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ダンジョンのある風景  作者: はぐれうさぎ
第2章

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第3話 第2階層の小部屋

 背中に背負ったリュックからペットボトルのお茶を取り出して一息ついてから行動を再開する。まずは先ほど中断された罠の確認からだ。

 違和感を覚えたあたりの地面をメイスでゆっくりと叩いていく。3度叩いたところで目の前の地面に大きく穴が開いた。


「うおっ!?やっぱり、久しぶりだと感覚が狂うなぁ……。」


 やや前のめりになってしまった体勢で思わず声を漏らす。第1階層の落とし穴で何度もやっていた作業ではあるが、最近は壁走りのスキルで避けていたので感覚が鈍っていたらしい。


「やっぱり落とし穴か。……というか、底が剣山みたいになってるし凶悪になってるじゃないか。」


 慎重に穴の中を覗き込んでみると第1階層の落とし穴にはなかった鋭い針というか槍のようなものが並んでいるのが見える。矢の罠も本数が増えていたし、ダンジョンの成長で罠も成長したのかもしれない。帰りにでも第1階層の落とし穴を確認しておこう。

 そんなことを考えつつ、落とし穴を避けて先へと進む。

 幸い、その後はモンスターにも罠にも遭遇せずに奥までたどり着くことができた。通路の突き当りにある扉の前まで。


「最初の扉か。さすがにこの距離でボス部屋はないとは思うけど、何が出るのやら。」


 そんなことを口にしつつ、メイスを握りなおして扉を薄く開ける。

 覗き見た部屋の中には、先ほど遭遇したコボルトと背中から羽を生やしたコボルトよりやや小さなモンスターが飛んでいた。記憶が確かであれば、あれはおそらくインプだ。


 ゆっくり扉を閉めてから距離をとり、壁に背中を預ける。

 覗き見た感じだと、この部屋はおそらく小部屋になると思われる。少なくとも見える範囲には先へと続く扉は見えなかったので、ここは枝分かれした通路の行き止まりの小部屋だと思う。

 とすると、どうするかということになるんだが、まあ試してみるか。

 コボルトの方は、動きの素早さと生き物を相手しているという忌避感が厄介ではあるが、強さ的には問題なさそうだ。インプについては試してみないとわからないが、インターネット上の情報によると手に持った三つ又の槍と爪による攻撃をしてくるという話だったはずだ。

 どちらも魔法による攻撃はないはずなので、近接の物理攻撃のみとなる。インプが空を飛んでいるのが厄介ではあるが、対処できないというほどではないだろう。

 それに最初は第1階層でもやったように、扉の近くのモンスターを釣り出してきて数を減らすつもりだ。恐らくどうにかなる。


 


 扉の近くにモンスターがいないことを確認してから静かに小部屋に侵入する。

 コボルトもインプも索敵能力としてはそれほどでもないらしい。小部屋に入った瞬間に全体から敵意を向けられるということはなかったし、少し離れたところにいる奴らに気づかれることもなかった。


「スライムみたいに引っかかってくれると楽なんだが。」


 そう小声でつぶやいてから、一番近くにいる集団に小石をまとめて放り投げる。コボルトが3匹にインプが1匹の集団だ。

 残りは離れたところにいるコボルト2匹と奥にいるコボルト3匹とインプ1匹の集団になる。コボルト8匹とインプ2匹と考えると少なく感じるが、たぶん第1階層のグリーンスライムの数が多かっただけだろう。

 そもそも、まだ第2階層なのだから量も質もそこまで大したことはないはずだ。


「っと、来たか。」


 距離をとったために山なりに放り投げる形になってしまったが、ダメージは期待できなくともこちらに気を引くという目的は果たせたらしい。俺に気づいたコボルトたちがイラついたようにこちらへと顔を向け、駆けだそうとしている。

 扉へと近づくように後ずさりながら離れた位置にいる他のコボルトたちの様子を確認する。離れた場所にいる2つの集団はどちらもこちらのことに気づいていないようだ。なんとなく、こいつらの索敵能力が心配になるが、こちらの都合がよくなる分には問題ないだろう。放置して目の前の相手に集中する。


 先頭を駆けてきたコボルトが両手の爪を使ってひっかこうと飛びかかってくる。

 どうやら武器を持っていない個体もいるようだ。やや後ろの2匹はこん棒を持っているが目の前のこいつは手ぶらだ。だからこそ一番早かったのかもしれないが。


「はっ!」


 コボルトの爪に合わせるようにメイスを打ち付ける。攻撃するというよりも弾き飛ばすための動きだ。

 それに合わせるようにワンテンポ遅れて後ろの2匹が左右からこん棒で殴りつけてくる。


「ぐっ。」


 右手の1匹はメイスで左手の1匹は左腕でガードする。

 だが、さすがに腕でのガードではダメージが入るらしい。左腕に少し衝撃を感じる。

 ひとまず右手のコボルトにメイスで攻撃を、と思ったタイミングで次はインプが空中からやってきた。


「うおっ!?」


 コボルトたちに対処するために目線が下にいっていたので、インプの動きに気づくのが遅れてしまった。気づいたら目の前にインプの槍が迫っているところだった。

 身体を大きくよじって槍の攻撃をかわし、そのままメイスをインプに向かって振り抜く。

 狙い通りメイスがインプをとらえるが、見た目通りの貧弱な防御力しかなかったのか、あるいは飛んでいたからか、インプが予想以上に吹っ飛んでいってしまった。

 驚きに一瞬動きが止まってしまうが、目の前のコボルトたちは気にもとめないらしい。飛んで行ったインプの様子には構わず殴りかかってくる。


 意識をコボルトたちに戻して身構える。

 先ほどと同じようにこん棒持ちの2匹が同時に殴りかかってきたが、今度はダメージ覚悟で1匹に狙いを絞る。

 右からの攻撃を捨て、左からくるコボルトに向かってこちらから逆に一歩踏み出す。

 そのままメイスでこん棒を弾き、コボルトの頭を殴りつける。

 右わき腹に衝撃を感じるが、ステータスを見る限り、ダメージは大きくない。

 これなら問題ない。そう判断して左手のコボルトに対して畳みかける。

 1撃2撃3撃と細かく打撃を叩き込み、体勢の崩れたコボルトに対して大きく振りかぶった4撃目を叩き込む。

 その一撃でコボルトは後ろへと吹っ飛び、光となって消えた。


 それを視界の隅に収めながら、武器なしのコボルトも加わった右手のコボルトたちに正対する。

 先ほどのコボルトにトドメを刺すまでにそれぞれから1撃ずつ攻撃を食らってしまっている。

 よくよく考えてみると通路への釣り出しを試そうと考えていたはずなのに、なぜ正面から相手をしているのだろうか。まあ、必要なことではあるだろうし、無理でもなさそうなので今は置いておこう。

 結局、この2匹についても同じようにダメージ覚悟で1匹ずつ倒すこととなった。


 残ったインプにもトドメをとも思ったが、残念ながらこちらから距離をとったところで様子見をされている。

 途中で確認したときには地面でしばらく倒れたままだったのだが、その後起き上がっても戦線に戻るでもなく空中から様子を見るだけだった。

 こちらとしては好都合だったので放っておいたんだが、どういうつもりなんだろうか?

 あっちとしてはコボルトに合わせて攻撃を仕掛けてくる方が効果的だと思うんだが。


 しばらく様子を見てもそのままだったので、ひとまずインプについては放置することにした。

 いや、硬球なり砲丸なりを投擲スキルで投げつければどうにかなりそうではあるんだが、ひとまず通路への釣り出しがうまくいくかを確認することにしたのだ。

 とりあえず、インプがこちらと敵対行動をとっていることは確かなはずなので、少し離れたところにいる2匹のコボルトにもちょっかいをかけて試してみることにする。


 ゆっくりと別のところにいたコボルトの方へと移動したが、インプは距離をとってついてくるだけで、こちらに攻撃を仕掛けてくることはない。


「うーん、どういうつもりなんだろうか?まあ、帰ってから調べてみるか、理由がわかるかはわからんけど。」


 そうこぼしつつ、近づいた2匹のコボルトに向かって小石を投げつける。すると、先ほどと同じようにこちらに気づいたコボルトたちが駆けてきた。

 今回は通路へと釣り出すことが目的なので、メイスは構えず、後ろにある扉へと向かって後ずさりながら小石をこまめに投げつける。

 正直、ダメージはほとんど入っていないだろうが、挑発としてはかなり効果的なのではないだろうか?気のせいかもしれないが、先ほどのコボルトたちよりも向かってくる表情に怒りが見える。


 

「うわぁ、キツイ表情してるなぁ……。」


 扉近くまで来た頃にはコボルトたちに距離を詰められており、メイスでテキトーにいなすことになっていた。

 さすがにその距離にまでなるとコボルトたちの表情まで確認できるわけで。

 さっきまでは攻撃を仕掛けつつだったので表情までしっかりと見ていなかったが、いなしているだけの今は表情まではっきりと確認できる。

 牙をむき出しにしてよだれを垂らし、薄汚れたボサボサの毛並みで敵意をむき出しにした姿。

 実際に見てみるまでは動物好きの人にはキツイんじゃないかなんて思っていたが、この姿なら問題ないだろう。よほどの犬好きでもこの姿のコボルトを愛でることはできないはずだ。

 そんなことを考えながら扉を開いて通路へと抜け出す。

 予想通りにすぐさまコボルトたちが扉をすり抜けて通路まで追ってくる。どうやら扉をすり抜けることができるのはスライムだけではないらしい。

 そのまま扉から離れるようにさらに後ろへと下がり、扉から十分な距離をとったところで止まる。具体的にはインプが距離をとって様子見をしていたよりもやや遠い距離までだ。

 その位置でコボルトをテキトーにあしらいながらインプが出てくるのを待つ。


 

「インプは無理なのか?」


 体感で5分ほど待ってみたが、どうやらインプは通路へと出てこないらしい。そう結論付けて目の前の2匹のコボルトを倒しにかかる。

 あしらっているだけでもそれなりにダメージが入っていたのか、コボルトたちは思った以上にあっさりと倒すことができた。


 


「うーん、合流するのか。」


 ステータスを確認し、思ったよりも余裕そうだとわかったので残りを片付けるべく小部屋へと侵入する。すると、先ほどのインプが残ったグループへと合流し、コボルト3匹、インプ2匹の集団になっていた。


「まあ、もう一度インプを含めて試してみるか。」


 そうつぶやいて奥にいる残ったグループへと近づいていく。さっきの戦闘から考えると小部屋の中でそのまま相手にしても問題なさそうではある。だが、無理に焦ることもないだろう。多少とはいえHPが削られていることは確かなのだから。


 先ほどと同じくらいの距離まで近づこうと考えていたが、その前にコボルトたちに気づかれてしまった。先ほどのインプが気づいたのだろうか?

 まあ、どちらにせよやることは変わらない。最初に気を引くための一投がなくなっただけだ。


 そう思っていたが、それは間違いだったらしい。というよりも、動きの速い奴らに広い空間を与えるのはまずかったらしい。

 コボルトたちは正面と左右から挟み込むように分かれて駆け出してきた。こちらも小石でけん制しながら急いで扉へと後退しようとしたが間に合わなかった。

 小部屋の中央を越えたあたりでコボルトたちに間合いを詰められてしまい、インプには上空から後方の扉への道をふさがれてしまった。


 

「厄介な。」


 コボルトとインプに囲まれてしまった状態でこぼす。

 正直、コボルトやインプの攻撃自体は大した脅威ではない。だが、第1階層でストーンゴーレム相手に俺がやっていたようにヒットアンドアウェイの攻撃を仕掛けられているのが厄介だった。

 正面のコボルトに攻撃を合わせると左右のコボルトが、右のコボルトを狙うと上空からインプが槍を突き出してくる。

 さっきと同じようにダメージを無視して狙いを絞ろうとも考えたが、数が増えたせいか他の奴らに足を止められてしまい、攻め切ることができない。

 一応、細かいダメージは与えられているはずだが、さすがにこの状態が続いていると不安になってくる。万が一の事態はないと思うが、HPに余裕があるうちにこの状況を打破するための行動に移るべきだろう。


 ひとまず、相手の足を止めるところからだ。幸いにして、投擲スキルのおかげで足を止める手段はある。

 メイスや腕を使って相手の攻撃をいなしながら、慎重に周囲を囲むコボルトたちの動きを見極める。狙うのは、コボルトたちが一定の範囲内に集まる瞬間だ。


 

「ここだっ!」


 周りを囲むコボルトたちが同時に攻撃を仕掛けようとしてきた瞬間、そう声に出して俺も動き出す。

 手に持ったメイスを手放し、両手で小石をつかみ取る。そのまま、周囲に広がるように上空へと放り投げる。

 コボルトたちにも学習能力があるのか、小石を放り投げた瞬間に回避しようとしたが、こちらに突っ込もうとしていた勢いは殺し切れずに広がった小石の雨に打たれている。もちろん、上空から仕掛けてきていたインプたちも同じだ。


 はっきり言ってダメージは期待できないし、動きを止めることができるのも一瞬だけだが、コボルトたち相手であればそれで十分だった。

 手放したメイスをつかみ直し、目の前のコボルトに向かって思いっきり突き出して吹き飛ばす。

 勢いそのままに向きを変え、すぐさま右側で動き出そうとしているコボルトに向かって突っ込む。

 同じようにメイスで吹き飛ばし、今度はそのまま包囲を抜けるように追撃をかける。

 背後から残りのコボルトとインプが攻撃を仕掛けようとしてくるが、こちらも離れるように移動しているのでまともな攻撃は届かない。

 吹き飛んで地面に落ちたコボルトにトドメを刺そうとするが、すでに限界だったようだ。地面に落ちると同時に光の粒へと変わり始める。

 それを確認して体の向きを変える。

 目の前に追撃に来たコボルトとインプが迫るが、余裕がなかったのか真正面から突っ込んできている。

 そうであるなら、あとは簡単だ。最初にやったようにダメージを無視するつもりで個別撃破してやればいい。

 先頭で突っ込んできたコボルトの攻撃をメイスで受け止め、そのまま1匹ずつ撃破していった。


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