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ダンジョンのある風景  作者: はぐれうさぎ
第2章

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第2話 第2階層へ

 迎えた翌日。いつも通りにダンジョンへと向かう。

 第2階層へ挑戦するということもあって、いつもより念入りに装備を確認する。


「うん、問題ないな。」


 一通り確認が済むとそう声に出す。実は意外と緊張しているのかもしれない。

 昨日のうちに佐藤さんに連絡して、自衛隊の巡回ルートの変更は依頼している。連絡に漏れがない限り、今日からは第1階層を素通りできるはずだ。そんなことを考えつつ、ダンジョンへと足を踏み入れた。


 


「まあ、何事もないよな。」


 無事に第1階層最奥の大部屋にたどり着き、ボスであるストーンゴーレムがいないことが確認できた。

 ストーンゴーレムを相手にしなくなる以上、今日からは再び無報酬でのダンジョン挑戦となる可能性が高い。

 だからといって、ストーンゴーレムを残してもらっても、無駄に時間を浪費するだけなのでそこは割り切るしかないだろう。まあ、早く第2階層に慣れて宝箱なり、ドロップアイテムなりを稼げるようになればいいだけの話だ。


 ゆっくりと大部屋を進み、先へとつながる扉の前に立つ。一度通ったことはあるので、特にためらわず扉を開く。まあ、警戒はしているが。

 扉の先は、当たり前だが以前来た時と同じく、ここまでと代わり映えのしない通路が続いていた。

 そのまま通路を進み、罠のある曲がり角で立ち止まる。

 確かこの罠は一定以上侵入すると矢を撃ってくるタイプの罠だったはずだ。前回はよけることができず、肩に傷を受けて引き返したが、レベルの上がった今の俺であればおそらく対処できるだろう。


「さて、と。」


 そんなことをつぶやきながら、ゆっくりと、矢が飛んでくる右側の壁から距離をとりつつ曲がり角へと侵入する。

 一歩足を踏み入れた瞬間、視界の隅に映っていた右側の壁に音もなく穴が開いた。

 その数、3つ。


「なっ!?」


 矢の一本くらい余裕だと高をくくっていたが、さすがに3本となると少し焦る。あいにく、人には腕が2本しかないのだから。

 ひとまず、壁側へと体を向け、バックステップで可能な限り距離をとろうとする。

 だが、こちらの体勢が整うまで悠長には待ってくれないらしい。後ろへと下がっている最中に3本の矢が飛んできた。

 こちらを認識して放ってきたのかは知らないが、矢はそれぞれ頭、胸、腹を狙うような軌道で飛んできている。


「くぉっ。」


 妙な声を出しつつ、右手に持ったメイスを振るう。

 上の2本を狙い通りメイスで叩き落すが、最後の1本が残る。装備を信じて体で受けても問題なのではないかという考えが頭をよぎるが、ダメ元で左腕を払うように振り抜く。


 コッ。


 運よく腕が矢に当たったようで、軌道がそれた矢が後方の地面に落ちる音が聞こえた。


 


「あー、びっくりした。」


 罠探知に反応がないことを確認して、地面に落ちた矢を拾う。矢じりを確認するが、今回も特に毒などが塗られていることはないようだ。

 ここの罠が毒矢を放ってくることがあるのかはわからないが、矢の数が変わったことから、普通の矢が毒の矢に変わる可能性もある。油断せずに警戒すべきだろう。

 というか、これはダンジョンが成長した影響なのだろうか?

 矢が1本から3本に増えただけだが、変化は変化だ。ただ、自衛隊の隊員の人たちは特に変化がなかったと言っていたはずだ。ということは元から矢の数が変化するタイプの罠だったのだろうか?

 なんとなく、自衛隊の巡回チームの場合はこの程度の罠を気にしなさそうなので変化に気づいていないだけという気もする。

 まあ、たくさんの矢が飛んでくるかもしれない罠と思っておけばいいだろう。……馬鹿っぽい考えだが。

 ひとまず、今は先へ進もう。


 


「これが第2階層への階段か。」


 曲がり角の先の通路をしばらく進んだところで出くわしたそれを見てつぶやく。どうやら、このダンジョンでは階段に対して扉をつけるということはいていないらしい。通路の突き当りの壁にぽっかりと穴が開いており、そこに第二階層への階段が続いていた。

 念のために周囲を確認するが、特に罠があるような違和感はない。まあ、階段はダンジョンの数少ない安全地帯らしいので罠があるとは思っていなかったが。

 無駄に突っ立っていても仕方ないので階段へと足を踏み出す。ゆっくりと階段を下りていくと6畳ほどの広さの踊り場に着いた。インターネット上に書き込まれた情報の通り、ダンジョンの階段は踊り場で折り返すようになっているようだ。


「で、こっちも情報通りか。」


 目の前に存在する2つの扉を見て思わずつぶやいてしまう。一応、情報として存在することは知っていたのだが、実際に目にすると違和感が強い。壁面が整えられたダンジョンであればまた違うのだろうが、岩肌そのままのこのダンジョンだとその異様さが際立っている。

 ダンジョンの中にトイレのドアがあるというのは。


 これが木でできたようなドアであれば違和感も減るのだろうが、目の前にあるのは会社のビルにあったようなアルミ製のドアだ。ご丁寧に男性、女性の文字とともに男女のシルエットのマークまでつけられている。

 まあ、ダンジョン攻略が長時間になるのであれば助かる存在となることは確かなんだが、もう少しどうにかならなかったのかと思ってしまう。


「一応見ておくか。」


 そうつぶやいてドアを開くと、左右に手洗い場が並ぶ広大なトイレが目の前に現れた。


「……。」


 目の前に広がる場違いな光景にためらいを覚えるが、それをこらえてドアの向こうへと足を踏み出す。一瞬の違和感を感じた後、俺はトイレの中のドアの前に立っていた。


「……すごい違和感あるわ。」


 後ろを振り返って自分が通ってきたはずのドアを見つめる。

 何の変哲もないアルミ製のドアにしか見えないが、あいにくこれは普通のドアではない。各階層を繋ぐ階段の踊り場と、このダンジョン内のどこにあるかわからないトイレを繋ぐ転移効果を持ったドアである。

 自分の足ではなく転移で飛ばされたため、いきなりトイレ内に立っている状態になったわけだ。転移という現象と相まって違和感を感じるのも仕方ないだろう。

 まあ、事前に情報として知っていたので俺は少し驚いたくらいだが、最初に利用した人はかなり焦ったのではないのだろうか。事前情報なしだと完全に転移トラップとしか思えない気がする。一応、今では何の危険もないただのトイレだとされているが。


 ただ突っ立っていても仕方ないので、広大なトイレを一通り見て回る。まあ、広大といっても、全体で個室が250ほどなので、そこまで時間がかかることもない。


 

「思った以上に普通だな。」


 いくつかの個室を確認してみたが、一般的なトイレだった。むしろウォッシュレット完備で設備としてはそこらの駅なんかよりも恵まれているのではないだろうか。

 個室しかないというのが少し珍しかったがそれくらいだ。別にそういうトイレがないわけでもない。どちらかというと、トイレに出入りするためのドアが5か所も設置されていることの方が違和感が強かった。

 転移効果がついたドアなので、どのドアを使っても入ってきたのと同じ階段に出るのだが、先入観というか、いつもの習慣というか、別々のところに出るのではないかと思ってしまう。まあ、試しにすべてのドアを使ってみても、すべて元いた階段へとつながっていたが。


 一応、このドアの数はこのトイレがダンジョン内の複数の階段とつながっているかららしい。10階層ごとに1つのトイレが用意されているとのことだ。

 利用者が多くなった場合に出入りに困らないようにとの配慮だろうとのことだが、別に他の誰かが開いたドアを通ったとしてもその誰かが利用した階段に転移するということはないらしい。ドアの向こうの景色はドアを開いた人が入ってきた階段のものになるらしいが、転移自体は個人ごとに判定されるらしいのでトイレを利用したショートカットはできないらしい。


 このトイレであるが、実はダンジョンが発生した当初から設置されていたわけではない。世界にダンジョンが現れてから2ヶ月ほど経過したころに世界中にあるすべてのダンジョンに前触れもなく出現したものだ。

 当時はダンジョン攻略が本格化し、ダンジョン内で何日も籠ることが多くなり始めていたころだったので、ダンジョンに挑む探索者たちの希望をダンジョンが叶えたのだというような話が出ていた。いや、単に探索者たちのそういう行為が見苦しかったので急きょ設置されただけだという話もあった。

 結局、どちらの説が正しいのかわからないが、この件はダンジョンのバージョンアップという風に言われるようになった。個別のダンジョンの変化がダンジョンの“成長”(レベルアップ)、ダンジョン全体の変化がダンジョンの“更新”(バージョンアップ)ということである。といっても、ダンジョンの成長はともかく、ダンジョンの更新についてはこの一件以来発生していないのだが。


 そんなことを考えながらトイレを後にする。

 思ったよりも時間を使ってしまったが、まあ急ぐこともないだろうし別に構わないだろう。今後のために必要だったのだと考えよう。

 そんな思いとともに、そのまま第二階層へと続く残りの階段を降り始めた。


 


 降り立った第二階層は第一階層と同じような通路だった。

 岩肌むき出しのままの壁に、土を強く踏み固めたような地面。通路の広さも第一階層と同じようで、1車線の道路程度の幅だ。

 軽い確認を終わらせ、通路の先へと歩みを進める。


 しばらく進んだところで、分かれ道に遭遇した。直進か左折かの2択だ。

 そういえば意識していなかったが、自衛隊の巡回チームからダンジョンの各階層の地図なんかは提供してもらうことは可能なのだろうか?公開ダンジョンなんかでは、低階層の地図は普通に提供されているそうだが。

 まあ、急ぐわけでもないし、自分で確認しながらの方が身に付きそうなので地図なしで問題ないか。

 とりあえず、今日は左の道へ行ってみることにする。

 以前は金属バットで行き先を決めた気がするが、武器を手放すのは微妙だったのではないだろうか。低階層でモンスターの姿が見えない状況なので別段問題になるほどではないとは思うが、不用心なのは変わりないだろう。


 左手の通路を進むと再び分かれ道に遭遇する。今度は左右に道が分かれていた。

 軽くそれぞれの先を確認してから、特に考えずに再び左の道を選ぶ。今日はなんとなく左の気分だ。


 と、進み始めてすぐに地面に違和感を覚える。この感じは落とし穴だろうか?

 だが、そのままメイスで地面を確認しようとしたタイミングで前方にモンスターの姿が見えた。

 1メートルほどの小柄な体格に犬のような頭を持った毛むくじゃらな姿、どうやらコボルトと遭遇してしまったらしい。

 数は2匹で、手にこん棒を持っているのが1匹とナイフを持っているのが1匹だ。


「タイミングの悪い……。」


 そうこぼしながら対応を考える。

 まだ距離があるので地面の罠の確認を先に済ますべきか、それともいったん退いて罠から距離をとってからコボルトに対応すべきか。

 インターネット上の情報が正しいのであれば、コボルトは大した敵ではないはずだ。ただ、初遭遇ということで慎重に行くべきかもしれない。

 そう考えてゆっくりと後ろへと下がる。

 だが、それを見てこちらが弱腰だと感じたのか、ゆっくりと警戒しながら近づいていたコボルトがこちらに向かって駆け出してきた。


「っ、意外に速い。」


 それなりに距離があったので硬球を取り出して投げつけようかと思ったが、その余裕はなさそうだ。後ろへと下がりながら、慌てて左手を腿に着けたビスカップへと伸ばす。

 コボルトが罠があるであろう場所を何事もなく走り抜けたのを確認し、左手で掬い取った小石を投げつける。

 コボルトはそれぞれの武器で小石を弾こうとするが、すべてをはじくことはできない。はじき損ねた小石がコボルトへと当たる。

 小石が当たって動きが止まった瞬間、こちらから距離を詰めた。


 当たった数が少ない右側のコボルトが反応してこん棒を構えなおそうとするが、こちらの方が早い。

 距離を詰めた勢いそのままにメイスを突きこみ後ろへと吹っ飛ばす。

 そのままメイスを左へと薙ぎ払うように振り抜こうとするが、さすがに左のコボルトも動き出していた。手に持ったナイフでメイスを受け止められてしまう。

 だが、体格で勝るこちらの方が力が強いのか、コボルトは体勢を崩している。

 間髪入れずに2度3度とメイスを素早く叩き込む。

 けれど、速さを重視したせいで威力がなかったのかコボルトはまだ倒れない。

 そうこうしている間に、後方で吹っ飛ばしたコボルトが起き上がるのが見えた。


「もう一回飛んどけっ!」


 その言葉とともに、コボルトを掬い上げるようにメイスを振り抜く。

 狙い通り、吹き飛ばしたコボルトが後ろのもう一匹を巻き込んで転がっていく。それがトドメとなったのか、吹き飛ばしたコボルトは光となって消えていった。

 そのまま追撃に入ろうかと思ったが、罠感知の反応が足を止めさせる。このまま突っ込むと罠に引っかかってしまいそうだ。


 追撃を諦め、ゆっくりと後ろへと下がりながら硬球を取り出す。コボルトがこん棒を拾いながら起き上がるのを見て、思い切り投げつける。

 バンッといい音をたててコボルトの頭に直撃するが、倒すには至らない。

 2球目を用意して再び投げつけるが、今度は腕で防がれてしまった。


 さらに3球目を用意しようとしたところで、コボルトは体勢を低くしたままこちらへと駆け出してきた。最悪、逃げられるかもと思っていたが、こちらに向かってくることを選んだようだ。

 メイスを正面に構えて待ち構える。


 あと数歩の距離となったところでコボルトは右手に持っていたこん棒をこちらへと投げつけてくる。

 顔を狙ってきたそれをメイスで流すように弾き飛ばすが、コボルトはさらに低い体勢となって突っ込んできていた。


「くっ。」


 地面スレスレにまで低くなってくるコボルトに対し、バックステップで距離をとろうとする。

 が、同時にコボルトが勢いよく飛びかかってきた。


 血走った目に、よだれを垂らしながら牙をむき出しにして噛みつこうとする口。その醜悪な顔に思わず目をそむけたくなってしまう。

 けれど、ここで目をそらせばいらぬダメージを負ってしまうことは明らかだ。龍厳さんとの稽古を思い出し、コボルトへの恐怖を押し殺して相手を見据える。

 そのままメイスをコボルトの口へと突きこむように差し出し、突撃の勢いを殺す。

 勢いが止まって地面に落ちたコボルトが四つん這いの体勢からすぐさま再度の攻撃に移ろうとするが、それを待ってやるつもりはない。

 仰ぎ見るように持ち上げたその頭に対し、両手で振り上げたメイスを思い切り叩きつける。

 狙い通りコボルトの頭にメイスの一撃が直撃し、トドメを刺すことに成功した。だが、同時に何とも言えない嫌な感触をも味わうことになった。


 


「あー、モンスターが消滅してくれるのがマジでありがたい……。」


 ついでにコボルトが持っていたこん棒も光となって消滅していったが、まあそういうものなのだろう。確認するともう1匹が持っていたはずのナイフも見当たらない。

 使い道のなさそうなこん棒やナイフなんかより、意外とグロイ姿になってしまったコボルトの死体が消えてくれたことの方がよほどうれしい。


「そういえば、生き物っぽいのは初なのか。」


 コボルトが消えた地面を見ながらつぶやく。

 第一階層で遭遇したのは各種スライムとストーンゴーレムだ。正直、生き物を相手にしたという感覚はない。

 だが、先ほどのコボルトは明らかに生き物を殺したという感覚をもたらした。

 1匹目は必死だったのと割と軽めのダメージの積み重ねで倒したので実感がなかったが、2匹目にトドメを刺した攻撃は結構クルものがあった。さすがに、生き物の頭を叩きつぶす感触なんていうものは味わいたくなかった。


「今からでも遠距離武器にしようかな……。」


 そんな弱音を声に出してつぶやいてみるが、スキルスクロールまで買って得たメイスのスキルを放棄するのは現実的ではない気がする。というか、仮に遠距離武器に持ち替えたところで、叩き潰す感覚がなくなるだけで視覚的なグロさはなくならないだろう。それを避けようとするのであれば、そもそもダンジョンへの挑戦を諦めるしかない。


「まあ、そんな弱音を吐いてもしょうがないか……。」


 ひとまず先ほどの件は今後の課題とすることにした。というか、コボルトにトドメを刺した直後は、その瞬間の感触が何とも言えない気持ち悪さを感じさせたが、今はそれほどでもなかったりする。

 これもダンジョン適応の効果なのだろうか?あるいはステータスの恩恵か?

 まあ、どちらにせよ、今のところダンジョン攻略を諦めるつもりはないので生き物を殺す忌避感が軽減されてありがたいということにしておこう。


 

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