プロローグ
「跪きなさい、この腐れ愚民野郎」
時代は中世にまで遡---らない、現代。ある田舎の商店街の一角。そこには、王者の風格を漂わせ、まさしく時代錯誤というべきヨーロピアンな門を構えた奇々怪々の店があった。
その館の名前は、『子猫のゆり籠』。
子猫をなぜミーシャと読むのかは謎である。
店の外観もさることながら、中の内装も派手派手のこってこてであり、それこそ王宮かなにかをこの小さな空間の中に閉じ込めたかのようだった。
外の寂れた商店街とは雰囲気の違う、少し薄暗く設定された照明。煙のように甘く漂う香り。そして。
ビスクドールかと思わせる美しい容姿をした小さな背丈の金髪美少女が、その可憐な顔に心底嫌そうな表情を浮かて男を見下ろしていた。
「は、は、はひっ!か、カレン様ぁああああ!!よよよ喜んでひれ伏しますぅううう!!」
「気持ち悪いからさっさと顔を地面に擦り付けてその汚い顔と汗と目と口と全部をワタクシに見えないようにして」
「ももももっともっともっと僕チンを罵ってくださいぃいいいい!」
「ゲス野郎」
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァハァハァ」
「・・・キモっ」
「ハフぅうううう!!!もっと罵って!踏んで!いぢめてぇええ~~!!」
・・・この、卑猥でキモくてキモイ客とのやりとりこそ、この店の名物。『カレン様の愛のムチ』。
ぺちりぺちりと対象も見ることなく振るわれる長い鞭は、その無関心さや冷ややかさも込みで対象を激しい興奮へと誘い、今や昇天しそうな顔で快感を味わわせるままになっている。
幼い容姿の娘が大の大人をひれ伏させているその光景は見るも明らかに異常であるのに、この独特の環境の中においては妙に艶めかしさも感じさせた。
各所に設けられている趣味の悪いテーブルに置かれたメニューを広げると、ハートを大いにあしらった可愛らしい紙面の上にはほかにも様々なサービスが羅列されており、客は好きなメイド様から好きなサービスを受けることができるのだ。
『カレン様の愛のムチ』は特にマニアックな客が熱望する人気サービスの一つ。そのページには大きく『妹系女王様』と書かれており、『妹系』の二文字には荒くマジックで塗り消されたような痕が残っていた。
そう、ここは。 メイドカフェ・・・と、様々なアトラクション(?)が一度に楽しめるメイド達の変態店長による変態たちのための変態メイドカフェ、なのである。
「はぁぁぁ〜〜、」
肘をお行儀悪くつきながら女王はつぶやく。
「どうしてこうなったのかしら…」
ーーーーこんな人生設計ではなかったはずですのに。
と。吐いた息を袋に保存しようとする変態に一蹴り打ち込みながら、嘆息を漏らした。
この物語は、ある田舎町を舞台に、荒れ廃れた人生を歩んできた苦労人かつ無駄にねじれにねじれたある二人組があるど田舎で恋に落ち、彼らに似つかわしいねじれた恋愛を送った一部始終を面白おかしく後世に残すためのものである。
是非一度、ご賞味あれ。