第12話 レッドスライム
スライムの釣り出し実験から3日目。
昨日までレッドスライムを相手にせず、通路に釣り出したスライム相手に安全に経験値稼ぎをしていた。
その結果、およそ1週間ぶりにレベルアップを果たした。このペースは早いのか遅いのか。
なんにせよ今のステータスはこんな感じだ。
名前:森山 達樹(モリヤマ タツキ)
種族:ヒト
性別:男性
年齢:34
Lv.:3
HP:120
MP:118
STR:10
VIT:10
INT:12
MND:10
AGI:9
DEX:12
LUK:13
称号:探索者
スキル:ダンジョン適応、罠探知 Lv.1
上昇したステータスはHPが10、MPが9、STR、VITが1ずつだ。前回のレベルアップと同じ結果になったのは同じような行動をしているからだろう。
レッドスライムの魔法を食らいまくればMNDあたりが上昇するのかもしれないが試したいとは思わない。他のステータスの成長には今後に期待といったところか。
そして今日、ついにレッドスライムに挑戦する時がやってきた。
いつも通りに小部屋からスライムたちを2回ほど釣り出した結果、部屋の中にはレッドスライム1匹とブルースライム1匹、グリーンスライム2匹の状態だ。
そして、俺のHPもほとんどダメージを受けていない。
レッドスライム相手に1対1という形になっていないのは残念だが、レベルアップも果たしたことだしちょうどいい機会だろう。
俺は本日3度目となる小部屋への挑戦を始めた。
小部屋の中に入ると正面にスライムたちが陣取っているのが見える。正面にブルースライム、左右にグリーンスライム、後ろにレッドスライムという布陣だ。
俺がさらに中へと歩みを進めるとスライムたちが警戒を強めたのを感じる。
見ればレッドスライムが詠唱に入っているようだ。
だが、スライムたちとの距離はまだ10メートル以上ある。
今から突っ込んでも中途半端な位置で火の矢を迎撃することになるだろう。
ここは迎撃態勢を維持したまま慎重に近づこう。
スライムたちとの距離が5、6メートルほどになったところでレッドスライムから火の矢が放たれた。
俺はバットを上段に構え、火の矢を正面から見据える。
そのままタイミングを合わせてバットを振り下ろした。
衝撃とともにバットが弾かれ、身体が後ろに反らされる。
すぐさま体勢を立て直そうとするが、距離を詰めて飛びかかろうとするスライムたちの姿が見える。
どうやら、火の矢とともにこちらに向かってきていたようだ。
「くっ。」
飛びかかってくるブルースライムの攻撃を受け止めることを諦め、俺はそのまま後ろに倒れこむようにして避ける。
遅れて飛びかかって来たグリーンスライムたちの体当たりを受けつつ、横に転がって距離をとる。
すぐさま起き上がり周囲に目を向ける。
左手にブルースライム、右手にグリーンスライム、その後方にレッドスライムだ。
「どうすべきか。」
スライムたちを前に、バットを構えつぶやく。
壁役になっているブルースライム、グリーンスライムを先に潰すか、それとも厄介なレッドスライムを先に潰すか。
……やはり、ここは一番厄介なレッドスライムを先に潰すことを考えよう。
グリーンスライムあたりはレッドスライムを狙っているうちに勝手に巻き込まれて倒れてくれそうな気もするし。
そう結論を出した俺はレッドスライムの前に立ちふさがるグリーンスライムに向かって走り出した。
スライムたちは俺の正面に移動し、こちらの行く手を遮るように正面から体当たりを仕掛けてくる。
だが、俺の目的は突破なので腕を身体の前に交差して突破を図る。
腕に軽い衝撃を感じた後もさらに進み続け、俺はレッドスライムの前に到達した。
「ふー。」
ひとつ息を吐き出し、バットを正面に構えてレッドスライムと対峙する。
しかし、近くで見てみてもレッドスライムと他のスライムには色以外の違いが見られないな。
サイズはバスケットボールほどで接地しているときは球形が崩れ、色の奇抜なグミや饅頭のようにしか見えないところも同じだ。
それなのにこいつは火魔法を放ってくるという。
正直、俺の持っていたスライム観はすでに崩壊している。もともとネットの情報でも雑魚としか書かれていなかったので俺もそのイメージでダンジョンに挑戦を始めた。
その結果がこれだ。
最弱のグリーンスライムには嬲られ、レッドスライムには火魔法の洗礼を受ける。
ダンジョンへの挑戦を始めてから約2週間。第1階層の突破どころか小部屋の攻略すらできていない。
これもすべてスライムが悪い。雑魚なら雑魚らしく簡単に蹴散らせてくれてもいいのに。……まあ、結構な確率で俺の準備不足のせいだという気がしないでもないが。
どうやら敵を前に長いこと考えことをしすぎたようだ。
レッドスライムが魔法の詠唱に入っている。
さすがに目の前で詠唱をされて、それをみすみす見逃すほど俺は優しくない。
一気に距離を詰めて上段からバットを叩き込む。
だが、グリーンスライムが横からバットに向かって体当たりを加えてくる。
横から入ってきたグリーンスライムは今の一撃で横に転がっていったが、肝心のレッドスライムに攻撃が届いていない。
俺は慌ててバットを構え直し、今度は正面からバットを突き込んだ。
だがやはりというべきか、横からもう1匹のグリーンスライムがバットに向かって体当たりをしてくる。
しかし、それを予想していた俺は間に挟んだグリーンスライムごと突き込む勢いでレッドスライムへと突きを放った。
「ぐっ。」
突きを放った瞬間、背中に衝撃を受ける。
後ろを振り返るとそこにはこちらを狙うブルースライムの姿があった。
どうやら1撃目の攻撃をグリーンスライムに阻まれたタイミングで後ろに回り込まれていたようだ。
だが、俺はイヤな気配を感じて視線を前に戻す。
そこには頭上に火の矢を掲げ、こちらを狙うレッドスライムの姿があった。
「くっ。」
俺は慌ててバットを身体の正面に構える。
直後、バットに受けた大きな衝撃とともに俺は後ろへと吹き飛ばされた。
宙を飛ばされて地面に落ちた衝撃が背中に響く。だが、防具のおかげで吹き飛ばされたことによるダメージはなさそうだ。
火の矢による攻撃では2割ほど削られたようだが。
バットを手に立ち上がる。
やってしまった。レッドスライムに気を取られるあまり、ブルースライムのことが意識から外れていた。
だが、グリーンスライムについてはさっきの攻撃でそれなりのダメージが入っているだろう。
ここからどういう風に立ち回るかが肝心だ。
視線を前に戻すとスライムたちの陣形は最初のものに戻っていた。すなわち、正面にブルースライム、左右にグリーンスライム、後ろにレッドスライムという布陣だ。
スライムたちはさらに奥へと移動したようでこちらとの距離はまた5、6メートルにまで開いている。
さて、どうするか。
面倒なレッドスライムを先に倒しておきたいのはそうなんだが、さっきのようなことが起きることを考えると先にまわりのグリーンスライムとブルースライムを倒しておいた方が後々の面倒がなさそうだ。
では、グリーンスライムたちから片づけることにするか。
そう決めると俺は右手からスライムたちに向かって駆け出した。
スライムたちがこちらに反応する。
だが、レッドスライムの保護を優先しているのかこちらに飛び出したりはしてこないようだ。
ならこのまま突っ込ませてもらおう。
俺は右にいたグリーンスライムに狙いをつけるとバットを突き入れる。
微妙に避けられてかするような形になったがまあいい。
そのまま上段からの追撃を加える。
そこでやっと別のグリーンスライムとブルースライムがこちらに向かって突撃してきた。
俺は後ろに跳び下がってスライムたちの体当たりを避ける。
そしてスライムたちが地面に落ちた瞬間を狙ってバットを叩きいれる。
グリーンスライムは今の一撃で動けなくなったようだ。
ここはブルースライムを警戒しながらとどめを刺してしまおう。
そう決めた俺はブルースライムからの体当たりを腕でガードしながらグリーンスライムへととどめを刺した。
グリーンスライム1匹を片づけた俺は一度スライムたちとの距離をとった。
レッドスライムの様子がおとなしいのだ。
今までであればとどめを刺そうと一か所でじっとしていると火の矢を放ってきていたというのにどうしたのだろうか?
もしかして、MPがなくなったのか?
スライムたちを釣り出すときに1回ずつ撃たれ、今回は2回撃たれているので合計4回だ。
レッドスライムの火魔法は4回が限度なんだろうか?
……うむ、わからん。我ながら、なぜこういう必要な情報を収集していないのか。
まあいい、一応いままでどおりレッドスライムからの火魔法が飛んでくるかもしれないと警戒しながらグリーンスライムとブルースライムを相手にしよう。
バットを正面に構え、スライムたちに向き合う。まずは左のグリーンスライムだ。
俺はバットを下段に構え直しグリーンスライムへと素早く近づくと、すくい上げるようにバットを振った。
グリーンスライムは転がるように避けようとしたが上部をバットが抉る感触があった。ダメージは十分だろう。
俺はブルースライムに向き直る。
直後、視界に済でレッドスライムが飛び込んでくるのが見えた。
「なっ。」
俺は驚きつつも後ろに跳び下がってレッドスライムの体当たりを避ける。
そのまま後ろへと下がり、スライムたちと距離をとった。
「MPが切れて直接攻撃に切り替えたのか?それとも単に壁が少なくなったから直接来たのか?」
レッドスライムの突然の攻撃に疑問を口にするが、もちろん答えなど返ってこない。
「まあいい、直接来てくれるのであればこちらもありがたい。速攻で決めてやる。」
そう言うと俺はスライムたちに向かって駆け出した。
俺はまず一番近いブルースライムへと殴り掛かった。
ブルースライムは横に転がって回避しようとするが、その回避パターンは読んでいる。
俺はバットの軌道を回避方向に合わせて変化させてダメージを与える。
直後にこちらに攻撃に来たグリーンスライムにはバットを返してそのまま打ち上げる。
4、5メートルほどはあるかという天井近くまでうまく打ち上がったことに満足しつつ、俺はブルースライムへの追撃に移る。
ベチャッという落下音とともにグリーンスライムが光になるのが見えた直後、最後に残ったレッドスライムがこちらに突撃を仕掛けてきた。
俺はブルースライムへの追撃の手を止め、バットでレッドスライムの体当たりを受け止める。
地面に落ちたレッドスライムにバットを叩き込むが、レッドスライムは横に飛び跳ねて避ける。
転がるだけじゃないのかよと思いつつ、バットを構えレッドスライムの攻撃に備える。
レッドスライムは左右にポンポンとリズムよくはねた後、こちらに向かって飛び込んできた。
俺はバットを突き出して迎撃する。
瞬間、グリーンスライムたちとは比較にならない衝撃が腕へと伝わってきた。
どうやらレッドスライムは魔法だけだはなく、物理も強くなっているらしい。
だが、バットにまともに衝突したレッドスライムも無事ではないはずだ。
バットに弾かれてやや離れた位置を跳ねているが先ほどよりも弱々しく感じる。
だが、俺はレッドスライムへの追撃よりも先にブルースライムを片づけることを優先した。
ないとは思うがブルースライムに回復されてまた2対1になるのは面倒だ。
そう思い、ブルースライムにバットを何度も叩き込んで光へと変えると、その瞬間に再びレッドスライムが飛び掛かってくる。
俺はバットを水平に構えバントの要領でレッドスライムを受け止めるとそのまま地面へと打ち付けた。
これにはレッドスライムもダメージを受けたようで明らかに動きが鈍っている。
このまま一気に畳み掛けよう。
俺は動かないレッドスライムに対しバットを振りかぶってこれでもかというくらいにバットを叩き込んで光へと変えた。
正直、10回を超えたところで回数を数えるのをやめたんだが、どんだけタフなんだよ。
だが、悪いことばかりではなく、良いこともあった。ドロップアイテムが入手できたのだ。
ドロップアイテムを残したのはレッドスライムだ。やはり上位種の方がドロップアイテムを残しやすいのだろう。
で、問題のドロップアイテムだが、“銀貨2枚”だ。
……正直、しょぼいのは認める。だが、初ドロップなんだ。喜んでもいいだろう。とりあえず、初ドロップの銀貨2枚は大事にしまっておく予定だ。
で、この銀貨についてなんだが、大きさはおよそ500円玉くらいで表には剣と盾、弓矢を重ねた意匠が施されている。それなりにきれいなものなんだが価値的にはどうなんだろう。
ただ、ダンジョン管理機構の買い取りだと1枚5、600円程度だったはずだ。
2週間ほど1日2時間ほどダンジョンに入った結果が約1000円。かかった諸経費約50万円。
「……。」
いや、きっとこれから、レッドスライムも倒したし、これから宝箱とかを入手して収益が上がるはずなんだって。
俺はダンジョンから出るまで誰に向けたものかもわからない言い訳を延々と繰り返していた。




