人生②過去にはいろいろありました
ワタクシ、佳山優子はもともと、大きな会社を持つ佳山財閥の一人娘でした。
お父様もお母様もまだまだ働き盛りであり、ワタクシも何不自由のなくお金まみれの生活をしていたのです。
欲しいものはなんでも手に入りました。
有名な私立の小学校に通い、週末にはパーティで踊り、楽しく、毎日やりたいことを全て叶えてきたワタクシは蝶よ花よと育てられ、大変傲慢になっていましたわ。
それでもどこか、ひとりきりで食べる食事に孤独を感じてもおりましたわね。広いテーブルでたったひとり、静かに食べるだけの一流シェフの料理は、美味しいはずなのに味気なく感じられたものです。
そんな頃、ワタクシある一匹の犬を拾いました。
小汚い格好をしてワタクシの足に擦り寄ってきたその犬はワタクシのことをご主人様と呼び、なんでもいたします、私を奴隷にしてくださいとヨダレを垂らして懇願しました。
その姿はあまりにも哀れ、あまりにもいじらしく、ワタクシは一目見てこいつを飼ってやろうと決めました。
そこからです、ワタクシの人生に亀裂が入ったのは。
ワタクシは家に帰ってまっさきに両親に新しい犬を見せましたが、すぐに捨ててきなさいと言われてしまいましたので、隠れて家の裏に小さな犬小屋(1DK)を建ててやり、そこに住まわせてやりました。
犬は大変喜び、ワタクシの膝をぺろぺろと舐めては感謝しました。
それからその犬をワタクシはマイケルと名づけ、甲斐甲斐しく世話をし、必要なものや欲しいものすべてを整えてやったのです。
犬は執拗にワタクシと一緒にお風呂に入りたい、一緒にベットで眠りたいとねだりましたが、こっそり飼っているわけですので、その願いを叶えてやることはできませんでした。
それならといつでもワタクシのそばを離れようとしなかったマイケルはいつしか、両親が家にいないことでいつも孤独を心の片隅に持っていたワタクシを癒してくれる、もっとも大切なものとなっていました。
その毛深い足も、
薄く伸びた無精ひげも、
ワタクシを見るといやらしく垂れてしまうヨダレも、
隙あらばワタクシのお尻や胸を触ろうとくにゃくにゃしていた指先も、
ワタクシにとってはすべてが可愛かったのです。
それからというもの、何かあるたびにワタクシはマイケルに貢いで貢いで貢いで貢いで貢いで貢いで貢ぎました。
立派な服、靴、玩具、食事、メイド、別荘を買ってやりました。
マイケルはとても喜びました。そのことで、ワタクシも嬉しくなりました。少しだけ満たされていたのです。
だから気づかなかったのです。
ワタクシが、あまりにも家のお金を使い潰し始めていたことを。
そして、マイケルが持つ気持ちの悪い性癖のことを。
小学校を卒業する日、ワタクシは両親に呼び出され、莫大なお金の使い道について質問されました。
正直にお話しましたら、両親は激怒。ワタクシを勘当し家から追い出すと大声で叫んで部屋から押し出されました。
しばらくはぼうっとしていたワタクシは、その意味が徐々に分かってくると泣きながらマイケルのもとへ向かいました。
マイケルはテレビを見ながら小指で耳を掻いていました。
『マイケル聞いて!ワタクシ、家から追い出されてしまうのよ!』
そういったワタクシに、彼がなんと答えたかは、ワタクシは忘れられません。
『はは!そりゃそうだろうよ。俺だってあんたに嫌気が差してきたところさ』
げらげらと笑いながらいやらしく言うマイケルが信じられず、
『なんでですの!?』
とワタクシは叫びました。
すると彼はこういったのです。
『だってあんた俺にヤラせてくれなかっただろ?俺は従順にずっーーーと待ってたのにさぁ。俺は金髪ロリータでランドセルを背負ったあんたが好きだったんだからよぉ。今更デカくなって、尻も胸も出て来るだろうのあんたになんて全くそそられねぇわけよ』
ぼろぼろと涙が出ました。
そんなことを、愛犬が思っていたなんて、これっぽっちも信じられませんでした。
『おーおー、可愛いねえ。あんた、今日が小学生最後の日なんだろ?しょうがないから今日これからあんたを可愛がってやるよ。可愛がってやるからさっさと服脱いでこっちこいや。ほら、ほらほらほらほらほら!!』
そういってスカートの中に顔を突っ込んできたマイケルに膝蹴りをかましたとき、ワタクシはようやく正気に戻りました。
急いでマイケルの犬小屋を立ち去り、両親に『生活費だけはよろしく頼みますわ。でないとマスコミに・・・』と伝言を託し、この街へ逃れてきたのです。
家からも離れ、生活費もあまりかからなさそうな田舎町。
ここでワタクシはもう二度と同じ轍は踏まないこと、そしてむしろ貢がれて貢がれてしょうがない人生を歩み、この街で静かに骨を埋めることを決意したのです。
家出をし、独立する。
ワタクシはワタクシのチカラでのしあがり、いつかマイケルに指を突きつけ、金のチカラで土下座させ、後悔させてやりますの。
そしてその最初の晩、当然家を借りることもできず野宿しようとしていたワタクシを。
『お嬢ちゃん、僕のところで働かない?』
マイケルと少し似た、でも雀の涙ほどの差で健全にワタクシを誘ったのが、今の雇い主である変態店長様だったのです。
それ以来というもの、ワタクシは『子猫のゆり籠』にて手ずからの力によって労働賃金を手にし、多くの男たちを屈服させる魅力を持って貢ぎ物を手に入れてきました。
まさに女王としてワタクシは地位を築いてきたのですわ!
今住む築50年の古いアパートにはふかふかのベッドも、家事をこなしてくれるメイドもいません。それでもワタクシは強くなりましたわ。
毎日を、ワタクシ自身の力で生きていますわ。
「明日も、気張って貢がれますわよ!」
ワタクシは天に拳を突き上げて言いました。
さて、今日は1週間ぶりに、お風呂を沸かそうかしら?たまの贅沢も、いいですわよね。