第15話 力試し
自衛隊の隊員による巡回が始まってからも俺はスライムたちを相手にひたすらレベル上げに励んでいる。手前の大部屋は巡回ルートから外れているらしいので、その大部屋にいるスライムたちが相手だ。
巡回開始から4日目に佐藤さんが新しい巡回チームと一緒にあいさつにやって来たので、その時にちょうど良かったのでどういうルートで巡回しているのかを確認してみたのだ。
それによると、第1階層、第2階層の正規ルートを通って第3階層への階段の手前まで巡回しているとのことだった。
正規ルートというのは次の階層への最短ルートのことらしい。なので第1階層の手前の大部屋や第2階層にもあるという横道にそれた小部屋のモンスターの排除はしていないそうだ。
必要であれば正規ルートのモンスターも残すことが可能だと言われたが遠慮しておいた。
しばらくはレベル上げが必要だろうと考えていたし、手前の大部屋にいるスライムたちでまだ十分だったからだ。レベルが上がって十分に準備ができたと思えるようになってから第1階層奥の大部屋のモンスターを残してもらうつもりだ。
そして、今日も俺はダンジョンを歩いている。
世間ではゴールデンウィークが終わり、憂鬱な週明けが訪れているようだが、世間の流れから外れた俺にはあまり関係がない。ゴールデンウィーク中も休みとは関係なくダンジョンでスライムたちと戯れていた。
その結果、ゴールデンウィーク中にレベルが3つ上がっている。現在の俺のステータスはこんな感じだ。
名前:森山 達樹(モリヤマ タツキ)
種族:ヒト
性別:男性
年齢:34
Lv.:7
HP:160
MP:154
STR:13
VIT:12
INT:12
MND:11
AGI:10
DEX:13
LUK:13
称号:探索者
スキル:ダンジョン適応、罠探知 Lv.1
レベルアップの成果としては、INTとLUKを除いてまんべんなく成長したような感じだ。初めてステータスを確認したときには後衛寄りのステータスだと思っていたのが、今ではSTRとVITが成長して前衛寄りのステータスになっている。まあ、スライム相手に相変わらず金属バットで殴りかかっているのだから当然と言えば当然なんだが。
で、今日俺はこの上がったステータスを持って大部屋に挑戦しようとしている。いつもとは違い、通路への釣り出しをせずに大部屋にいるすべてのスライムたちを相手にしようとしているのだ。
HPとMNDが上がったことにより、レッドスライムの魔法にもある程度余裕が生まれてきているし、ダンジョン内限定だが龍厳さんに教わっている身のこなしができ始めている。
このあたりで一度どの程度戦えるのかを試してみたいのだ。もちろん、最近の戦いで十分に勝算があると判断したからこそなのだが。
「ふう。」
大部屋の扉の前に着き、ひとつ息を吐いて扉に手を当てる。
なんだか久しぶりに緊張している気がする。思えばここ最近は余裕が出てきたために漫然とスライムたちと戦っていたのだろう。
腕に力を込めて扉を開ける。
俺は大部屋にいる大量のスライムたちに向かって歩き出した。
大部屋に入り部屋の中を見渡す。ざっと見たところ、部屋の中には20数匹のスライムたちがいた。レッドスライムの数はいつも通り2匹のようだ。
とりあえず予定外のモンスターはいないようなので、俺は近くにいた2匹のグリーンスライムに向かって駆け出した。
「はっ。」
気合とともにバットを叩き込む。
駆け寄る俺に気付いて避けようとしたようだが、反応が遅い。勢いの乗ったバットは右にいたグリーンスライムに直撃している。左のグリーンスライムが反撃しようと動き出すが、こちらに攻撃してくる前に蹴りを叩き込む。
蹴り飛ばしたグリーンスライムが転がっていく。
俺はその間にバットを叩き込んだグリーンスライムに追撃を加えてとどめを刺す。
とどめを刺し終えて、部屋の中を見るとスライムたちがこちらに注目していた。
それを確認した俺は再び近くにいるスライムたちに向かって駆け出す。
今度は動きを止めず、すれ違いざまにバットを叩き込む。スライムたちもこちらに体当たりを仕掛けてくるが左腕でガードして耐える。
「っ。」
スライムたちの集団に対して3往復してグリーンスライム1匹にとどめを刺したタイミングで奥にいたレッドスライムが火の矢を放ってきた。
俺は立ち止まり火の矢に対して正面に構える。周りのブルースライムとグリーンスライムに対して無防備になるが火の矢を食らうよりはましだ。
「ふんっ。」
スライムたちからの体当たりを受けつつ、気合とともにバットを振りおろして火の矢を相殺する。衝撃に耐え、そのままバットを振り回して周囲のスライムに攻撃を加える。
ちょうど飛びかかって来ていたブルースライムを吹っ飛ばした。
一瞬の間が生まれる。
その間を利用して俺はスライムたちと距離をとり、HPを確認する。
大丈夫、まだHPは10も削られていない。
安心した俺は再びスライムたちに対してヒットアンドアウェイの攻撃を加えはじめた。
どれくらい時間がたったのだろうか。スライムたちに攻撃を繰り返しているうちに気付けば残りはレッドスライム2匹とブルースライム3匹になっていた。
レッドスライムの火の矢はあれから3発受けている。残念ながら個体の識別ができないので2匹のレッドスライムのそれぞれが何発の火の矢を残しているのかはわからない。だが、火の矢の半分を使わせていると考えて良しとしよう。
5メートルほどの距離をあけてスライムたちを向き合う。ブルースライムを前衛、レッドスライムを後衛としたいつもの陣形だ。
ブルースライム3匹が仕掛けてくる。
俺は金属バットを構え、ブルースライムの攻撃に備える。
ブルースライムはタイミングを合わせて3匹同時に飛びかかってくる。同時に後ろでレッドスライムが火の矢を撃ちだすのが見えた。
右手でバットを振るい右から来ていた2匹を止め、左からの攻撃を腕でガードする。左から来たスライムが地面に落ちると同時に思いきり蹴り飛ばし、後ろに跳び下がって距離をとる。
眼前に迫る火の矢をバットで消し飛ばしながらブルースライムの動きを追う。
バットで振り払った2匹が体勢を立て直し、こちらに迫っていた。
こちらも体勢を立て直し、逆に攻勢をかける。
一気に距離を詰め、右のブルースライムに突きを繰り出す。
ブルースライムの中心を突いて吹っ飛ばすとそのままバットを横に振るって左のブルースライムにも攻撃を仕掛ける。
だが、こちらの攻撃は飛びのいて避けられてしまう。
俺も後ろに跳び下がって距離をとる。
そのタイミングでレッドスライムからの火の矢が飛んでくる。
バットを構え火の矢を撃ち落とす。だが、火の矢と同時に飛びかかって来ていたブルースライムの攻撃を受けてしまった。
「くっ。」
腹に受けた衝撃によろめきながらもバットを構え、追撃に備える。
しかし、ブルースライムはすぐに追撃に来ず、他の2匹と足並みをそろえることを選んだようだ。
前々から思っていたが、スライムのくせに無駄に頭を使っているように感じるのは気のせいだろうか。
そんなことを考えている間にブルースライムが3匹並ぶ。再びブルースライムを前衛、レッドスライムを後衛とした陣形となり仕切り直しだ。
今度はこちらから仕掛ける。
真ん中のブルースライムに向かって突きを繰り出す。ブルースライムは左に転がって避けようとするが、こちらも突き出したバットを横に振り抜いて追撃する。
振り抜いたバットは左にいたブルースライムもろとも吹っ飛ばした。
右のブルースライムが飛び掛かってくる。
俺は右腕でガードする。
だが、ブルースライムの後ろからレッドスライムが飛び掛かって来ていた。
レッドスライムが前に来ると思っていなかった俺は一瞬反応が遅れる。
俺は腹に衝撃を受けてよろめいた。
「ぐうっ。」
レッドスライムの攻撃力は強い。たまらず後ろに下がった俺に対して後ろのレッドスライムが火の矢を放ってくる。
「ちっ。」
バットで火の矢を撃ち落とし、一瞬遅れてブルースライムが体当たりをしてきたのを足で迎撃する。
ブルースライムが転がるのを見送り、レッドスライムに向き合って突きを繰り出す。
レッドスライムが後ろに転がって避けるのを足を使って素早く突きを繰り返して追撃する。
3発目に直撃してレッドスライムを吹っ飛ばすと俺は転がっているブルースライムに対して追撃を仕掛ける。
バットを2発叩き込んだところでブルースライムは光となって消えた。
離れた位置にいるレッドスライムを警戒しながら、吹っ飛ばした2匹のブルースライムを確認する。ちょうど吹っ飛ばしたダメージから復帰したところらしい。2匹揃って俺に対して敵意をぶつけてくる。
だが、わざわざあちらのタイミングに合わせる必要もないだろう。俺はブルースライムたちに向かって走り出した。
ブルースライムとすれ違いざまに横なぎにバットを振るう。手前のブルースライムには避けられたが後ろの個体にはバットが直撃する。
俺は更に追撃するべく、ターンしてバットを振りかぶる。先ほどの攻撃を避けたブルースライムが飛び掛かってきている。だが、ただのいい的でしかない。ブルースライムの体当たりの勢いを加えて地面に叩きつけることができた。
視界を奥にまで広げてレッドスライムの様子を探る。
レッドスライムは警戒しているようで2匹揃って奥にいるままだ。
ちょうどいい、このままブルースライムにとどめを刺させてもらおう。俺は目の前に転がる2匹のブルースライムに対してバットを振り下ろした。
ブルースライムを片づけた俺は残ったレッドスライムと向き合った。
今までに火の矢は合計で7発放たれている。つまり残りの火の矢は1発のみということだ。HPもまだ100以上残っているし、焦らずいつも通り対処すれば問題なく倒すことができるだろう。
そんなことを考えていると2匹のレッドスライムがこちらに向けて動き出した。
レッドスライムの移動速度はグリーンスライム、ブルースライムに比べると素早い。すぐに距離を詰められ、向こうの攻撃可能範囲に入ってくる。
俺は慌ててバットを構えて攻撃に備える。
するとレッドスライムは俺の目の前で左右に分かれ、挟撃しようとしてきた。
「くっ。」
スライムのくせに相変わらず連携を取ってくる行動にうんざりしながらも、俺は後退して2匹を視界に入れるようにしつつ右側のレッドスライムに向き合う。
すると右側のレッドスライムは左右に小刻みに移動してこちらの狙いを外そうとしてくる。と、同時に左のレッドスライムから魔法の気配が感じられた。
「マジかよ。」
俺はそうつぶやきながらも、詠唱を止め、さらにはその隙を突くべく左側へ向きを変えようとした。しかし、そんな行動を右側のレッドスライムが許すはずもなく、俺に向かって体当たりを仕掛けてくる。
バットや腕でガードしても何度も繰り返し体当たりしてくるレッドスライムを振り払い、詠唱しているレッドスライムの前にたどり着く。
が、一瞬早く詠唱が完了し、目の前に火の矢が現れた。
「くそっ。」
俺は急いでガードしようとするが、間に合わず火の矢を至近距離からまともに食らってしまう。
「がっ。」
火の矢の衝撃により俺はふっとばされてしまった。HPも今の一撃で100を切ってしまったようだ。HPはまだ十分に余裕があると言える数値ではあるが、レッドスライムが追撃しようとしているのが見える。急いで体勢を立て直す必要があるだろう。
俺はレッドスライムの体当たりを地面を転がって躱す。体当たりを躱した後も、レッドスライムから距離を取るためさらに地面を転がる。微妙に目を回しつつも、レッドスライムから十分に距離を取ったところで俺は立ち上がり、バットを構えた。
再びレッドスライムと向き合う。2匹は俺が体当たりを躱したところで並んでこちらを見ていた。
「ふう。」
レッドスライムの姿を確認したところで、ひとつ息を吐く。
最後にまともに食らってしまったが、今ので火の矢は尽きたはずだ。であれば、ここは一気に行かしてもらおう。
そう決めると、俺はレッドスライムに向かって駆け出した。
俺が近づくとレッドスライムたちもこちらを迎撃すべく動き出す。どうやら、さっきと同じように左右に分かれて挟撃しようとしているらしい。
だが、先ほどと違ってこちらが攻めて行っているのだ。狙いを右側のレッドスライムに定めると俺は交錯する際にバットを叩き込む。
レッドスライムが吹っ飛ぶのを確認し、俺はそのまま追撃に移る。視界の隅で左側に移動したレッドスライムを確認したが、特にこれといって動きはないようだ。まあ、火の矢が尽きた以上、距離がある状態では何もできないだろうが。
吹き飛ばしたレッドスライムに駆け寄り、バットで追撃を加える。レッドスライムも体勢を立て直そうとしていたようだが、わずかに遅い。起き上がる前に俺のバットが直撃する。
その後は動きを止めたレッドスライム相手にひたすらにバットを叩き込む。
「っ。」
転がるレッドスライムに5発ほど追撃を加えたところで後ろから不穏な気配を感じた。目の前のレッドスライムはあと1、2発で倒せるはずだ。だが、今は後ろの不穏な気配を確認する方が先だ。何となく嫌な予感を感じつつ、俺は後ろを振り返った。
「はぁ!?」
振り向く前から何となくわかってはいたが、そこには詠唱をしているレッドスライムの姿があった。
「くそっ、こいつらの火の矢は打ち止めじゃないのかよっ。」
俺は文句を言いつつ、バットを正面に構えて火の矢に備える。が、その前に念のために転がっているレッドスライムを蹴り飛ばしておく。すると、蹴り飛ばしたレッドスライムは壁にぶつかり、光となって消滅した。どうやら、本当にギリギリのHPしか残っていなかったようだ。
レッドスライムが消滅したのを確認した瞬間、もう1匹から火の矢が飛んでくる。
俺は飛んできた火の矢をバットで叩き潰すと、そのままレッドスライムに向かって駆け出した。
結局、その後は1匹になったレッドスライムに対してフットワークを活かしながらバットを叩き込んでいくことで問題なく倒すことができた。
こうして俺の大部屋への挑戦は終わった。最後に予想外の出来事があったが、結果だけを見ればHPも半分以上残っているし、まあ問題ない結果と言えるだろう。
そうは言っても、しばらくは今日と同じように通路への釣り出しをせずに大部屋へ挑んでみる予定だ。それで余裕を持って対処できるようになれば、第1階層奥の大部屋、ストーンゴーレムへ挑戦しようと思う。
そんなことを考えながら、俺はダンジョンを後にした。
ダンジョンから帰った後、俺はレッドスライムが火の矢を限界を超えて放ってきたことについて調べてみた。さすがにわからないまま放置しておくのは問題だと思ったのだ。
その結果、可能性として有り得るのはレッドスライムのMPが自然回復したか、あのレッドスライムのレベルが1ではなく2以上だった、もしくはステータスがMPに偏った固体だったかというものだった。
だが、MPの自然回復についての情報を調べると戦闘中に回復したのではなく1度部屋を離れてから再挑戦した際にMPが回復していたという話だった。なので、あれはレッドスライムが高レベルだったかステータスが特殊な固体だったのだろうという結論に至った。
本当のところを確認するには鑑定スキルでステータスを確認する必要があるし、すでにあのレッドスライムは倒してしまっているので確認のしようもない。まあ、訳も分からず今まで限界だと思っていたものを超えられるよりは、とりあえずの理由付けができている方が安心できるという程度なので特に本当のところを突き詰めて確認しようとも思わない。
とりあえず、今までの戦闘でレッドスライムの火の矢は4発だと思い込んでいたのを5発目以降があるかもしれないと頭に入れていればいいのだ。
そうやってレッドスライムの問題にけりをつけた俺は明日以降の挑戦に備え、いつもより早く寝床に就くのであった。
前話からかなり期間が空いてしまいましたが、続きを書く意思はあります。
今後の更新は不定期となりますが、できる限り間が空かないようにしたいと思います。




