第10話 トロール戦
やや長めです。
結局、3日ほど新しいメイスと盾の慣らしに時間を費やした。いや、ほとんど盾の扱いをどうするかという感じだったが。
で、迎えた今日、いい加減に新装備とダンジョン閉鎖によるブランクを埋めるための慣らしを終えて、次へと進むつもりだ。
そう、トロールがいる第2階層の大部屋へと挑戦するのだ。
というわけで、今日は寄り道することなく、最短コースで第2階層の大部屋へと向かう。
さすがに、道中で一度もモンスターに出会わないという幸運に恵まれることはなかったが、グリーンスライムとコボルトが数匹だったのでコンディションには影響がない。
「さて、と。危なげなく倒せるといいんだが。」
扉の前で気合入れなのか愚痴なのかわからない言葉を発して大部屋の扉へと手を伸ばす。
なんとなく、未踏領域へと進む際に扉の前で一呼吸置くのが定着してしまった気がする。別に不都合なんかはないんだが、パーティーを組んだ際に美冬ちゃんから何か言われれるかもしれない。
そんなことを考えながら扉を開く。
薄く開いた隙間から部屋の中をのぞくが、近くにモンスターはいないらしい。それを確認して静かに部屋の中へと入った。
改めて部屋の中を見渡してモンスターの位置を確認する。
トロールは2体とも中央のやや奥におり、その周囲にコボルトとインプが集まっている。コボルトが10匹にインプが3匹のようだ。それ以外のモンスターは、コボルトが4匹ずつのグループに分かれて部屋の手前側と奥側にいた。
配置としては、昨日の下見で確認したときと同じらしい。
昨日は、小部屋のコボルトたちを倒した帰りにトロールに一当てしてみようかと大部屋に挑んだんだが、手前のコボルトを少し狩っただけで撤退することになった。トロールたちの反応が予想以上に良くて早々に囲まれそうになったからだ。
さすがにダンジョン挑戦帰りの様子見でトロールたちに囲まれるような戦闘をしたいとは思わなかった。なので、今日改めてこの大部屋を目的としてダンジョン挑戦に挑んでいるというわけだ。
「さて、まずは手前のコボルトからだな。」
そう口に出して、手前のコボルトたちへと向かう。
右手のメイスをリュックに追加したホルダーへと固定し、小石をつかむ。
コボルト相手であればやることは変わらない。テキトーに小石でけん制しつつ距離を取りながらチクチクと削っていくか、メイスの二刀流で一気にせん滅しにかかるかだ。
ただ、昨日の様子見でわかったことだが、手前のコボルトたちを相手にするだけでトロールたちに気づかれる。
取り巻きのコボルトとインプは興味なさげな感じなんだが、トロールは叫び声をあげて向かってくる。昨日の確認の後にネットで調べたが、トロールはやはり好戦的なモンスターらしく、しかも知能があまりよろしくないので侵入者に対して馬鹿みたいに一直線に向かってくるらしい。
まあ、そのせいでパーティーを組んでいれば交互にヘイトを稼ぐことでハメ倒すことも容易らしいのだが、あいにくと俺はソロでやっている。馬鹿正直に向かってくる相手に対して、1人で対応しなければならない。
だが、トロールは遠距離攻撃を持っていないらしいので、取り巻きのコボルトとインプを片付けてしまえばどうにかなるだろうと思っている。まあ、いざとなれば撤退するが。
コボルトたちの索敵範囲に入る手前で手にしていた小石を投擲する。気を引くための山なりな軌道ではなく、ダメージを狙うような水平の弾道だ。所詮は小石なのでダメージは推して知るべしという感じだが、気合の問題だ。明らかに前座とわかっている奴らに時間を使うつもりはない。一気に片付ける。
小石を投げ終わると同時にホルダーからメイスを抜き取り、コボルトに向かって駆け出す。
この時点でコボルトたちに気づかれるが、問題はない。こいつらの実力はこの3日間で把握済みだ。小石が当たって一時的に硬直している隙をついて両手のメイスで近い奴から手当たり次第にダメージを加えていく。そのまま駆け抜け、少し距離を取ったところで切り返して再びコボルトへと突っ込む。
「グオォォオォォ!!」
数度繰り返したところで、部屋の奥からトロールの雄たけびが聞こえてくる。
昨日に比べると気づかれるまでに時間がかかったようだが、それでも手前のコボルトたちをせん滅するには至っていない。まあ、そろそろだとは思うので、昨日のようにトロールたちに囲まれた状態で倒すようなことにはないだろう。そのためにメイスの二刀流で一気に畳みかけているのだし。
切り返しのタイミングでトロールへと目を向ける。余裕なのかそういう生態なのかは知らないが、トロールは走ることなくノッシノッシと歩いている。周囲のコボルトやインプであれば先行できるとは思うんだが、そういう行動はとらないようだ。周囲を固めるように速度を合わせている。
「まあ、都合がいいからいいんだけどな。」
そうつぶやき、目の前のコボルトたちに意識を戻す。切り返す前の最後の一撃で1匹倒せたようなので、残りは3匹。恐らくトロールたちが合流する前に倒し切れる。
最後の1匹になり、改めてトロールたちとの距離を確認するとかろうじて一息つけそうなくらいの距離があった。そのことに安堵しながら、最後の1匹へと殴り掛かる。さすがに1対1となった状況であれば、足を使ってかき回す必要もない。真正面から一気にメイスで攻撃を加えていく。
すると、メイスが2往復もすることなく、早々に光の粒へと変わっていった。
「!?」
トドメを刺して一息ついた直後、トロールたちの方へと顔を向けた瞬間にそれが目に飛び込んできた。
文字通り飛んで向かってくるコボルトたちの姿が。
「コボルト投げんのかよっ!」
急いで体の向きを変え、後ろに飛び下がるようにしながら両手のメイスでコボルトを受け流す。
だが、相手は物ではなくコボルトだ。受け流す程度の対応では不十分だったらしく、左右それぞれのコボルトから爪による攻撃を食らってしまった。
「くっ。」
ダメージによる軽い衝撃に声を漏らすが、視界の隅に表示しているステータスによればダメージは軽微だ。この程度の攻撃であれば100回食らっても俺が倒れることはないだろう。
その事実に冷静さを取り戻す。
トロールたちは順調に距離を詰めてきているが、まだ距離がある。まずは飛んできたコボルトたちからだ。
そう方針を定め、左右に弾いたコボルトたちの位置を確認し、攻撃へと移る。当然、トロールたちを警戒できる位置取りをすることも忘れずにだ。
そうやって飛んできたコボルトへの対処を進める。だが、その最中にも追加で2匹のコボルトが飛んできており、さらにインプまでもが参戦してきた。
そして、ダメージは与えらたものの、倒すことはできない状態で、トロールが合流してしまった。
「グオォォオォォ!!」
先ほどとは違う至近距離からの咆哮に耳をふさぎたくなるが、そんな隙を見せることはできない。
「ちっ、仕方ない。」
そうこぼして、俺は方針を変更する。
トロールたちが合流するまではあまり足を使うことなく攻撃を優先していたが、囲まれるほどの数になると話は別だ。いつも通り、足を使ってかき回して少しずつ削っていくしかない。
だが、あいにくとトロールから距離を取るように戦いを進めていたせいで、今の立ち位置は扉近くの壁際となっている。つまり、壁とモンスターたちに囲まれているような状態だ。
まずはここを突破しなければどうしようもない。
狙うは攻撃を受けてもダメージが軽微なコボルトたちの場所、かつトロールから遠い位置を狙う。といっても、トロールは敵の中心に位置しているので、左右のどちらかを抜くことになるんだが。
素早く左右を見比べ、数の少ない左手に向かって駆け出す。ダメージ覚悟で、左手のメイスを小石に持ち替えた上でだ。
小石をばらまき、隙の大きな場所を選んで駆け抜ける。それでも抜けるときに少しダメージを食らったが、無事にモンスターたちの囲みを抜けることができたので問題ない。
一瞬、すぐに切り返すという選択肢が頭をよぎったが、駆け抜ける先の広さがないことからすぐに却下した。なので、とるべき戦法は遠距離からの投擲だ。ある程度部屋の中心近くまで引き寄せることができれば、再び足を使った攻撃もできるようになるだろう。
その考えのもと、ある程度の距離まで走り、右手のメイスを収納して硬球を手にコボルトたちへと狙いをつけた。
「ひとまずどうにかなったか。」
結論から言うと俺のとった戦法はバッチリとはまった。トロールが明らかにコボルトやインプと連携を取れていなかったので、第2階層の小部屋と同じようなやり方であっさりと片付いたのだ。
途中でコボルトが飛んできたりということはあったが、違いはその程度だ。トロールとの距離に気を付けていればそれほどの脅威にはならなかった。
ただ、問題はここからだ。
お付きのコボルトとインプはあらかた片付けることができたが、すべてを倒し切ったわけではない。まだ、コボルトが3匹とインプが1匹残っている。ちなみに、気づいたら部屋の奥にいたコボルトたちも合流していたので、文字通り最後の数匹である。
さすがにこれ以上、トロールと距離をとりつつ安全に削っていくのは難しいだろう。いや、時間をかけて慎重にやればできるのかもしれないが、どれだけかかるか分かったものではないので却下だ。それに、自分の実力を把握するためにもある程度はまともにやりあっておく必要もあるだろう。
「さて、気合入れなおさないとな。」
少し距離のある場所からゆっくりとこっちに向かってくるトロールたちを見つめる。というか、周りにいたコボルトとインプがほとんど倒されたのに随分と余裕があるように見える。トロール的にはコボルトとインプは戦力として認識していないのだろうか?
まあいい、基本はさっきまでと同じで残ったコボルトとインプの排除だ。トロールにも近づかざるを得なくなるので、隙があれば攻撃を加えるつもりではあるが、あまり期待はできないだろう。
どうにかして、トロールの攻撃をかいくぐりながら削っていくしかない。
そう決意して向かってくるトロールたちへと駆け出した。
「ふう。」
トロールの周囲にいたコボルトとインプを倒し切り、距離を取って一息つく。
さすがにトロールの攻撃をかいくぐりながら攻撃を加えるのは神経を使った。だが、これで残ったのはトロール2体だけ。
ようやく、本来の目的であるトロールを相手にすることができる状況になった。
相変わらず、走ることなくゆっくりと距離を詰めてくるトロールを視界に収めながらステータスのHPを確認する。
「HPは問題なさそうか。」
さすがにダメージなしとはいかないが、お供のコボルトたちを倒すまでに食らったダメージはおおよそ1割といったところ。ダメージ量的には気にする必要はない。
ただ、コボルトとインプからはカスダメージしか食らわないので、そのことを考えると攻撃自体は結構な数をもらっているのかもしれない。多数を相手にする以上、ある程度は仕方ないのかもしれないが、今後この大部屋を中心にレベル上げをすることを考えるとそのあたりは課題になってくるだろう。
まあ、まず目の前のトロールたちを倒さないことには課題も何もないが。
徐々に距離を詰めるトロールたちの攻撃範囲に入る少し手前、10メートルほどの距離になったところで右側のトロールに向かって駆け出す。
トロールが反応して丸太を振るってくるが、左手に装備したラウンドシールドでそれを受け流す。
「くっ、重い。」
正面から打ち合うことを想定して装備をメイスと盾の組み合わせに変更していたが、予想通りトロールの攻撃はかなりの威力だ。
だが、威力があるとはいえ、ストーンゴーレムの攻撃と同等程度だろう。そうであれば、どうにかすることは可能だ。
受け流すために止めた足を動かし、もう一体のトロールに対して死角になるよう右側へと回り込むようにしてトロールの懐へ潜り込む。
そこにトロールが丸太を持っていない左手で拳と作り攻撃を加えてくる。
それを左手の盾で殴り返すようにして受け止める。
さすがにはじき返すことはできなかったが、攻撃を止めることはできた。そのまま、右手のメイスでトロールの脇腹を殴りつける。
「!?」
まともに攻撃が入ったはずだが、トロールはそれを気にすることなく今度は足を使って蹴りを放ってきた。
それをバックステップでかわし、そのまま後ろに下がって距離を取る。
分かってはいたが、やはりトロールは相当にタフなようだ。
しかも、事前に調べた情報が確かであれば“HP自動回復”のスキルもあるそうだから、その厄介さはかなりのものだろう。
一応、コボルトたちを削る際に何度かダメージを入れているはずだが、恐らくそれらのダメージは回復しているはずだ。
「まあ、嘆いたところで現状が変わるわけでもないし、動いていくしかないんだけどな。」
あいにくと遠距離からの投擲が効かないことは確認済みなので、メイスで直接ダメージを与えていくしかない。
おそらく、硬球や砲丸であればダメージは入るのだろうが、普通に手に持った丸太で弾かれてダメだった。小石については、複数をまとめて投げると当てることができるが、ダメージが通っている様子がなかった。
なので、やはり地道に足を動かして削っていくしかないのだ。まあ、いつも通りといえばいつも通りなので気にしてもしょうがないだろう。
攻撃手段を増やすための“投擲”スキルだったはずではあるが、効かないものはしょうがない。
「はっ!」
もう何度目かもわからない攻防で気合とともにメイスを振り下ろす。
最初の攻撃から今まで、ほとんどやり方を変えることなく攻撃を仕掛けているのだが、何故か不気味なくらいにうまくいっている。
タイミング次第では手に持った丸太で防がれることもあるのだが、8割くらいはうまく攻撃を加えることができている。
自身の防御力を信じて余裕を見せているのかとも思ったが、少し前から重点的に攻撃していた足に明らかなダメージが見えてきたことからそういうわけでもないのだろう。
「まさか、本当にただバカなだけなのか?」
再び距離を取ったところで、ふとそんな考えが口から出るが、実際、そうとしか思えないほどトロールの動きは単調だ。
特に走るでもなく、ゆっくりとした速度で距離を詰め、近づいたところで丸太による攻撃を加える。距離が近くなった場合は、腕や足による攻撃も加えてくる。
だが、本当にそれだけだ。
コボルトが残っていたころは、コボルトを投げつけるなんてことをしてきたが、いなくなった今はそういう攻撃はない。
かといって、2体いるトロールが連携をとってくるかというとそういうこともない。
むしろ互いに攻撃が当たらないように配慮しているせいで、邪魔になっているくらいだ。
……つまり、なんだ、要は攻撃力と防御力が高いだけのモンスターということか?
「くっ。」
余計なことを考え過ぎた。気づいたときには既にトロールの丸太の圏内にまで近づかれていた。
どうにか盾で受けることができたが、今までのように受け流すということはできていない。
結構な衝撃を受け、後ろへと飛ばされる。
しかも相手にしているのは1体だけではないのだ。もう1体のトロールが距離のある場所から丸太を投げつけてきた。
「ちょっ!?」
盾とメイスで受け止めようとするが、丸太の速度が速すぎる。どうにか直撃を避けるのが精いっぱいだった。
丸太による衝撃で体勢を崩したところを、距離を詰めていたもう一体が再び丸太を振りかぶって攻撃してくる。
ここにきて連携をとってくるとは厄介なことこの上ない。まさか、さっきバカだとつぶやいたのが聞こえていたのか。
そんなことを考えつつ、今度は落ち着いてしっかりとトロールの攻撃をさばく。
だが、攻撃をさばいている間にもう一体にも距離を詰められ、トロールに左右から挟まれた状態になってしまった。
救いはもう一体が丸太を回収していないところか。無手になっている分、リーチが短くなっている。
まあ、3メートルを超える巨体なので無手であってもこちらよりもリーチは長いのだが。
とにかく、左右から繰り出される攻撃を無心でさばいていく。
左手のトロールのパンチを盾でいなし、右手のトロールの丸太をメイスで弾く。
数度繰り返したところで、こちらも多少の余裕を取り戻す。
どうやら、丸太を持つトロールの方が大ぶりな分だけ攻撃と攻撃の間の隙が大きいようだ。
それがわかったことで、この状況を抜け出すために右手のトロールを抜くことに決める。
だが、現状ほぼ一方的に攻撃されている状態なので、慎重にタイミングを計る必要がある。
攻撃を弾くタイミングや方向を調整しながら、突破するための隙を待つ。
こういったことができるようになったのは龍厳さんのしごきのおかげだろうか?
稽古中は龍厳さんの動きに対処することもできず、動きを追うことすら厳しかったが、ダンジョン内のステータス補正を受けた今はトロールたちの動きが良く見える。
さらに数度攻撃をいなしたところで、待ちに待った瞬間が訪れる。
トロールたちの連携がわずかに乱れて2体の攻撃が重なった瞬間、そのタイミングを逃さずに右手のトロールの丸太をもう一体の方へ流れるように思いっきり叩いて弾き飛ばす。
狙い通りにトロールたちの動きが乱れた隙を突き、右手のトロールの横を一気に走り抜ける。
トロールからのバックブローのような攻撃が後ろから飛んでくるが、前方に飛び込むように転がりそれをかわす。
すぐさま体勢を立て直してトロールたちから距離を取る。
このあたりの身軽さは壁走りの恩恵だろうか。そんなことを考えながらこちらへと振り返るトロールたちを見つめる。
「ふぅ。」
再び、ゆっくりと距離を詰めてくるトロールを見ながらゆっくりと息を吐く。
さっきのような油断はしない。そう決意してメイスと盾をしっかりと握りなおした。
仕切りなおした後の戦闘は予想以上にあっさりとケリがついた。いや、トロールたちがタフだったので相応に時間はかかったが。
それでも問題といえるようなものは、その時間がかかったということくらいだ。
「さて。」
そうつぶやいて、目の前に鎮座する物を見つめる。トロールたちを倒したことで出現した宝箱だ。
最近はストーンゴーレムの相手をしていなかったし、ダンジョンの封鎖があったこともあってかなり久しぶりに感じる。
「当たりだと良いんだが。」
そう口に出して蓋を開ける。
「……まあ、そう都合よくはいかないか。」
宝箱の中に入っていたのは銀貨が5枚。残念ながら外れに分類されるものだった。
ダンジョンの更新が発生してから初めての宝箱だったわけだが、結果はいつも通りといったところか。
何もなしというよりはマシだというのはわかっているが、ダンジョンの更新があったのであれば、宝箱の中身も良くしてほしいところだ。
まあ、テレビやインターネット上の情報からそういう変化がないということは知っていたが。
「しかし、どうしたものかね。」
腕時計に目をやってつぶやく。
正確な時刻は覚えていないが、この大部屋に突入してからだいたい1時間近く経過している。ダンジョンに入ってからだと1時間半くらいだろうか。
そして、ステータスのHPに関しては6、7割といったところ。
時間的にもHP的にもある程度余裕はあるが、ここからどうしようかという話だ。
一応、当初の目的である大部屋の攻略は成功しているので、帰還するというのもアリではあるんだが……。
「まあ、確認だけしておくか。」
結局、そういう決断をすることになった。
入ってきたのとは違う扉を使い大部屋から出る。扉の先はいつも通りの通路だ。まあ、こんなところで通路の外観を変えるなんていう無駄なことはしないだろう。
ただ、稀に部屋の次にも部屋があるなんていうダンジョンも存在するらしいので警戒は必要だろうが。
まあ、そっちも自衛隊のチームから特に注意を受けていないので少なくとも第3階層までは問題ないと思われる。
「罠か。」
一本道の通路を進み、曲がり角を左に進んだ先にそれはあった。
違和感を感じるのは床。
小部屋の前にあったような落とし穴だろうか?そんなことを考えながら慎重にメイスで床を調べていく。
「!?」
膝をつきながらゆっくりと前に進みつつメイスで床を叩いていると、いきなり目の前に大量の針が生えた。
鉄の針山。
およそ1mほどの高さの針が目の前の通路を埋め尽くしていた。
「針山の範囲が狭くて助かった……。」
メイスを使って目の前に並ぶ針山を叩きながらこぼす。
膝をついていたときには、目の前を埋め尽くすように針山が飛び出してきたように思えたが、落ち着いてから立ち上がって確認してみると、通路の幅いっぱいを埋め尽くしているものの前後の幅は1m程度といったところだった。
仮にこれが倍以上の幅を持つものであれば、俺の身体を針が貫いていたことだろう。ダンジョン産の防具を装備しているので即死するようなことはないはずだが、結構なダメージになったはずだ。
「……壁走りを使えば先に進むのは難しくないが。」
針山の高さが1mで奥行きも1mほど。
であれば、何の問題もなく壁を走って超えることができる。
できるのだが――。
「帰るか。」
結局、罠による大ダメージを負いそうになったことに精神的な疲れを覚え、撤退することに決めた。




