第6話 訓練と分かれ道の先
短めです。
ダンジョンに入る前に装備を確認する。
昨日買ってきた特殊警棒は、左右の太ももにホルダーを括り付ける形で装備している。常に手に持ったままにするのではなく、必要に応じて使用する予定だ。
先のことはわからないが、今はまだ“投擲”スキルのために片手を空けた状態にしておきたい。
装備に問題ないことを確認してダンジョンへと足を踏み入れる。
多少歩きにくくなるかもと思っていたが、すでに小石用のビスカップを太ももに着けていたので特に影響を感じることはなかった。
第1階層の正規ルートを外れ、以前レベル上げに利用していた大部屋を目指す。
特殊警棒を使った二刀流について、まずは第1階層のスライムたちで試したい。恐らくは、第2階層の小部屋でも問題ないだろうとは思うが、できるだけ余計はリスクは負わないようにしたい。
「相変わらず多いな。」
静かに部屋の中に入ると、ポンポンと飛び跳ねたり、転がったりしているスライムたちの姿が目に入る。いつも通り、ただ部屋の中に入るだけではこちらを認識しないらしい。
ゆっくりと部屋の中を見回して最初のターゲットを探す。
レッドスライムやブルースライムは部屋の奥の方に固まっており、手前側にはグリーンスライムがいくつかのグループに分かれている。
まずは特殊警棒の手ごたえを確認したいので、無難に1番近くにいたグリーンスライムのグループに狙いを定める。
小石を投げて気を引いたグリーンスライムたちが近づくのを眺めながら、右手で特殊警棒を抜く。そのまま勢いよく振り出すと、問題なく特殊警棒が展開された。やはり、ダンジョン内のステータスであれば難なく展開できるらしい。
奥にいる他のスライムたちにも気を配りつつ、グリーンスライムへと近づく。
飛びかかってきた最初の一体を特殊警棒で受け止めるが、特に問題はないようだ。
続けざまに飛びかかってくる他のグリーンスライムも同じように右手の特殊警棒であしらっていく。
スライムたちが2、3巡したところで、今度は攻撃に回る。
飛びかかってきたスライムたちに合わせて特殊警棒を叩きつけていく。
さすがにメイスのように1撃ということはなかったが、2発も叩き込めばグリーンスライムたちは光の粒となって消えていった。
「バランスが悪い。」
一度扉近くまで戻り、先ほどの感想を口に出す。
とりあえず、本来想定してい使い方である特殊警棒で相手の攻撃を捌くというのは問題なさそうだ。グリーンスライムが相手ということでどこまで参考になるかわからないという懸念はあるが、扱う感覚としては問題ない。
問題は攻撃の方だ。まあ、これも使い方が悪いだけな気もするが、左手にメイスを持った状態で右手の特殊警棒で殴りかかるのは長さ的にバランスが悪かった。
バランスというだけであれば、特殊警棒の両手持ちでもいい気がするが、メイスよりも攻撃力が落ちることは確実なのでやはり予備の域を出ないだろう。
「……。」
なんとなく、左手に持ったメイスを見る。
特殊警棒だけの場合、どの程度戦えるのだろうか?ふとそんなことを考えてしまった。
「まあ実験だしな。」
メイスを壁に立てかけ、特殊警棒を両手に持って次のスライムたちのもとへと向かった。
「金属バットより上で、メイスよりも下って感じか。」
レッドスライムたちを含めて、大部屋にいたスライムたちをせん滅してみた。
メイスと比べると攻撃力が落ちるようなので相応に時間がかかってしまったが、金属バットを使っていたころとは比べ物にならないほど早く終わっている。
おそらく“メイス”スキルによる補正で金属バット以上の攻撃力になっているのだろう。当然、レベルアップしてステータスが上がっていることも影響しているのだろうけど。
それに、単純に手数が倍になっている効果も大きいはずだ。一部防御に使っているとはいえ、スライム程度であれば両手の特殊警棒でメッタ打ちということも可能だった。
とりあえず、特殊警棒の二刀流であれば左右のバランスに問題ないことが分かったのでそれはよかった。
ただ、これで攻撃しようとすると長さが足りないという問題があったが。メイスの半分とまでは言わないまでも三分の二程度の長さしかないと、敵との距離が近くなってしまう。まあ、これも慣れかもしれないが。
特殊警棒が予備の武器としては問題なさそうということが確認できたので、通路を戻って第2階層へと向かう。
まずは前回確認できなかった分かれ道の確認だ。
第2階層に入って最初の分かれ道を直進すると、少し進んだ先に扉が現れた。扉の周囲にモンスターや罠がないことを確認してから、ゆっくりと扉を開いて中を確認する。
「広いな。」
扉の近くにモンスターがいなかったので静かに中に入って部屋の中を見回す。この部屋は大部屋に相当する広さがあるようだ。
「で、この部屋のボスはトロールか……。」
部屋の中心からやや奥側といったところに、ひときわ大きなモンスターがいる。濃い緑の肌をした3メートルほどの巨大な体躯を持つモンスターで、全身が筋肉に覆われているかのようだ。武器はこん棒のようだが、あの体つきを見るにその威力は相当なものだろう。
トロールは2体いるようで、周囲にいるコボルトやインプを含めると10体を超えるなかなかの集団になっている。
「さすがにもう少し訓練してからじゃないと厳しいか。」
そう口に出して、部屋から撤退することを決める。
トロールがいる集団以外にもコボルトだけのものやコボルトとインプの組み合わせのものがあったが、下手にちょっかいをかけてトロールまで反応されては厄介だからだ。
「こっちは行き止まり、と。」
通路を引き返し、小部屋へと向かう途中にある2つ目の分かれ道を逆へと進んだ結果がこれである。
分かれ道からの距離も短く、罠も何もない本当にただの行き止まりのようだ。
「しばらくは、第1階層の大部屋と第2階層の小部屋での訓練かな?」
通路を戻り、小部屋へと向かいながらつぶやく。
レベルが上がるか、第2階層の小部屋が余裕をもってせん滅できるようになったら、第2階層の大部屋に向かうことにしよう。
小部屋のコボルトとインプを相手に二刀流の戦い方を試し、その日のダンジョンの挑戦を終えた。
その日から5日ほど、考えていた通りに第1階層の大部屋と第2階層の小部屋での訓練を続けた。残念ながらレベルが上がることはなかったが、一度だけインプから銀貨が1枚ドロップした。
また、効果のほどはわからないままだが、追加依頼した龍厳さんとの稽古にも行った。
正直、龍厳さんと二人きりの稽古となった水曜日の稽古はかなりきつかったのだが、いずれ自身の糧になるのだと思って頑張った。その次にあった土曜日の稽古では、美冬ちゃんのありがたさが身に染みた。
美冬ちゃんとの稽古を見ている限り、俺相手の場合はかなり手加減してもらっていることはわかるんだが、いい加減30も半ばとなったこの身にはキツイ。ダンジョンに通うようになって少しは運動不足が解消されたかと思っていたんだが、全然だったようだ。
まあ、とにかくそんな感じで訓練を重ね、そろそろ第2階層の大部屋に挑戦しようと思っていたんだが、またしても問題が発生した。
ダンジョンの“更新”が発生したのだ。




