第16話 ストーンゴーレムへの挑戦
前話の最後にレッドスライムが5発目の火の矢を放った理由についての説明を追加しました。特にストーリーに影響する話ではないので読まなくても問題はないです。
もともと、この話の冒頭で書くつもりでしたが内容的に前話にあったほうがよさそうなので移動させました。
また、ダンジョン内の明かりについて説明が足りない感じなので修正させていただきます。
通路:薄暗い。壁や天井がほんのりと明かりを放っているので何も見えないほどではない。
戦闘に光源が必要。
部屋:明るい。天井から明かりが放たれているので部屋の中を見通すことが可能。
戦闘に光源は不要。
今までの話でダンジョン内の明かりについてそれほど触れてはいませんが、内容的に変更が必要そうなところは順次変更していく予定です。
大部屋を釣り出しなしで初めてクリアしてから3日後。
釣り出しなしの大部屋にも慣れ、余裕を持って倒せるようになった俺はダンジョン管理機構の佐藤さんに連絡を入れた。次の部屋に挑むため、自衛隊の巡回ルートを変更してもらうことに決めたのだ。
佐藤さんに対して電話越しに巡回ルートの変更を依頼すると、巡回チームに家に寄るように伝えるので直接どこを巡回ルートから外すかを伝えてほしいを言われた。
翌日。
洗い物を片づけていると家のインターホンが鳴った。おそらく昨日お願いしていた自衛隊の巡回チームが訪ねてきたのだろう。インターホン越しに相手を確認すると、予想通り巡回の隊員だった。俺は少し待つようにお願いすると急いで玄関へと向かった。
「おはようございます。」
玄関を開け、門の所まで行くと隊員の人から挨拶をされる。確か名前は小林さんと中村さんだったはずだ。
「おはようございます。今日はわざわざ訪ねてきてもらってすいません。」
俺も挨拶を返しながら門を開け、2人の前に出る。
「いえいえ、ダンジョンの攻略を進めてもらえるのであれば大歓迎ですよ。ところで、どこの部屋に挑戦されるのですか?第2階層ですか?」
「いえ、まだ第2階層には行けていないので、第1階層の部屋なのですが……。えーと、挑戦したいのはストーンゴーレムがいる第1階層の奥にある大部屋ですね。」
小林さんに第2階層に挑戦するのかと確認され、やや申し訳なくなりつつもストーンゴーレムがいた部屋を指定する。
「なるほど、あの部屋ですか。あの部屋には宝箱も設置されていますし、探索者である森山さんには都合がいいかもしれませんね。他に何か希望はありますか?」
「いえ、他には特にないです。しばらくはストーンゴーレムを相手にしようと思いますので。……先の話になりますが、挑戦する部屋を移そうとする場合はどうすればいいですか?」
俺は大部屋に宝箱が設置されているという情報に内心喜びつつ、質問を返す。
「そうですね、挑戦する部屋を変える場合は、おそらく第2階層への挑戦ということになると思いますが、今回と同じようにダンジョン管理機構経由で連絡をいただければ同じように伺いますよ。なんでしたら、巡回は決まってこの時間から始めますので我々が来るのを待ってもらって直接伝えてもらっても構いませんが。まあ、いちいち我々が来るのを待ってもらうのもあれなのでダンジョン管理機構に連絡してもらうのが確実だと思いますが。」
「わかりました。次の部屋に挑戦できるようになった場合は、また改めて連絡を入れさせてもらうことにします。申し訳ありませんが、しばらくは巡回ルートの変更のほうをよろしくお願いします。」
「いえ、大した手間でもありませんし気にしていただく必要はありませんよ。それよりも森山さんの方こそ気を付けてください。ストーンゴーレムはそこまで強いモンスターではありませんが、スライムと比べると硬さも攻撃の威力も段違いとなりますので。」
最後に俺に対してそう注意すると2人は軽く頭を下げてダンジョンへと向かっていった。俺はそれを見送りながらダンジョンに挑戦する前にもう1度ストーンゴーレムについて調べることを決めた。
午前中の用事を済ませ、昼食をとり終えた俺はストーンゴーレムについて確認してからダンジョンへと向かった。
ストーンゴーレムという新たな敵に挑むにあたり、俺はダンジョンへ入る前に装備を確認する。
レザーアーマーもレザーブーツもやや汚れが付いているが特に痛みなどは見られない。汚れについても使い込まれた風に見えて逆に味が出ている感じだ。また、ヘルメットとバッティンググローブも確認するが、こちらも特に問題はなさそうだ。
最後に金属バットを見る。
さすがにスライムとやりあう際に地面や壁を叩きつけているバットについては無傷とはいかないようだ。バットの先や側面にへこみが見える。
ストーンゴーレムに挑戦する前に買い替えていた方が良かったかな、という考えがよぎる。だが、バット本来の目的で使うわけではなくモンスターを殴りつけるために使うのだ。多少のへこみは特に問題ないだろうと考えを改める。
そうして装備の確認を終えた俺はダンジョンへと足を踏み入れた。
相変わらず巡回によってモンスターがいなくなっている通路を進み、第1階層奥の大部屋を目指す。
途中にある落とし穴の罠は生きたままになっているが、罠探知のスキルにより問題なく回避する。そのまま何事もなく順調に進み、ダンジョンへの侵入から2、30分ほどで奥の大部屋の前までたどり着いた。
扉に手を当て、ひとつ深呼吸をする。
自衛隊の巡回チームが依頼した通りに巡回ルートを変更してくれていれば、以前確認したときとは違い部屋の中にはモンスターが残っているはずだ。
慎重に扉を開いて中の様子を窺う。
――部屋の中には色とりどりのスライムと岩のようなものでできた巨人、おそらくはストーンゴーレムがいた。
俺は1度扉を閉めてどうするかを考える。
といっても俺にとれる選択肢は特にない。そのまま突っ込むか、小部屋や手前の大部屋に挑戦したときのようにスライムを釣り出してから突っ込むかだ。
……まあ、さすがにそのまま突っ込むのはあり得ないので、スライムの釣り出しを行って数を減らしてから突っ込むのだが、選択できる行動が突っ込むしかないというのは改めて考えるとひどい。
やはり俺にも遠距離から牽制できるような手段が欲しいな。今からの挑戦には間に合わないが、以前諦めたスキルスクロールの購入を考えるか。
魔法のスキルがあれば1番いいのだが、なければ遠距離武器のスキルでもいいか。それすらなければ補助系のスキルになるわけだが、こういう状況で活きるスキルはなんなのだろう。回避や高速移動などの回避系の強化か、頑強や受けのような守りの強化だろうか?
まあいい、考えるのはダンジョンを出てからだ。今はストーンゴーレムへの挑戦のことを考えよう。
俺はそうやって思考を切り替えると、スライムの釣り出しを行うために大部屋へと入っていった。
大部屋からスライムを釣り出す作業を繰り返す。
扉の近くにいるスライムたちは簡単に釣り出すことができるが、奥の方にいるスライムたちは釣り出すことが難しいようだ。レッドスライムは相変わらず釣り出しには引っかかってくれないし、ブルースライム、グリーンスライムについても奥にいる奴らは少しついてくるだけで奥からは離れてくれない。どうやら、この部屋を攻略するにはある程度のスライムが残った状態で挑まなければいけないらしい。
5度目の釣り出しの後、10分以上経過してもスライムたちが通路に出てこなかったことを確認した俺は覚悟を決めて大部屋への扉を開いた。
部屋の中に入り、改めてモンスターたちの様子を窺う。
モンスターたちはストーンゴーレムを中心に部屋の奥の方に固まっている。中心にストーンゴーレム、前方にグリーンスライムとブルースライム、後方にレッドスライムという陣形だ。前方のスライムたちは10匹程度、レッドスライムは3匹、ストーンゴーレムは1体となっている。
ちなみに、スライムの釣り出しの際に謎のゴーレムがストーンゴーレムであることは確認している。
さて、どうするか。モンスターたちの様子を確認した俺は改めて方針を考える。
安全に行くのであれば周囲のスライムたちを片づけてからストーンゴーレムに挑む形にしたい。特にレッドスライムは火の矢が面倒なので先に潰しておきたい。
インターネットで調べた情報によるとストーンゴーレムの動きは大して速くないらしい。となれば、いつも通りヒットアンドアウェイの戦法で周囲のスライムを削っていく形になるだろう。
だが、あの巨体だ。リーチは長く、周囲のスライムを狙っていった場合でもすぐにストーンゴーレムの攻撃範囲に入ってしまう。いつも以上に接近と離脱を速くしないといけないはずだ。
方針を決めた俺は、バットを強く握りしめ直し、前方に向かって駆け出した。
前方にいるスライムたちをかすめるように斜めに走り、交錯する際にバットを叩き込む。だが、いつもよりも距離をとるようにしているため、バットはブルースライムにかすっただけで大したダメージは与えられていない。
近くを通過する際に体当たりしてきたスライムたちを無視し、ある程度距離をとったところで向きを変えて今度は後方にいるレッドスライムを狙って走り出す。
レッドスライムたちもこちらの動きを見て狙いに気付いたのか、ストーンゴーレムの後ろに隠れられるように移動を始める。
接近してレッドスライムにバットを振ろうとした瞬間、ストーンゴーレムが腕を振りかぶっている姿が視界に入る。
「くっ。」
どうやら、ストーンゴーレムに接近しすぎたようだ。俺はバットを振るうのを止めて、慌ててストーンゴーレムから距離をとる。
直後、俺がいた場所を豪快な音を立ててストーンゴーレムの腕が通り過ぎた。
「……。」
間近で見たストーンゴーレムの攻撃の威力に呆然としているとスライムたちがこちらに向かって攻撃態勢に入っているのが目に入る。
「ちっ。」
バットを振り、近づいてくるスライムたちをけん制しながら後ろへ下がる。
まだ1当てしただけだが、レッドスライムの動きが面倒だ。今の動きを見る限り、レッドスライムはストーンゴーレムの攻撃範囲から離れないのではないだろうか。
となるとストーンゴーレムの攻撃をくぐり抜けながらレッドスライムを狙う必要が出てくる。こうなると先にレッドスライムだけを狙うのは厳しいかもしれない。しかも、今回の戦闘ではレッドスライムからまだ火の矢が1発しか放たれていないのだ。
そんなことを考えながら、前衛に位置するグリーンスライム、ブルースライムの数を削るべく攻撃を加えていく。
グリーンスライムとブルースライムはこちらに攻撃を加えようとしてくるので、何度か攻撃していくことでストーンゴーレムから距離が離れていく。
だが、レッドスライムについては合間に何度か攻撃を加えようとしているが、1回目と同じようにストーンゴーレムの後ろに隠れるように移動されてうまくいかない。
さらに数度攻撃を加えてグリーンスライムとブルースライムを1匹ずつ減らしたところで、モンスターたちから距離をとって息を整える。いくらダンジョン内でステータスが上がっているといっても全力でダッシュを繰り返して攻撃を加えるのはしんどい。
しかし、今までの動きを見る限りレッドスライムとストーンゴーレムは一緒に相手にする必要がありそうだ。少なくともレッドスライムは火の矢を撃ち尽くすまでストーンゴーレムの側を離れないだろう。
距離をとったことで再びストーンゴーレムの近くに集まり始めるスライムたちを見ながら、次の行動を考える。
このまま同じように続ければグリーンスライムとブルースライムを倒しきることは可能だろう。だが、残ったストーンゴーレムとレッドスライムを倒しきることができるかは不明だ。
ストーンゴーレムの攻撃は近くで見る限りかなりの威力に見えるが、さすがに1発でどうこうなるほどのものではない。ただ、ストーンゴーレムの真骨頂はその防御力にある。このまま突っ込んだ場合、ストーンゴーレムを攻めあぐねている間にレッドスライムからの火の矢を食らうことになるだろう。
火の矢についても1発でどうこうなるということはないが、ストーンゴーレムの攻撃と合わさってくると厄介だ。おまけに今回はレッドスライムが3匹もいる。何らかの対策は必要だろう。
……ここはとりあえず、最後にストーンゴーレムに一当てして撤退するか。
グリーンスライムとブルースライムだけであれば倒しきることは可能だろうが、ストーンゴーレムを警戒しながら倒しきるのは疲れる。経験値としてどの程度になるのかはわからないが、経験値稼ぎであれば手前の大部屋に行けばいい。
そう結論を出した俺は、再度モンスターたちに向かって走り出した。
最初と同じように前衛のスライムたちをかすめるように攻撃を繰り出す。こちらの動きにつられてストーンゴーレムから離れるスライムたちの動きを確認しながら、前衛に位置していたスライムたちが十分に散らばるように繰り返し突撃する。
数度の突撃で前衛と後衛が分断される。
それを確認した俺は前衛のスライムたちが再び集まる前にストーンゴーレムに対して攻撃を仕掛けた。
「はっ。」
ストーンゴーレムの側面に回り込んだ俺は、気合とともにバットを振り下ろす。
間にスライムもおらず、ストーンゴーレムも防御行動に入っていない状況だ。振り下ろしたバットはストーンゴーレムの左腕にきれいに直撃する。
瞬間、ガンッという大きな音とともにとてつもなく硬いものを叩いた衝撃が腕に伝わってきた。
同時にストーンゴーレムがこちらを振り向いて右腕で殴りつけてくる。
それを見た俺はすぐさまバックステップで距離をとって攻撃をかわし、周囲を確認する。
まだ周りにはレッドスライムしかおらず、残りのスライムたちとは距離がある。
それを確認するとそのままストーンゴーレムの背後へと回り込み、今度はレッドスライムを狙う。
1番近くにいた1匹に向かってバットを振り下ろす。
「なっ!?」
俺は驚きのあまり動きを止めてしまう。
振り下ろしたバットは根元から折れ曲がり、レッドスライムにはかすりもしなかった。
「がっ。」
驚いて動きを止めていた俺はストーンゴーレムの拳によって強制的に再起動させられた。
ストーンゴーレムの攻撃をまともに受けた俺は吹っ飛ばされて地面を転がる。
痛みに顔をしかめながらストーンゴーレムの方を見るとレッドスライム3匹が詠唱を始めていた。
必死に起き上がろうとする俺の目の前にレッドスライムから放たれた火の矢が飛来する。
「ぐぅっ。」
3発の火の矢の直撃を受け、俺はさらに地面を転がる。
痛みに耐え、目を開いて必死に状況を確認する。
吹っ飛ばされたことでストーンゴーレムの攻撃範囲からは外れたようだが、ストーンゴーレムはこちらに向かってきている。その後ろにはグリーンスライムとブルースライムも続いているようだ。
さらに悪いことに先ほどの位置から動いていなかったレッドスライムが再び詠唱を開始する姿が見えた。
これはやばい。
今までにない危機に焦りを覚える。HPもほぼ満タンだったのがさっきのダメージで100を切っている。
早く逃げないと。
詠唱するレッドスライムの姿や近づいてくるストーンゴーレムの姿を見ながら必死に身体を起こそうともがく。だが、焦るばかりでうまく力が入らずまともに起き上がることができない。
どうにかして身体を起こすとレッドスライムから火の矢が放たれるところだった。
「くそっ。」
悪態をつきながら火の矢から離れるように移動する。しかし、もともと大して距離が開いていたわけでもなく、軽い追尾機能が付いた魔法には対して効果はない。すぐに火の矢が目の前に迫ってくる。
火の矢を撃ち落とすためにバットを振るう力もなく、さらに折れ曲がったバットでは防御も心もとない。
火の矢が直撃する寸前、俺は地面に身体を投げ出して転がるように回避行動をとる。
「くっ。」
地面に転がった瞬間、2発の衝撃を感じてさらに吹っ飛ばされる。
どうやら1発は避けることができたようだが、今のでHPが半分以下にまで削られた。
顔を上げて周囲を確認すると目の前には壁がある。今ので壁まで吹っ飛ばされたようだ。
そのまま首を回して後ろを確認する。
ストーンゴーレムとスライムたちとはまだ距離があるようだ。だがここに入ればすぐにたどり着かれるだろう。
必死に立ち上がり、壁に手を突きながら扉を目指す。
だが、扉まで10メートルほどとなったところでブルースライムに追いつかれてしまう。
折れ曲がったバットで振り払おうとするが大して効果がない。体当たりを食らって地味にHPを削られていく。今はむしろ体当たりによって体制を崩される方が痛い。
扉まで5メートルを切ったところで後ろから魔法の気配を感じる。後ろを振り向いて確認するとレッドスライムが詠唱を開始していた。
やばい、この状況で火の矢を食らうとスライムとストーンゴーレムに距離を詰められて終わる。
焦りながら必死で足を動かす。
扉にたどり着く前に詠唱が終わると俺も終わってしまう。
最後の力を振り絞って扉へと急ぐ。まとわりついているブルースライムは無視だ。
目の前に扉が飛び込んでくる。どうにか詠唱が終わる前に扉にたどり着けたようだ。
俺はそのまま倒れこむように扉を押し開け部屋から脱出する。
部屋の外に出ると這うようにして扉から離れ、扉が閉まるのを確認する。
直後、部屋の中から火の矢がぶつかったであろう衝撃音が聞こえてきた。
「ふう。」
どうにかして立ち上がって通路の壁に手を突きながら、とりあえずの危機を脱したことで安堵の息をつく。
だが、目の前には部屋の中からついてきたブルースライムがいる。しばらくするとグリーンスライムも通路に出てくるだろう。
俺はつきまとってくるスライムを振り払いながらダンジョンの出口を目指した。




