第4話 第2階層初挑戦の反省
最後に残ったインプが光の粒となって消えていくのを眺める。ひとまず、これで小部屋にいたモンスターは全て討伐できた。
とりあえず、挑戦初日で第2階層の小部屋を攻略できたのは良いことだろう。それは間違いない。
ただ、それが小部屋からの釣り出しに失敗したことによる成り行きの結果というところが反省点だろうか。
1つ息をついてから、モンスターのいなくなった小部屋をゆっくりと歩いて見回る。
入り口から見た限りでは先へと続く扉があるようには見えなかったし、戦闘中にもそのようなものは見かけなかったが念のためだ。
「……やっぱり、行き止まりの小部屋と。」
小部屋の中を1周した後、扉の付近の壁にもたれかかってこぼす。
小部屋には、先へ続く扉はもちろん、宝箱やモンスターからのドロップアイテムなどもなかった。まあ、扉以外はそもそも期待していなかったが。
「どうしたものかね。」
これからのことを考えてそんな言葉が口からこぼれる。今日これからのことはもちろん、今後のダンジョン挑戦のこれからについても考えた言葉だ。
だが、今後のダンジョン挑戦については、この場で考えることでもないだろう。
「時間的には微妙と。」
腕時計を見て時間を確かめると、小部屋についてから1時間以上経っていた。今から引き返せば大体いつもと同じくらいの時間になるだろう。
ここに来るまでにあった分かれ道の先が気にはなるが、ここが行き止まりだった以上はどちらかの先が第3階層へと続く道になっているはずだ。初日から無理して確かめる必要もないだろうし、ここは素直に撤退することにしよう。
そう決めて小部屋を後にした。
「さてと。」
その日の夕食を終え、テレビで流れるニュースを眺めながらこれからのことについて考える。というよりも、今日の反省といった方が正しいだろうか。
「やっぱり、モンスターに囲まれた状態になるのはまずかったよなあ。」
今日のダンジョン挑戦の反省点を考えて、最初に出てきたのがこれだった。
まあ、小部屋からのモンスターの釣り出しを試したことについては間違っていたとは思わない。ソロで活動している以上、自分にとって有利になるように状況を整えることは重要なことだ。
ただ、その有利な状況を作り出そうとして不利な状況に陥ったのがダメだったというだけで。
「でも、初めての相手だったしなあ。」
そう口に出して言い訳してみるが、そんなことは関係ないということはわかっている。初めての相手だろうがなんだろうが、やられてしまえばそれは等しく死という結果につながるだけだ。
もちろん、その最悪の結果につながらないように余裕をもってダンジョンに挑戦しているが、それがいつまで保てるかはわからない。
今のところはレベルも順調に上がっているが、レベルが2桁に到達した以上、今後のレベルアップの間隔はさらに長くなっていくだろう。そうなると、今日のようにレベル差でごり押しするような戦闘はできないようになるはずだ。
であればどうすべきかというと……。
「やっぱりソロは無理なのか?」
そういう結論になってしまう。
世界的に、というか日本に限ってみても別にソロの探索者がいないわけではない。いないわけではないが、数が少ないのも事実である。加えて、ソロの場合はある程度の階層で伸び悩むようになるというのも有名な話だ。
この世界に出現したダンジョンは、アニメやマンガによくあるようなモンスターの数で押しつぶすというようなものではない。どちらかというと、ダンジョン内の迷宮エリアや各階層の長距離移動により疲弊したところをモンスターやトラップで排除しようとするものが多い。もちろん、モンスターが大量に発生するダンジョンというものも存在するが、その系統のものは逆に階層数が少なかったり、各階層の広さがそれほどでもなかったりで割と攻略しやすいダンジョンとなっている。
なので、階層間の階段がセーフエリアとなっているとはいえ、何日もかかるようなダンジョン挑戦にはソロの探索者は不向きなのだ。パーティーを組んだ場合のように複数人でカバーできるケースとは異なり、1人で常に気を張っておく必要があるというのは体力的にも精神的にも長期間の探索に向いていない。ソロであれば、5日程度が1回のダンジョン挑戦の限界だと言われている。
もちろん例外はあるらしいが、俺の場合はこの日数を基準に考えておくべきだろう。一応、現時点の階層数とレベルアップの速度を含めた攻略ペースを考慮すれば、5日以内での攻略が可能だと思っている。……もちろん、今後もレベル上げが順調に進むことと、ダンジョンが急激に成長しないことが条件だが。
「前にも思った気がするけど、ダンジョンを舐め過ぎていたか……。」
テレビの特集なんかを見ていた限りでは、1桁の階層数しかないダンジョンなんて大したことはないと思っていたんだが。
まあ、そもそも攻略しようとしている俺自身がダンジョン初挑戦だったのだから、すでに経験を積んでいる探索者たちと同じように考えることの方が間違っていたんだろうけど。
「誰かとパーティーを組むか、戦い方を見直すか、か。」
以前にも考えたことだが、パーティーを組もうと思った場合、誰と組むのかというのが問題になってくる。
正直、会社を辞めたことで以前の交友関係はほぼなくなっているし、そもそも毎日のようにダンジョンに通っている俺と同じようなことを週末だけ探索者をやっているような兼業探索者に求めるのは無理だ。
そうなると専業探索者をパーティーに、ということになるのだが、今度は俺のレベルの低さがネックになってくる。
今現在、現役で専業の探索者をやっているような人は、ダンジョン発生当初から探索者をやっていた人がほとんどのはずだ。俺と同じようなタイミングで専業探索者になったような奇特な人はまず見つからないだろう。であれば、俺とパーティーを組むよりも自分たちだけでダンジョンを攻略したほうが良いということになってくる。さっきも考えたように探索者は基本的にパーティーを組んでいるはずなのだから。
「とりあえず、パーティーに関しては探索者支援が始まってからかな。」
ちょうどテレビから聞こえてきた探索者支援の話題を聞いてそんなことを考える。
実際に行われる支援内容次第ではあるが、支援が開始されたタイミングで、ある程度の人数が専業での探索者活動を考えるのではないかと思う。そのタイミングで佐藤さんにでもパーティーメンバーの相談をすれば良い人を紹介してもらえるかもしれない。
なにせ、俺とパーティーを組めば専用のダンジョンがついてくるのだ。碌にモンスターと遭遇することがないという一般の公開ダンジョンよりも魅力的だと考える探索者もいるだろう。
そんなことを考えつつ、テレビからの情報に耳を傾ける。
一応、ある程度の探索者支援の内容が出てきてはいるらしい。内容としては、大きく下記のようなもののようだ。
1.ダンジョン攻略の貢献度に応じた報奨金
2.ダンジョン産装備の無料貸与など新人探索者への優遇措置
3.財源確保のためのダンジョン税の導入
2つ目と3つ目についてはほぼ決定しているらしい。というか、3つ目は支援ではないような気もするが、まあ財源をどうするかというのも大事な話なのだろう。
しかし、目玉となるはずの1つ目に関する調整が難航しているらしいのが気になる。まあ、ダンジョン攻略の貢献度といっても、それをどうやって算出するのかということだとは思うが。
有力なのはダンジョンへ挑戦した日数と時間から算出するものらしいが、どう考えてもただダンジョンで過ごすだけの不正が横行する未来しか見えない。さすがにそれはマズいということで、何らかの算出基準を作るために難航しているのだろう。
「パーティーがダメなら、とりあえずは戦い方か。」
テレビのニュースが次の話題に移ったので思考を先ほどの考えに戻す。
すぐに探索者支援が開始されることはなさそうなので、しばらくはソロでの挑戦ということになりそうだ。そうなると、いかにしてソロでも安全にダンジョン挑戦を行っていくかという話になる。
安全を確保するための方法としては、万が一のときのための逃走手段を確保する、余裕を持ったレベルで挑戦する、不測の事態にも対応できる立ち回りを身に着ける、といったところだろうか。
今できているというか、行っているのは2つ目だけ。であれば、単純に1つ目と3つ目の方法も用意すればそれだけダンジョン挑戦の安全性が高くなるだろう。
まず、逃走手段について。
これについては、ダンジョン産のアイテムに帰還用のマジックストーンがある。あるが、正直あまり現実的ではない。性能的には、ゲームなんかの帰還用アイテムと違って戦闘中でも使用が可能な非常に優秀なアイテムなのだが。
まあ、現実的ではない理由は単純で、そもそも俺なんかが入手できるようなアイテムではないからだ。
一般のアイテムショップには置いていないし、そもそも売りに出されることがほとんどないらしい。数が少ないので手に入れた探索者は保険として自分たちのために確保するし、稀に売られるものは自衛隊の部隊へと流されるという噂だ。
なので俺がこのアイテムを用意しようとするのであれば、確保できそうな高レベルの探索者への伝手を用意するか、自力で入手するかということになるんだが……。そもそも高レベルの探索者の知り合いもいないし、ダンジョンの1桁の階層で手に入ったという話も聞かないので、無理だという話になってしまう。
まあ、縁のないアイテムは置いておいて、現実的な方法を考えよう。
敵から逃走するために必要なことというと、足止めと速度だろうか。足止めして相手がもたついている隙に逃げるか、相手を振り切るだけの圧倒的な速度で逃げるか。まあ、実際にはその両方を用いて逃げることになるとは思うが。
となると必要になるのは、足止めのための手段と相手を振り切るだけの速度を得るための何かということになる。
幸いなことに俺にはその2つについて心当たりがある。足止めについては“投擲”スキル、速度については“壁走り”スキルが使えると思う。
“壁走り”スキルは単純に速度が上がるというわけではないが、アクロバティックな動きができるようになれば十分な逃走手段になりうるだろう。そこまでスキルを成長させることができるのかという問題があるが。
また、“投擲”スキルについてもどこまで通用するのかという問題がある。
通常の投擲物ではストーンゴーレムのような強敵相手には通用しないことがわかっているので、これについては低階層の弱いモンスターにしか通用しないだろう。そうなると、こちらもスキルの成長に期待するということになるのだろうか。
「うーん、先が長そうな感じだな。」
まあ、さすがにいつになるかもわからないスキルの成長を待つわけにもいかないので、とりあえずは万が一のために足止め用の投擲物を用意しておこう。ダンジョン産アイテムであれば、まったく通用しないということもないだろうし。……ダンジョン産の鉄球とかないのだろうか。
次に、不測の事態にも対応できる立ち回りについて。具体的には、今回のような敵に囲まれた場合の対処だろうか。
「……どうすればいいんだ?」
今の時点でも、そういう立ち回りができるように努力してはいる。龍厳さんに稽古をつけてもらっているし、毎日のダンジョン挑戦で実践的に鍛えているつもりだ。
その上で足りないとなるとどうすればいいんだろうか。
まあ、鍛え方がぬるいというのは理解している。どう考えても、週1の稽古と1日に2、3時間のダンジョン挑戦では劇的な効果は期待できないだろう。そもそも、ダンジョン内の戦闘時間に関しては1時間もないのだし。
「稽古を増やすか?」
すぐに思いつくのはそういう考えだ。だが、これも当たり前の話だが、稽古してすぐに効果が出るようなことはない。さっきのスキルを成長させるというのと同じだ。
「どっちにしても長期戦を覚悟しないといけないか……。」
俺としては今すぐにどうにかできるような手段が欲しかったのだが。
まあ、スキルにしろ、自分自身にしろ、その成長を待つというのであれば時間がかかるのは仕方がないか。
すぐにできる対策としては装備を更新するくらいだろう。
ただ、その装備の更新についても、身の丈に合わないものを用意してしまうと、今度は自身の成長が妨げられることになってしまう。ダンジョンを攻略する最後まで装備の性能でごり押しできるというのであればそれでもいいのだろうが、さすがにそこまで甘いものでもないはずだ。
「となると……、手数を増やしてみるか?」
間違いなく“投擲”スキルを身に着けたことで戦いの幅は広がった。それを考えると新たに別の手段を身に着けるのもありかもしれない。
理想としては魔法スキルなんだが、これは無理だろう。というよりも新しくスキルを身に着けるというのはどうなんだろうかという感じだ。
さっきスキルを成長させようと考えたばかりなのに、新たにスキルを増やしてスキルの成長速度を遅くするのは違う気がする。もちろん、魔法スキルくらいのインパクトがあるものであればありだとは思うが。
そう考えると増やすのは武器だろうか。
両手にメイス、あるいはメイスと盾だろうか。
一般的なのはメイスと盾な気がする。盾で相手の攻撃を防ぎつつメイスで攻撃するという王道なスタイルだ。
難があるとすれば機動力が落ちそうなところだろうか。盾の大きさ次第だが、身を隠せるほどの大きさになると、まともな機動力は期待できないだろう。
だったら腕に装着できるような盾かというと、そちらもどうなんだろうか。そのサイズであれば両手にメイスでも良さそうな気がする。そちらであれば“メイス”スキルの補正効果も期待できるだろうし。
というか、どちらかに絞る必要もないのか?
両方の手段を用意して、その場の状況に応じて適した方を選ぶ。あるいは、両方試してみて自分に合う方を選ぶというのが良い気がする。
……いや、予算の問題があるか。
盾を用意するのであればダンジョン産のものを用意すべきだろうし、そうなるとそれなりの値段になるだろう。メイスについても同様だ。
ただ、メイスについてはいざというときの予備として、これに関係なく用意しておくのもありかもしれない。一応、メイスを失った場合には“投擲”スキルでどうにかしようと考えてはいたが、主武器であるメイスの予備があるに越したことはないだろうし。
でも、予備として用意すると荷物になるのが問題なんだよな。
今使っているメイスもそれなりの大きさになる。少なくともリュックの中に入るような大きさではないし、リュックに括り付けるにしても動きの妨げになりそうだ。
伸縮式の特殊警棒みたいなメイスがあれば一番いいんだが。
……そういえば、“メイス”スキルの補正効果はどこまで適用されるのだろうか。メイスだけでなく、こん棒みたいな打撃武器にも補正がかかるという情報をネットで見た気はするが。
これが特殊警棒にも有効なのであれば、いざというときの予備にちょうど良いかもしれない。これであればリュックに2、3本入れておくこともできるだろう。
ネットで調べてみて、情報がなければ実験だろうか。まあ、補正がなくとも固いモンスター以外であれば、まったく使えないということもないだろう。
「ひとまずは特殊警棒で二刀流を試してみる、か?」
特殊警棒の値段は知らないが、さすがにダンジョン産のメイスよりも高いということはないだろう。性能的にはダンジョン産のメイスや盾の方が確実なんだろうが。
「でもなあ、金を惜しんで自分の身を危険にさらすのもなあ。」
ダンジョン産のメイスや盾は安くない。安くないが、手が出ないという値段でもない。まあ、今の俺が地味に成金みたいな状態になっているからこそ言えることだが。
だからといって、前に考えたようにダンジョン挑戦のために無駄遣いしたくないという考えが変わるというわけでもない。
「まあいい、これも探索者支援が始まってから考えよう。」
探索者支援にはダンジョン産装備の無料貸与というものが含まれていたはずだ。それを利用できれば、わざわざ自分で買って試さなくても装備を借りて実験することができるかもしれない。
とりあえず、これについては佐藤さんに相談してみよう。
「結局、根本的な対策が取れそうなのは探索者支援が開始されてからか……。」
色々と考えてみたが、結論としてはそういうことになりそうだ。
とりあえず、稽古を増やす、特殊警棒を試してみる、“投擲”スキル用のダンジョン産アイテムを用意する、という今できることをやりつつ、スキルや自身の成長をさせていくしかないだろう。




