第2話 ステータスチェックと調査依頼
家の目の前にダンジョンが現れてしまった。
そのことに動揺してしまったが、こういう場合はどう対処すればよいのだろう?
紅葉おばさんから相続した土地で発生したことなので鈴木弁護士に相談すべきなのだろうか?それとも警察?いや、この場合はダンジョン管理機構か?
しばらくどう対処すべきかを考えていたが、まずはダンジョン管理機構へ連絡して専門家の判断を仰ぐべきだろうという結論に至った。
そこでふと、そもそもこれは本当にダンジョンなのだろうか?という疑問が浮かんだ。
空中に浮かぶ光る水晶や地下に続く怪しい階段がダンジョン以外に該当するとは思わないが、一応確認はしておくべきだろう。幸いダンジョンの中に入らなくてもダンジョンクリスタルと呼ばれる水晶に触れば分かるはずだし。
そう考えた俺は恐る恐る水晶に触れてみた。
ズキッ。
水晶に触れた瞬間、頭に傷みが走った。同時に頭の中にダンジョンの名前とダンジョンの情報が流れ込んでくる。
それによると、ダンジョンの名前は“シンシアのダンジョン”というらしい。シンシアというのは人の名前なのだろうか?それとも地名なのか?
また、ダンジョンは6階層のようだ。大穴を中心に水晶を含むサイズの円が広がり、地中に円柱状のエリアが伸びている。そして、円柱を輪切りにするように四角い板状のものが6枚並んでいた。
「ふぅ。」
ひとつ息をついて、水晶から離れる。ダンジョンの情報が読み取れたことから、これはダンジョンで確定のようだ。まあ、ほぼ間違いないと思ってはいたが。
そういえば、ダンジョンクリスタルに触れるとスキルを覚えてステータスが確認できるはずだ。早速確認してみよう。
「……。」
どうやって確認するのだろうか?何となく話として聞いたことがあっただけでどうやるのか知らなかった。とりあえず、定番通り声に出してみるか。
「ステータスオープン。」
すると頭の中にステータスを思われる情報が浮かんできた。
名前:森山 達樹(モリヤマ タツキ)
種族:ヒト
性別:男性
年齢:34
Lv.:1
HP:100
MP:100
STR:8
VIT:8
INT:12
MND:10
AGI:9
DEX:12
LUK:13
称号:探索者
スキル:ダンジョン適応、罠探知 Lv.1
初めの4項目には俺の個人情報が表示されていた。特に間違いはない。
その次はレベルが表示されている。まだ何もしていないのでレベルは1のようだ。そして、HP、MPが続いている。生命力と魔力といったところか。それ以降は俺の能力値でSTR:筋力値、VIT:体力値、INT:知力値、MND:精神力値、AGI:敏捷値、DEX:器用値、LUK:幸運値だと思われる。
STR、VITが低くてINTが高いので能力値としては後衛向きのようだ。LUKが高いのは紅葉おばさんから遺産を相続したりしたためなのだろうか?いや逆か、LUKが高かったから遺産を相続できたのか。
残りは称号とスキルだ。称号の“探索者”とスキルの“ダンジョン適応”はダンジョンクリスタルに登録すれば誰でも手に入れることができると聞いたことがある。なので“罠探知 Lv.1”が俺個人のスキルとなるはずだ。名前からすると罠を見つけることができるスキルと思われるが使える能力なのだろうか?後で確認してみよう。
一通り確認して満足したところでステータスが消えた。意思に反応して表示されるのだろうか?と思って(ステータス)と念じてみると先ほどのステータスが表示された。声に出して唱える必要はないようだ。
しかし、いちいち全ての項目が表示されるのはダンジョンに入っているときは邪魔だと思うのだが、HPとMPだけを表示するようにできないのだろうか?と思ったらこちらもできてしまった。ステータスで何を確認するかも意思によって自由にできるらしい。
ステータスの表示を変更したりしつつ、とりあえずの確認を終えた俺は、ダンジョン管理機構へ連絡すべく家へと向かった。
パソコンでダンジョン管理機構のことを検索するとトップで公式サイトが出てきた。サイトを開いて連絡先を確認する。フリーダイアルの番号が書かれていたので画面を確認しながらケータイに番号を入力する。しかし、番号の下の受付時間が午前9時から午後6時までと書かれているのだが、夜中にダンジョン関連の問題が起きたらどうするのだろうか?
そんなことを考えながら連絡先の番号をコールすると、2コール目で電話がつながった。
通話口から女性の声で用件を確認されたので、家の前にダンジョンが出現したことを伝えた。
すると、係の者に代わりますのでと驚いたように言われ、少しした後に男性の声で再度用件を確認された。
もう一度同じ説明をすると、確認に向かいますのでと言ってこちらの住所を確認してきた。引っ越し直後で住所を覚えていなかった俺は、免許証を取り出して住所を確認しながら家の住所を伝えた。
電話の向こうの男性は少し考えた後、1時間ほどで確認に向かいますと伝えてきた。1時間後というと12時を少し回ったころだ。確認にかかる時間がどの程度かはわからないが、軽く何か食べておいたほうがいいかな、などと考えながら、わかりましたと答えて電話を終えた。
電話を終えた俺はパソコンでダンジョンに関する情報を調べてみた。
ダンジョンからモンスターが氾濫してくるのはダンジョンへの侵入時間が1日に1時間未満で1週間経過した場合らしい。1週間の内、1日だけが1時間未満であっても7日後にモンスターが氾濫すると書かれていた。ダンジョンはいちいち侵入者の侵入時間をカウントしているのだろうか?
また、詳しく調べてみると新しく出現したダンジョンの場合はモンスターが氾濫するまで30日の猶予があると記載されていた。うちのダンジョン以外にも2年の間に新しいダンジョンがいくつか出現していたらしく、それらを使って調査した結果なのだという。そうすると、とりあえず30日の猶予はあるようだ。
次にステータスについて確認してみるとレベル1の場合、HP、MPは100、その他の能力値は10が平均的な値だということが分かった。俺のステータスの平均値をとると約10になるので、おおよそ平均的な値を思っていいのだろう。
また、レベルアップするとHP、MPは10ずつ、その他の能力は経験に応じて2種類が1ずつ上昇するらしい。こちらについてはダンジョンに挑戦していればおのずと分かるだろう。
次いでスキルについて確認する。スキルのダンジョン適応はダンジョン攻略のために必要な機能が付いたスキルらしい。ダンジョンでスキルが使えるようになるのやステータスチェック、レベルアップで肉体が強化されるのもこのスキルによるものだという。また、なんと識別の機能がデフォルトで付いているらしい。なのでモンスターやアイテムについては見ればその名前がわかるらしい。ただ、あくまで識別なので能力等の詳細を確認するためには別に存在する“鑑定”スキルが必要になるらしいが。
続けて俺の個別スキルの罠探知についても確認する。どうやらこちらはややレアなスキルのようだ。しかし、ダンジョンによっては罠がないところもあるらしいので使えるスキルかどうかはダンジョンによると思われる。まあ、罠があるかどうかがわかっていれば安心できるので有用なスキルだと思っておこう。
また、スキルはダンジョンで手に入るスキルスクロールを使わなければ新たに取得することはできないらしい。現実世界で剣や槍の修行をしてもスキルは生えないそうだ。俺がほしい後衛向きの魔法なんかのスキルは現実で修行のしようもないのであまり関係ないが。
他にもモンスターやダンジョンから得られるアイテムについて調べていたが、ふと洗濯物をまだ干していないことを思い出した。時計を見るともうすぐ12時になる時間だったので急いで洗濯物を干しに行く。時間的に何かを食べておく時間はなさそうだ。
洗濯物を干し終えて部屋に戻るとインターホンが鳴った。ダンジョン管理機構の人が来たようだ。俺は急いで玄関に向かう。
玄関の扉を開けると門の前に3人の男性が立っていた。
「初めまして。私、ダンジョン管理機構の佐藤と申します。森山達樹さんですか?」
3人の真ん中に立っていた太った中年の男性が問いかけてきた。
「はい。私が森山達樹です。今日はよろしくお願いします。」
俺は答えながら門へと向かう。佐藤と名乗ったダンジョン管理機構の職員以外の2人は探索者の人のようだ。金属鎧と革鎧を装備しているので間違いないだろう。金属鎧を装備している人はかなり大柄な人で革鎧の人はメガネをかけている。探索者はダンジョンの調査にも派遣されるのだろうか?
門を開けて外に出ると佐藤さんが声をかけてきた。
「早速ですがダンジョンまでお越しいただけますか?」
そう言いながら3人はダンジョンに向かって歩き出す。俺も黙って後に続く。といってもダンジョンは道を挟んだ反対側の空き地に出現しているので1分もかからずに到着するのだが。
ダンジョンの近くまで来ると先ほどの人たちの他に5人の探索者がいることが分かった。顔つきなどは見えなかったが皆しっかりとした体つきで金属鎧や革鎧を装備している。1人は女性のようだ。
しかし、鎧姿の人たちを前にすると何となくコスプレ会場にでも紛れ込んでしまったのかと思えてしまう。装備は使い込まれているようなので似合ってはいるのだが。
「それでは、ダンジョンの調査をお願いする自衛隊の方々の紹介をさせていただきます。山田さんお願いできますか。」
佐藤さんがそう声をかけると山田さんと呼ばれた初めにいた2人のうちの金属鎧の男性が他の人たちに整列するように声をかけた。どうやら彼らは探索者ではなく自衛隊の隊員だったようだ。
全員が並び終えたのを確認して山田さんが話し始める。
「私が今回の調査を担当する部隊の隊長を務めている山田です。今回出現したダンジョンは1年ぶりの新規ダンジョンということですので我々7名で担当させていただきます。今回の調査で通常のダンジョンと変わりないことが確認できた場合にはまた別の者が管理を担当することになると思いますのでその際はよろしくお願いいたします。」
そう言うと山田さんは続けて各隊員の紹介を始めた。山田さんと一緒にいたメガネの男性が岡田さん、他の隊員が小林さん、中村さん、山本さん、吉田さん、松本さんというらしい。ちなみに山本さんが女性の隊員だ。
「それでは、早速調査に入りますので。」
最後にそう言うと山田さんたちは松本さんを残し、武器を手に取ってダンジョンに向かっていった。松本さんは車に残って本部との連絡などを担当するようだ。
「では、我々も今後の話をしましょうか。」
自衛隊の隊員たちがダンジョンに入っていくのを見送った後、佐藤さんがそう声をかけてきた。
「今後の話ですか?」
「ええ。このダンジョンを公開するかどうかや、どのように管理していくか、管理のための施設をどうするかなどの話です。もちろん、今回の調査で攻略が完了すれば必要なくなるのですが、それも難しいと思いますので。」
なるほど、言われてみれば納得の話だ。ダンジョン管理機構にダンジョンの管理を依頼するとしてもダンジョンのある土地がうちの土地であることは変わらない。であれば、どのように管理するかを持ち主である俺と相談するというのは当然のことだろう。
「いくつか手続きのための書類を作成していただかなければいけませんし、資料もありますので申し訳ありませんが家の中でお話をさせていただいてもよろしいですか?」
そう問われたので、俺は了承して佐藤さんを家の中に招き入れた。




