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ダンジョンのある風景  作者: はぐれうさぎ
第2章

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第16話 お試し挑戦

「達樹さん、急な話で申し訳ないですが、よければ明日にでもパーティーを組んでダンジョンに入らせてもらえませんか?」


 土曜日になり、いつもの稽古を終えて休憩しているタイミングで美冬ちゃんに声をかけられた。


「明日?別に構わないけど、確かに随分と急な話だね。何かあったの?ダンジョンに行けるくらいまで落ち着くのは、もう少し先かと思っていたけど。」


「いえ、大した理由ではないのですが、最近少しストレスが溜まってきたのでダンジョンで発散したいなと思いまして。」


 詳しく聞いてみると、どうやら引継ぎを行っている後任の子とあまり相性が良くないらしい。

 加えて、まわりの人間もその新しい子が若いからと色々と口出ししてきたりして鬱陶しいらしい。まあ、口出ししてくるのは男性社員だけで、女性社員に関しては同じように閉口しているらしいが。



「まあ、俺は基本的に毎日ダンジョンに通っているから、美冬ちゃんが構わないのであれば別にいいよ。ちなみに、ダンジョンに行くのは明日単発?それとも、今後は毎週入ってみる感じ?」


 一通り話を聞き終え、こちらとして聞いておきたいことを確認しておく。

 別に明日だけの単発でも問題はないが、出来れば来週からも続けてダンジョンに付き合ってくれるとありがたい。正直、ダンジョン挑戦に関しては若干停滞気味なので、課題なり何なりが見つかると助かる。


「そうですね、できれば来週からも同じように日曜だけでもダンジョンに入らせてもらえればと思います。退職や引越関係の諸々が片付いたわけではないですけど、日曜日くらいならどうにかなると思いますし。」


「わかった。じゃあ、俺もそのつもりでいるよ。」


 その後は明日の予定を話し、龍厳さんからなんともいえない視線をもらいつつ帰ることになった。






 翌日の午後、約束どおりの時間に美冬ちゃんが家を訪ねてきた。

 さっそくダンジョンに入りたいという彼女の言葉にしたがい、そのままダンジョンへと向かう。



「達樹さん、今日はよろしくお願いします。」


「ああ、こちらこそよろしく。一応、入る前に簡単に確認だけしておこうか。」


 お互いにダンジョンへ入るための装備を身につけ、入り口の前に立ったところで言葉を交わす。

 家のダンジョンの第1階層程度でどうこうなるとは思わないが、さすがに何の打ち合わせもなしにダンジョンに入るのも違うだろう。

 そういうわけで、お互いの装備を確認しあう時間をとることにした。



「そういえば、一般的な探索者の装備というのを知らなかったんだけど、みんな美冬ちゃんみたいな装備を使っているの?」


「そうですね、基本的に私みたいな週末探索者は似たような装備を使っていることが多かったと思います。全身をダンジョン産の装備で固めているような人は、どこかの企業の支援を受けている人だったり、専業でかなり奥の階層まで進んでいる人たちくらいですね。達樹さんもそうじゃないですか?」


「まあ、そうだね。さすがに全身の装備を揃えようとすると結構な金額になるしね。」


 確認した美冬ちゃんの装備は、胸当てとブーツだけがダンジョン産の装備という俺と似たような装備だった。まあ、俺みたいにゴテゴテと投擲用の装備を身につけていないので、見た目的にはかなりすっきりしているが。


「それにしても、刀じゃなくて長剣なんだ。」


「あっ、はい。刀を用意するのは難しくて。」


「そうなの?ダンジョンが出来てから刀の生産量が増えたとかいうニュースを見たような気がするけど。」


「あー、確かに一時的に増やされたみたいなんですが、やっぱり刀もダンジョン産のものじゃないとちゃんと使えないんですよ。一応、ゴブリンみたいなタイプであれば、普通の刀でも充分に通用するんですけど、固いモンスターになるとまともに切ることが出来なくて。」


 ああ、まあ普通の刀だとそうなるか。俺が使っていた金属バットもあっさりと折れ曲がってしまったしな。


「やっぱり、ダンジョン産のものは高いの?」


「高いですね。探索者の初期スキルに“刀”が出る人はそれなりにいるそうなんですが、それと比較すると全然足りていないみたいですから。宝箱やドロップで手に入る確率的には、剣装備が出る確率の10%もないんじゃないですか?」


「なるほどね。そういえば、探索者支援の貸し出し品に刀は入ってないの?」


「残念ながらなかったです。自衛隊の中には“刀”スキルを持つ人も多いらしいですし、外部にまで回す余裕はないんじゃないですか?」


「刀を使う人が多いのであれば、等級の低い装備とかが余っていそうなものだけどね。それすら出来ないほど数が少ないのか。」


 自衛隊のダンジョン対策チームの中であれば、装備も潤沢にあるのかと思っていたのだが、物によってはそうでもないのかもしれない。

 それこそ、胸当てだったり、ブーツだったりという汎用的な装備は数があるのだろうが、刀みたいな特殊な武器は厳しいのだろう。


「……それにしても、達樹さんはすごい装備ですね。」


 少し考え込んでいたら、美冬ちゃんから呆れているような、引いているような微妙な口調でそんなことを言われる。

 ……まあ、見た目がアレなのは否定できないな。

 自衛隊の巡回チームだったり、佐藤さんだったりに指摘されないから気にしていなかったが、改めて確認するとかなりゴテゴテした装備になってしまっているし。


 ソロでダンジョンに挑戦するのであれば、色々と手札があったほうが良いかと思って色々な種類の投擲物を用意していたが、これを機に見直してもいいのかもしれない。

 最近は、ばら撒く用の小石とパチンコ玉、遠距離からの硬球くらいしかまともに使っていない気もするし。


「まあ、装備の確認は特に問題ないかな。実際の戦い方については、一度美冬ちゃんに戦ってもらってから改めて相談しよう。」


 内心で装備の見直しを決め、ダンジョンへ入ることを提案する。

 気を遣ってくれたのか、美冬ちゃんも装備の指摘をスルーしたことについては特に触れることなく同意してくれた。






「どう?周囲の様子はちゃんと見える?」


 第1階層へと続く階段を下りきったところで、美冬ちゃんに確認する。

 挑戦を繰り返すうちに慣れてしまったので俺はこのうっすらとした明かりの中でも普通に行動できるが、美冬ちゃんもそうだとは限らないからな。


「大丈夫です。これくらいの暗さであれば他のダンジョンで経験したことがあります。」


「そうか。じゃあ、特に気にせずいつもどおりに進むことにするよ。もし、無理そうなら言ってくれ。」


「わかりました。」


 そんな会話を交わし、ダンジョンを進みだした。



「うん?グリーンスライムがいるな。」


 通路を進み、手前の大部屋へと通じる曲がり角を曲がったところで足を止める。すると、少し後ろを歩いていた美冬ちゃんが追いついて、声をかけてきた。


「どうしました?……って、スライムですか。」


「うん、スライムがいたんだけど、美冬ちゃんが倒してみる?一応、向かっている大部屋にはたくさんいるはずだけど。」


「いえ、スライムは初めてなので、試しに倒させてください。」


 そう言う彼女にスライムを任せることにし、横にずれて道を譲る。

 それを受けて、美冬ちゃんは長剣を構えてスライムへと近づいていった。



「……。」


 まあ、予想できたことではあるが、戦闘は一瞬で終わった。

 ダンジョンに入る前に確認した彼女のレベルは14。気付けば俺のほうがレベルが上になっていたようだが、それでも俺より1つ下でしかない。

 であれば、グリーンスライムの一匹程度、一撃で難なくしとめてしまえるだろう。


「地面近くにいて攻撃しにくい以外は問題なさそうですね。」


「まあ、このダンジョンで最弱のモンスターだからね。」


 歩み寄る俺に気付いた美冬ちゃんの感想にそう返し、改めて大部屋へと向かいだした。






「多いですね。」


 大部屋の前へと到着し、部屋の中を確認した美冬ちゃんがつぶやく。


「まあ、所詮はスライムだけどね。ダンジョン産の防具も装備しているし、気をつけるのはレッドスライムの魔法だけでいいと思うよ。」


「レッドスライムもいるんですね。」


 そこまでは確認できていなかったのか、そんな呟きが返ってくる。

 まあ、部屋の中は結構な広さがあるし、奥にいたのであれば見逃すこともあるかもしれない。


「それで、どうする?ストレスを発散したいって言っていたし、美冬ちゃんが全部を相手してみる?それとも、2人で連携を試しながら相手してみる?」


「……そうですね、できれば一度私だけでやらせてもらえませんか?連携を試すにしても、一度私の戦い方をしっかりと見てもらったほうがいいと思いますし。」


 まあ、それもそうか。一応、さっきの通路でもグリーンスライムとの戦闘を見たけど、あれだけじゃ正直判断できないしな。


「一応、問題がなければ第2階層にも行ってみるつもりだけど、どうする?そっちは、小部屋でコボルトとインプを相手にすることになる形だけど。」


「……いえ、この部屋を私に担当させてください。第2階層については達樹さんの戦い方を確認させてもらうことにします。」


 少しの逡巡の後、そんな答えが返ってくる。

 今日の探索については、美冬ちゃんの希望を優先するつもりだったので特に反論ははない。


「じゃあ、とりあえずはそういう方針でいこう。ちなみに、俺は“投擲”のスキルも持っているけど、それを使った援護はどうする?」


「いえ、最初は援護なしでやらせてください。」


「そう?魔法の妨害も必要ない?」


「はい。魔法に対する対応も確認しておきたいですから。」


「わかったよ。じゃあ、本当に危なくなるまでは手を出さないことにするよ。まあ、無防備な状態で魔法を立て続けに食らわない限り、そんなことにはならないだろうけど。」


 そう言って、戦闘前の確認を終える。

 一呼吸置いて、準備を終えた美冬ちゃんが大部屋の扉を押し開き部屋の中へと入っていく。

 それに続くように、やや遅れて俺も大部屋へと足を踏み入れた。


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