第1話 ダンジョンの成長とアイテムの売却
忘れたころにひっそりと。
ストーンゴーレムを初めて倒してから4日。あれから毎日ストーンゴーレムへと挑み、順調に倒し続けている。その結果、レベルも上がってLv.9となった。
なので、そろそろ第2階層に進んでもいいんじゃないかな、なんてことを考え始めていた。
そんなときに、ダンジョンの巡回を担当している自衛隊の隊員からの訪問を受けた。
「おはようございます、森山さん。突然お伺いして申し訳ありません。ただ、ダンジョンに変化があったので一応ご報告にと思いまして。」
玄関から門へと向かっている途中であちらから声をかけられる。やはりというか、それ以外に思いつかなかったが、ダンジョンに何かあったようだ。
「おはようございます。ダンジョンに変化とは、どういったものでしょう?」
門扉越しに会話というのもアレなので、門を開けて問いかける。
「あー、その様子だと、やはり気づかれていなかったんですね。ダンジョンが成長したんですよ。」
巡回チームの1人、確か小林さんだったかが、なんでもないことのようにあっさりと答える。なんとなく答えが軽いなと感じつつも質問を重ねる。
「えーっと、初めてのことなのでよくわからないんですが、それはどのくらい危険なんでしょうか?」
「危険性については何とも言えないですね。森山さんは、今は第1階層で活動中ですよね。」
「はい。ストーンゴーレムは倒すことができたので、近いうちに第2階層に挑戦しようかと思っていますが。」
「あっ、ストーンゴーレムは無事倒されたんですね。おめでとうございます。」
「いえ、巡回ルートを変更してもらったりして、こちらこそありがとうございます。」
「いやいや、最近は自衛隊の方でも余裕がないですからね。森山さんのような探索者の方が活躍されるのは大歓迎ですよ。」
アハハハハとお互いによくわからない謙遜をしあってしまう。少しして、小林さんが咳ばらいをして話を戻した。
「えっと、危険性の話でしたね。今日、我々もダンジョンの成長を確認したので改めて第1階層、第2階層を確認しましたが、特に目立った変化は見られませんでした。なので、森山さんの活動に関しては特に危険性が上がっているということはないと思います。ただ、今日の確認は隅々までチェックしたというわけではありませんので、森山さんの方でも油断せずに確認をお願いします。」
「なるほど。であれば、最深部に新しく1階層追加されただけということですか。」
「過去の例や、今日の確認結果から考えるとその可能性が高いと思われます。まあ、第3階層は階段近くを簡単に見ただけですし、第4階層以降に関しては元の状態を確認していないので変化があってもわからないですけどね。とりあえず、しばらくはより慎重に行動してもらうのがいいかと思います。」
最後にそう答え、次の巡回があるのでと小林さんたちは去っていった。
それを見送ってから家の中へ戻り、パソコンでダンジョンの成長について調べる。
やはり、一般的な例はダンジョンの最深部に新しく1階層追加されるというもののようだ。
ただ、例外もあるようで、階層追加だけでなく既存の各階層の構造がガラリと変わったダンジョンもあるらしい。さらに稀な例として、階層が減って各階層の構造が変わったダンジョンもあるらしい。ちなみに、例の“闇のクリスマス事件”も階層に変化がなかっただけでダンジョンの成長によるものだと言われているようだ。
というか、階層数に変化がないと事前にダンジョンの成長を察知できないのでより危険なのではないだろうか。実際にあの事件ではかなりの被害になったみたいだし。
そういう意味では今回の家のダンジョンはまだましなのかもしれない。ダンジョンが成長したということが事前にわかっているので慎重に行動することができる。
自衛隊の巡回では特に変化は見られなかったらしいが、既存の階層に変化がないとも限らない。そろそろ第2階層に挑戦しようかと思っていたが、しばらくは様子見の意味を込めてストーンゴーレムでのレベル上げを行うことにしよう。
結局、ダンジョンの成長が発覚した日から1週間、ストーンゴーレムを相手にレベル上げを繰り返すことにした。一応、そのついでという形で改めて第1階層を歩き回ってみたが、特に変化は見られなかった。
やはり、今回の成長は単純に階層が追加されただけなんじゃないだろうか。まあ、第2階層以降の構造を知らないので、違ったとしても俺にはわからないが。
で、この1週間というか、ストーンゴーレム相手のレベル上げの成果として、俺のレベルが上がった。ようやくレベルが2桁となり、今のレベルはLv.10だ。
そして、副次的な成果として宝箱から得られたアイテムがある。その数、10個。まあ、複数個で1つだったりもするので厳密にいうと10個というのは違うかもしれないが、宝箱10個分ということだ。
その内約はというと……。
・銀貨10枚 x1
・銀貨3枚 x3
・銀貨2枚 x2
・銀貨1枚 x1
・紫水晶(原石) x1
・魔鉄の大斧 x1
・魔鉄のブーツ x1
まあ、思っていたよりもまともな結果だった。銀貨についてはアレだが、魔鉄の大斧と魔鉄のブーツについては意外にいい結果なんじゃないだろうか。どっちも俺の装備としては合わなかったので売りに出すつもりだが、ダンジョン産の武器、防具が宝箱から手に入るとは思っていなかった。ネットの情報だと、苦労して宝箱を手に入れても銀貨しか出ないというようなコメントばかりだったので不安だったのだ。まあ、ダンジョン挑戦ごとに毎回宝箱が手に入る俺とでは条件が違うんだろうが。
なんにせよ、今日はこれらの成果物を売却するつもりだ。ダンジョンに挑戦し始めてから初めての報酬になる。期待し過ぎてはいけないとは思いつつ、ついつい期待してしまう。
ちなみに、レッドスライムからの初ドロップの銀貨とストーンゴーレムからの初報酬である金貨は記念に取っておくつもりでいる。金貨はそれなりの値になるみたいだが、まあそういう性分なのでしょうがない。別にお金に困っているというわけでもないしな。
「ダンジョンアイテムショップ北山ダンジョン支店の出張買取です。森山様のお宅で間違いないでしょうか?」
インターホンの音に気づいてモニタから応答すると、大きな声でそんな言葉が返ってきた。どうやら依頼していた出張買取の担当者がやってきたようだ。
魔鉄の大斧がなければアイテムショップへ持ち込んでの買い取りも可能だったんだが、さすがにあのサイズの武器を持ち運ぶことはできない。なので出張買取を依頼した。
ついでに言うと依頼したアイテムショップもいつも行っている隣町のアイテムショップではない。あの店ではダンジョン産の武器や防具の買い取りを扱っていないからだ。なのでそれらの取り扱いがある別のアイテムショップに依頼した。こちらはダンジョンに併設されている店なので買い取りも問題ない。というか、普通は併設のアイテムショップですぐに不要なアイテムを買い取りしてもらうものらしい。
とりあえず、いつまでも待たせておくわけにもいかないのでモニタ越しに応答して玄関へと向かう。
「ふむ、アイテムは電話で聞いていた通りのようですね。銀貨が24枚、紫水晶の原石が1つ、魔鉄の大斧が1つ、魔鉄のブーツが1つ、と。特に問題もないようですし、公開されている買い取り価格になりますね。これらすべての買い取りで間違いないですか?」
「あっ、はい。すべて買い取りでお願いします。」
買い取り価格は、公開されている通りの価格になるようだ。ダンジョン管理機構のアイテムショップだとアイテムごとに買い取り価格が公開されていて、基本的にその価格から外れることはない。よほどの状態であれば買い取り価格が下がることもあるらしいが、ダンジョンから出たアイテムであれば基本的にそんな状態になることはないので、本当に稀なケースらしいが。
買い取り担当者の男性が持ってきたノートパソコンを操作して見積書を印刷している。それを待ちながらボーっと周りを見ていると男性から話しかけられた。
「いやー、それにしても良いタイミングでしたね。もう少し遅かったら買い取り価格が下がっていたかもしれないですよ。」
「えっ、値段が変わるんですか?」
「ええ、探索者支援の発表があったでしょう?その影響で、財源確保のためにも不良在庫になるようなアイテムの買い取り価格は見直しを行うことになったんですよ。今回のケースだと魔鉄の大斧と魔鉄のブーツが買い取り価格見直しの対象でしょうね。」
「……探索者を支援しようっていうのに、アイテムの買い取り価格を下げるのはどうなんですか?」
「ああ、お客さんはここの非公開ダンジョンで専属で活動しているんでしたか。だったらわかりにくいかもしれませんが、他の一般の探索者だと基本的にダンジョンでアイテムを手に入れることはめったにないんですよ。だから買い取り価格を下げても大多数の探索者にとっては影響しないんです。」
「でも、それだとアイテムを手に入れているような探索者が不満を持つのでは?」
「まあ、まったく不満が出ないということはないでしょうけど、基本的にアイテムを手に入れるのは高位の探索者か自衛隊の探索部隊ですからね。彼らの場合は不良在庫になるようなアイテムではなく、有用な高価なアイテムがメインの稼ぎになるんですよ。有用なアイテムについては、特に買い取り価格の改定がされるようなことはありませんから影響はないということです。」
そこで話を切って印刷された見積書を手渡してくる。
受け取って確認してみるが、事前に計算していた額と同じだ。そのままサインしてお金を受け取る。
「ちなみにその買い取り価格の改定はいつ頃行われるかご存知ですか?」
買い取ったアイテムをマジックバッグにしまう男性に向かって声をかける。
「うーん、私もそういう動きがあるという話を聞いただけですので、具体的な時期まではわからないですね。まあ、実際に価格が改定されるときには事前に発表されるんじゃないですか。」
彼は作業する手を止めずにそんな答えを返してきた。
買い取り担当者を見送ってから家へと戻り、さっき受け取ったお金をテーブルの上に広げる。
8枚のお札が並び、その額は53,000円。
……正直、多いのか少ないのかよくわからない。
宝箱を手に入れた10日間だけで考えるのであれば日給5,300円ということになるが、ダンジョンに挑戦し始めた日からの日数で考えると日給が1,000円を切る。
別にダンジョンで稼ごうとは思っていないが、モチベーションを保つためにはそれなりの報酬が欲しい。装備を揃えるために使ったお金を考えるとなおさらだ。
加えてアイテムの買い取り価格が改定されるかもという話。買い取り担当者の人は、ほとんどの人には影響がないなんて言っていたが、俺の場合は影響をもろに受けそうだ。今後もダンジョンに挑戦していくとしても、しばらくは低階層の宝箱しか手に入らないだろうし、そうなると手に入るアイテムも基本的には今回売ったものと同じようなものになるだろう。ということは同じ労力なのに得られる報酬が減るという悲しい事態が起きるということだ。
……まあ、嘆いていたところで何も変わらないのだし、諦めて気持ちを切り替えよう。とりあえず、明日からダンジョンの第2階層に挑戦するのだから。




