第23話 宝箱と探索者支援
崩れ落ちたストーンゴーレムが光の粒になっていくのを眺めながら、少し離れた場所に腰を下ろす。
長い戦いだった。間違いなく探索者になって最長の戦いだったはずだ。時間を確認するとスライムを片付けた時間も合わせて2時間近く経っている。
だが、その長い戦いの疲れとは別に充実感も感じている。思えば、何かを成し遂げるために必死になったのはかなり久しぶりかもしれない。社会人になってから、いや、学生時代のころからも、いつの間にか惰性で行動して何かに挑戦するといったことが少なくなっていた気がする。
人間関係の疲れから会社を辞めてドロップアウトしたような形になってしまったが、ダンジョンへの挑戦を続けていけば何か得るものがあるのだろうか。
ストーンゴーレムを倒した影響でハイになっているのかもしれないが、そんな風に思った。
さて、戦闘中にばらまいた硬球と砲丸とゴルフボール、そして目についたパチンコ玉の回収は終わった。となると、次はアレに手を出すか。
そう、宝箱だ。
この宝箱は、ストーンゴーレムを倒したことで出現したようだ。回収時に部屋の奥の方に行ったときに、先へと進むための扉の手前にポツンと置かれていた。
ボス部屋やモンスターハウスなどでモンスターを全滅させると宝箱が出現するという話は知っていたが、出現方法はもう少しどうにかならないのだろうか。あまりの存在感のなさに、下手をすると宝箱に気づかなかったかもしれない。
普通の探索者であればモンスターを全滅させれば、安全確認も兼ねて部屋の確認ぐらいはするのかもしれないが、俺みたいなソロだと戦闘がきつかった場合は部屋の確認なんかせずに即撤退を選択する可能性もあるわけだし。
まあ、ちゃんと見落とさずに気づいたんだから別にいいか。次からは意識して部屋の確認をするようにすればいいだけだろうし。
そんなことよりも、今は宝箱だ。
さて、問題の宝箱だが、いつか見た通路にあった宝箱と外見上は同じものだ。さすがにモンスターを全滅させた後に得られる宝箱だけあって、罠付きということはないらしい。近くで観察しても“罠探知”のスキルが反応する気配はない。
「じゃ、開けますか。」
期待を胸に、そう声に出して宝箱に手を伸ばす。留め金を外し、丸みを帯びたふたをゆっくりと開く。
そのまま宝箱の中をのぞき込むと、中には金貨が1枚寂しげに置かれていた。
「……。」
なんなんだろうか、これは。一度部屋の中を振り返り、視線を外してから再度のぞき込む。だが、結果は変わらない。
金貨が1枚。
これが、俺がダンジョンで初めて得た宝箱の報酬だった。
しばらく放心していたが、頭を振って金貨1枚のショックを振り払う。
まあ、さすがに期待し過ぎていたんだろう。冷静になって考えてみると、こんな階層の少ないダンジョンの第1階層でそうそう貴重なものが手に入るはずがない。ダンジョンで、特に低階層では実入りが良くないというのは散々言われていることだ。宝箱に期待するのはもっと上の階層に進んでからにしよう。
そう気持ちを切り替えて、次のことを考える。
ダンジョンに入ってから2時間と少し。目的であったストーンゴーレムの討伐は完了した。さすがに今日は脇道にある大部屋でレベル上げという気分ではないが、せっかくなので第2階層を確認しておくべきだろうか?
しばらくはストーンゴーレム相手にレベル上げを行うつもりなので、別に今日確認しておく必要はないんだが、やはり気にはなる。以前は矢の罠で引き返したが、今なら先へと進める気がするし。
ひとまずステータスのHPを確認すると、半分は超えているが6割には届かないといったところだった。……正直、微妙だ。
確認するだけなら問題ないという気はするが、第2階層に下りて初見のモンスターに遭遇すると危険かもしれない。後、ないとは思うが、確認後にストーンゴーレムがリスポーンしている可能性もないとは言い切れない。
いや、リスポーンはないか。今までの経験上、自衛隊の巡回で倒されたモンスターは半日近くリスポーンしていないのだ。それを考えると1時間もかからないであろう確認後にリスポーンしているとは思えない。
……。
だがまあ、第2階層の確認はまた今度にしよう。
今日の目的は果たしたし、いつもであればそろそろダンジョンの挑戦を切り上げている時間だ。別に第2階層は逃げるわけではないのだし、明日以降のお楽しみということにしておこう。
そう結論付け、俺はダンジョンの出口へと向かった。
「うわっ、きっつっ。」
ダンジョンから地上に戻り、家へと帰るために数歩踏み出したところで強烈な疲労感に見舞われる。
最近は余裕が出始めていたので、ダンジョンエリアから出ても体が少し重くなったかなという程度だったが、今日はHPの半分近くが削られている。背中に背負ったリュックや腰に着けている装備の重さですらきつく感じるレベルだ。
顔を上げ、道路の挟んだ向こう側、目指す自宅へと視線を向ける。いつもであれば意識することもない距離なのに、今日はとてつもなく遠く感じる。
「仕方ない、諦めるか。」
そうつぶやいて、前方に向けていた視線を右に移動させる。視線の先にはダンジョン管理機構によって用意された探索者用のロッカーが置かれている。
ストーンゴーレム戦で装備に問題が起きていないかを確認しようかと思っていたが、自宅までの距離ですら億劫だ。2度手間になるが、今日はロッカーに装備を置いて帰って、回復してから改めて装備を確認しよう。とにかく、今は休みたい。
そう決めて、装着していた装備を外してロッカーへと預ける。
装備を外すと身体のキツさが幾分マシになった気がする。普段通りとはいかないが、風邪をひいて熱が出ているときくらいの状態だろうか。そう考えるとなんとなくダメな気がするが、1人暮らしであればその状態で買い物に出かけるくらいのことはしている。なので、この距離を歩くくらいであれば問題はない。
「とりあえず、装備は問題なしか。」
結局、家に帰ってから3時間ほど横になり、軽くダルさが残る程度にまで回復したので、ロッカーから装備を回収してきた。
で、装備を確認したわけだが、特にこれといった損傷はなかった。心配していたメイスについても、さすがはダンジョン産というべきか、特に問題があるようには見えなかった。さすがにレザーアーマーやリュック、ウエストポーチなんかについては汚れや小さな傷がついていたが、その程度だ。これなら、特に問題なく明日からもダンジョンへと挑戦することができるだろう。
装備を片付けたところで空腹を覚える。休む前に軽くパンを食べていたが、もう結構な時間だ。いい加減お腹もすくだろう。
だが、さすがに今日は夕食を作る気にはならない。なので、出前を取ることにして、電話で注文する。どうやら、1時間半ほどで届けてくれるらしい。
さすがに注文してすぐには届かないか。仕方がないので、テキトーにお菓子でもつまみつつ、待っている時間で家の中のことを片付けてしまおう。
届いた寿司にインスタントの味噌汁を用意してテレビを眺める。ちょうど21時のニュースが始まったところで、冒頭のニュースでダンジョンに関する話題が出ている。どうやら、先週買い物に行ったときに食堂で見た探索者支援の法案が可決されたらしい。
ずいぶんと急な話に思えるが、俺が認識していなかっただけで話自体は以前からあったのだろう。具体的にいつからどういう風な支援があるのかはわからないが、ありがたい話だ。
正直、家のダンジョンの攻略にいくらかかるのかと心配になっていた。この前は勢いでスキルスクロールを大人買いしてしまったが、改めて考えるとかなり馬鹿なことをした気になってくる。
一応、安全のために必要だと思って買ったわけではあるが、数百万の出費とか何を考えているのかという感じだ。投擲のための装備を準備したときの金額と比較して、フラッとしてしまった。
まあ、そんなわけで、ダンジョン攻略のためにお金をかけ過ぎないように注意しようと決意していたわけなんだが、この探索者支援次第では多少余裕が出るかもしれない。
今回のストーンゴーレムの件でもわかったが、やはりダンジョンを攻略しようとするとそれに見合った装備が必要になる。だが、ダンジョン産の装備を用意しようとするとかかる出費も相当なものだ。しかも、ダンジョンから得られるもので賄おうにも、低階層では碌なものが得られない。現状の成果は、金貨が1枚に銀貨が2枚という散々なものだし。
だからといって、ダンジョン産装備を諦めると身の危険につながるし、安全なところでレベルを上げてからと考えても限界はある。とにかく、この探索者支援で俺のこれからのダンジョン挑戦がより快適になることを願いたいところだ。
ひとまず、ここまでで当初考えていた第1章が終了です。
一応、ざっくりと3分の1ほどということになるんですが、見通しが甘すぎたのでなんともいえないところです。
なので、続きは書き始めていますが、見直しやら設定変更やらで次回の更新は未定となります。
さすがに次は1年以上放置するようなことはしないつもりですが。




