?」


 そう、武器のスキルを取得すれば扱いなれていない武器も使えるようになるのではないかと考えたのだ。しかし、期待を込めた俺の質問はあっさりと否定されてしまう。


「申し訳ありません。現在、武器や魔法のスキルスクロールが品薄状態となっておりまして、在庫がない状態なんです。取り寄せようにも1ヶ月はお待ちいただくことになるかと思います。補助系のスキルスクロールであればご用意できるのですが。」


「そうですか。では今回はあきらめることにします。」


 補助系のスキルスクロールであれば在庫があるようだが、スキルスクロールの価格はランクごとに一律で一番低い下級ランクでも120万円とのことなので戦い方も何も決まっていない現状では手を出すのはやめておいた。いくらお金があるからといって、使えるかどうかわからないものに120万円もの大金は使えない。

 ちなみにどういったスキルのスキルスクロールがあるのかを質問すると、店の奥からダンジョン産アイテムのリストを持ってきてくれた。このリストは今までにダンジョンから産出されたアイテムが全て記載されたものらしく、ダンジョン管理機構から定期的に発行されているらしい。すべてのアイテムが書かれているので物によっては在庫がないかもしれないが問い合わせれば確認して取り寄せてもらえるとのことだ。


 ダンジョン産アイテムのリストを受け取った俺は、次に防具売り場に移動した。だが、残念ながらこちらにもめぼしいものはなかった、さすがに金属製の鎧で探索には入りたくない。目当てにしていたレザーアーマーはないのかと聞くと売り切れているらしい。スキルスクロールと違ってこちらは取り寄せれば購入可能だと言われたが、結局防具についても保留することにした。


 やはり、ダンジョン産の武器、防具となると金属製の物が大半となるようだ。インターネットで調べた限りでは布製防具や革製防具もそれなりの数が出ているとあったのだが、これも探索者が減少してしまった影響なのだろうか。レザーアーマー以外にもあわよくば魔法のスキルスクロールを買って魔法を覚えてみたかったのだが。


 特にめぼしい装備を見つけることができなかった俺は予定通り市販品で装備を揃えることに決め、店を後にした。ダンジョンの調査結果で1階層のモンスターがスライムであると聞いたときに考えていたものがあったのだ。

 そう決めた俺は車に戻り、駅前のショッピングセンターへと車を走らせた。



 駅前のショッピングセンターの中を歩きながら目的の店を探す。さすがに日曜日ということもあってすごい人ごみだ。人の流れに乗ってエスカレーター横のフロア案内まで移動し目的の店を確認する。どうやら3階のようだ。

 そのままエスカレーターに乗って3階まで移動してフロアを歩く。

 しばらく歩くと店の前に到着した。店の前には春のスポーツフェアと書かれたのぼりが立っている、そう目的の店はスポーツ用品店だ。


 普段ろくに運動をしていない俺だが、高校までは野球をやっていた。なので俺が扱える武器となる道具を思い浮かべたときに出てきたのが金属バットだったのだ。

 それにダンジョンで出てくるスライムはグミ状の丸みを帯びたタイプで打撃攻撃も有効という話だ。であれば、少なくとも扱ったこともない剣や斧を振り回すよりはよっぽど確実だろう。


 俺は店に入ると商品が陳列された棚の間を抜けて目的の物が置かれたコーナーを目指す。野球用品のコーナーはテニス用品のコーナーを抜けた先にあった。

 金属バットが展示された棚の前に立ち、商品についている説明書きを読んでみるが、さすがにモンスターに対してどれが有効かなどはわからない。仕方がないので店員を呼んでおすすめの品を3本選んでもらった。

 3本のバットを軽く振らせてもらい、感触を確かめる。15年以上のブランクがあったがそれほどひどいスイングにはなっていなかった。

 俺は、3本の中から一番しっくりきた黒のバットを選び、ついでに両手用のバッティンググローブも購入することにした。


 その後、店を出ようとしたところでヘッドライトの展示品が目に入った。店の入り口の右手には登山用品のコーナーがあり、それを見つけたのだ。そこでダンジョン内は薄暗く明かりが必要だと書かれていたことを思い出す。

 会計を終えた後で申し訳なく思いながらも、俺は再び店員を呼ぶ。そして、明るく長持ちするヘッドライトとヘルメットを選んでもらった。「夜間歩行にも最適ですよ」とは選んでくれた店員の言葉だ。

 結局、バット、バッティンググローブと合わせて3万円ほどの出費となった。


 スポーツ用品店での買い物を終え、ダンジョンに挑戦するための準備を終えた俺は特に寄り道することなく家へと帰った。そして、明日からのダンジョン挑戦に向けて英気を養うため、いつもより早く眠りにつくのであった。


ダンジョンに入るくらいまでは毎日更新にしたかったのですが、内容を確認したところ修正が必要でしたので断念してしまいました。

今後は週に2、3回の更新を予定しています。


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