表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/32

不滅の蝋燭

 ひび割れたアスファルト。巨大な墓石のような廃ビル群。インフラは壊滅しており、ガスや電気はおろか、水道すら機能していない。詰まった下水管からは汚水が溢れ、日々生み出される死体と撒き散らされる糞尿で、街には常に悪臭が漂っている。

 それが一部の富める者達に見捨てられた〝外〟の現状であり、多くの人が住まう世界の惨状であった。

 無事に夜を越せるだけで幸運。食事は三日に一度でもあり付ければ良い方で、一日の大半はドブネズミのように食料や換金できる鉄くずを探す日々。体調を崩しても薬は手に入らず、医者にかかる余裕も無い。軽い風邪が致命的になる事も少なくない。小さな傷から感染症に侵され、手足や命を失う者も後を断たなかった。


 貴重なエネルギー源である〝アゾット結晶〟をその身に宿すアンジュの場合は、更に生き辛い。アゾット結晶は高値で取引され、故にアンジュは人狩り共に常に狙われている。アゾット結晶の色を映した髪や瞳は隠しようが無く、しかして大半のアンジュは普通の人間より少々身体能力が高い程度でしかない。自衛できるほどの力を持つ者は、ごく稀だ。

 物心がついた時からそのような世界で過ごして来た幹耶には、それが当たり前だった。飲み水を確保する事すら困難で、街は空っぽの腹を抱えてうずくまる人々で溢れている。夢と言えば腹いっぱいに食事をする事。そしてただ、一日でも長く生きる事。


 不便ではあったが、不幸では無かった。不満はあったが、幹耶は不屈だった。

 幹耶はアンジュと、それを(かくま)う小さなコミュニティの中で暮らしていた。ごみ溜めをうろつく子供たちに紛れて資源を漁り、時には野山まで足を伸ばして口にできそうな植物を採取したり、罠を這って野生動物を狩るのだ。それでも実入りが少ないときは、ネズミを狩って口にする事もあった。しっかりと火を通せば、意外となんでも食べる事ができた。味の方は言葉にしたくもないが。


 幹耶はそれなりに幸せだった。何もかもが(まま)ならず、苦しい思いをする事は多かったが、それが当たり前なのだと思っていた。これが人の生きる道なのだと信じていた。

 しかして、幹耶の濁った平穏は一夜にして崩れ去った。人狩りの野党にコミュニティが襲われたのだ。

 日課のごみ漁りで大物を引き当てた幹耶は大喜びで換金し、露店で値切りに値切った食品を抱えて仲間たちの元へと急いだ。我が家まであと少し、と言う所で幹耶は異変に気が付いた。恐る恐る近づき、そっと覗き込む。


 何もかもが赤く染まっていた。何もかもが奪われていた。一匹のネズミ肉を分け合った仲間たちも、頭を撫でてくれた大人たちも、物言わぬ肉塊となって地面に転がっていた。

 幹耶は駆け出した。誰かに助けを求めようとがむしゃらに走った。アゾット結晶を抉り出されている仲間たちの姿が頭の中を巡って、何度も吐いた。しかし幹耶はそれでも足を止めず、ただ走り続けた。

 駆け続ける幹耶の胸に、ある思いが浮かび上がる。助けを求める? 誰に助けを求めるというのだ。はぐれ者の自分たちを、うち捨てられた自分たちを助ける者など居はしない。


 治安維持組織は役に立たない。時折仕事をするときはあるが、それはあくまでも体裁を保つためだ。積極的に仕事をするはずがない。キリがないからだ。助けを求めた所で門前払いが良い所だろう。

 そこらの人に声をかける? とんでもない。誰もが自分自身が生きるだけで精一杯だ。下手をすれば逆に自分が捕らわれて、人狩り共に引き渡されてしまう。


 幹耶の脚は次第に鈍り、ついには立ち止まってしまった。

 黒く汚れた手の平を見て、思う。自分に少しでも力があれば。ただそれだけを強く思った。

 アゾット結晶をその身に宿すアンジュとはいえ、アーツに目覚めているアンジュは数少ない。戦いに役立てるほどのアーツともなれば尚更だ。結局、アンジュも数の暴力には敵わない。


「……くそっ――」

 小さく吐き捨て、唇を噛む。震える手を強く握りしめた。沸騰していた血液が急激に冷え、次に幹耶の身体を巡ったのは冷たい恐怖と、脳髄が焼けるほどの激しい怒りだった。

 遠くに見える、白く高い壁を睨みつける。為政者と一部の裕福層が暮らす、特区と言われる地域を囲う壁だ。

 なぜ自分たちがこんな目に遭わなければならないのだ。なぜ、壁の向こうの奴らはぬくぬくと暮らしているのだ。なぜ特区と、それを支えるアイランドだけで世界を完結させてしまおうとするのだ。これが世界の正しい形だとでも言うのか。


 (たが)が一度外れると、それまで抑え込んでいた感情が堰を切って溢れ出した。

 何もかもが許せなかった。何もかもを壊してしまいたいと思った。

 何もかもを切り裂いて、一からやり直すべきだと思った。この世は狂っている。一部の富める者が保身に走るせいで、多くの人々がその臭い足に踏みつけられているのだ。


 一度、何もかもを打ち壊すべきだ。一度全てをバラバラにして、初めからやり直すのだ。

 長く伸びた爪が皮膚を裂き、拳から血が滴る。

 紅い雫を垂らす幹耶の拳は、蒼く淡い光に包まれていた。


            ■


「うっ――。んん……」

 瞼の裏に光を感じ、ゆっくりと目を開ける。最初に見えたのは白い壁。幹耶はぼんやりとそれを見つめ、やがてそれは天井であると気が付いた。


「こ、こは……」

 ぐらつく頭に手を添えながら、重い身体を起こす。見回した部屋は全体的に白っぽく、一切の生活感が無い。漂う仄かな刺激臭は消毒液か。どこかの病室のようだ。

 どうやら、自分はあの地獄から生還したらしい。黒い弾丸の射手と妙な爆弾を生み出す――恐らくはアーツの類であるのだろうが――二人組に助けられた、という事だろう。


 ただ一人だけ。少女を置いて、自分だけ助かったのだ。

 拳を握りしめ、太腿に叩きつけた。情けなかった。自分はあの頃と何も変わっていない。

 少しは強くなった気でいた。だがそれは(おご)りだった。少女の一人も救えず、自分は他人に助けられて清潔なベットに横たわっている。幹耶にはそれがどうしようもなく情けなかった。


 それが矛盾した感情だということは理解していた。アイランドの番人である桃髪の少女とは、いずれ対峙しなければならなかっただろう。

 だがあの瞬間は。少なくともあの瞬間は〝その時〟ではなかった。もっと強く、この手を伸ばすべきだったのだ。


 幹耶がもう一度拳を振り上げた所で、不意に病室の扉が開かれた。入って来たのは桃色の髪をツインテール風に纏めた、一人の少女だった。

「あら、おはよう。ようやくお目覚めね」

 信じられない、といった表情で幹耶は少女を目で追う。

「丸一日寝ていた割には、調子は良さそうね。少ししたらまた来るから、着替えておいて」

 そう言って、少女は着替えを置いてさっさと病室を後にする。

 幹耶は呆けた様にその背を見つめ、扉が閉まると同時に気を取り戻した。もたつく手足を無理やりに動かして大急ぎで着替え、弾かれるように病室から飛び出した。

「わっ!? びっくりした~~……。早着替えの特技を持っているとは聞いていなかったわよ?」

 扉の向こうに居たのは果たしてその人、秋織真斗であった。幹耶の見間違いなどではなかったのだ。ただそれだけの事実が、幹耶を激しく混乱させた。


 首を刎ねられて生きていられる人間など存在しない。秋織真斗は間違いなく、死亡したはずだった。だがこうして、現実に目の前に立って、幹耶を見つめ返している。

「……ゾンビ?」

「なんでよ違うわよ! どうしてそういう発想になるのよ!!」真斗は見た目相応の年齢のように、頬を膨らませる。「って、そうか。まだ私のアーツを幹耶くんに説明していなかったわね」

「アーツ、ですか? それってどういう……」

「どうって、そのままよ。不死と再生の〈不滅(イモータル)蝋燭(キャンドル)〉。それが私のアーツよ」

「不死、再生……!?」幹耶は驚きに目を見開く。「そんなものが本当に」

「あるのだから仕方ないわね。そういう反応も慣れっこだわ。不死というのは結果的に、という意味よ。あの時、私が死んだのは間違いないわ」

 小さく溜息を付き、桃色の髪を指に巻きつけながら真斗が言う。自らのアーツを他人に説明する機会などそう多くはないだろうが、その度に化け物扱いされたり、嘘つき呼ばわりされてきたのだろう。真斗は諦めたように、あるいは拗ねたように視線を遠くへ投げている。


 幹耶はまじまじと真斗の首に視線を這わせる。傷一つない。縫合したという訳でもなさそうだし、そんなことをしても無意味だ。なれば、本当に再生したというのか。その魂ごと。あまりにも異質に過ぎる。

 この世の生物は、一つの例外も無く死に絶える。一つの例外も無く、だ。しかし目の前の少女は、ただ一人その摂理から外れている。


 死の摂理から外れた存在。アンデット、ノーライフキング、ナイトウォーカー。呼び方は様々であるが、数々の伝承に残されているように、死から遠ざかった存在を人々は古来から恐れ、軽蔑し、あるいは憧れ、崇拝し――、しかし総じて、化け物と呼んだ。

 異能の力を持つ、というだけで人々から嫌悪され遠ざけられる。そのアンジュの中でも、彼女の持つアーツの異質さは極め付けだ。果たして、今までどのような人生を歩んできたのだろう。きっと壮絶であったに違いない。不死と再生のアーツの存在に気が付くには、彼女自身が死に直面する必要があるからだ。それも、何度も。


「おお、やっと見つけたぜ。よぉ、お二人さん」

 声のするほうに二人が目を向けると、灰色の都市迷彩戦闘服を着崩した、長身の男性がこちらに向かってきていた。うっすらと生えた無精ひげが彼の性格を表している。

「あら、シャルルンじゃん。元気そうで何よりね」真斗が微笑む。「どうしたの、こんなところで。隊員のお見舞いとか?」

「まぁな。それより、一言お礼をと思って探していたんだ」

「何の事かしら。私たちはただ、地獄の淵で立ち話をしていただけよ」

「そうやってデミの大半を引き付けてくれたんだろ。おかげで撤退できたよ。二七番隊と保護した市民、合わせて三七名の命を救ってもらった。そのうち一杯奢らせて頂くよ」

「……そう。どうでも良いわね。それはシャルルンたちの手柄でしょう?」

 相変わらずだな、と長身の男性は顎を撫でながら笑う。

「で、そちらが噂のルーキーか。君にも礼を言わせてくれ」男性が手を差し出す。「機動一課、チェイサーの二七番隊を任されているシャルムだ。よろしくな」

 握り返した手は分厚く、力強かった。最前線で戦い続ける漢の手だ。


「シャルルンはね、昔はスイーパーに所属していたのよ。でもアーツが思ったより戦闘向きではないということで、チェイサーに異動したの」

「ということは、あなたも……」

 灰を擦り込んだようなアッシュブロンド。仄かに緑かかった薄茶の瞳。さて、どちらがその身に宿すアゾット結晶の色だろう、と幹耶はシャルムの顔を見つめた。

「対人戦なら役にも立つだろうが、ポリューションなんて化け物の相手をするには、向いていなかったってこった」シャルムはくつくつと喉を鳴らす。「市民を守り、被害を最小限に抑える。それが俺の戦い方だ」

 どこか皮肉めかしてシャルムが言う。しかしその言葉には一切の迷いがなかった。その真っ直ぐさを、幹耶は少し羨ましいと思った。


「カッコ良いとか思っちゃ駄目よ? シャルルンはギャンブル狂いで、手に負えないんだから」

「なんだよ。余計な事言うなよ」真斗の言葉に、シャルムは勘弁してくれと唸る。「せっかく渋く決めたのに」

「ジゴロ気取りの根無し草のどこが渋いですって? 冗談がお上手になったわね」

「けっ。浮いた話の一つもない最弱隊長様がよく言うぜ。ま、その未発達な身体じゃ、男は誘えないわな」

「これくらいが好きって殿方も多いのよ?」

 真斗が薄い胸に手を当てて踏ん反り返る。

「んな奴は上物のマッカランにコークを混ぜて吞む類の阿呆だ。男としては下の下だな」

「あら。最下層が何か言っているわね」

 強めのジャブを繰り出し合いながら、二人は楽しそうに肩を揺らしている。相当気心知れた間柄なのだろう、と幹耶は思った。


「ま、元気そうで何よりだが、程々にな。時計塔を真っ二つはやり過ぎだ」

「あ、あの、それは――」幹耶が言葉を詰まらせる。

 まぁまぁ、とシャルムは真斗と幹耶の肩を叩き、背中越しに手を振りながら去っていく。

「スコッチの余韻みたいな人ですね」

「良く言い過ぎよ。それに未成年が何を言っているの」

 もはや〝外〟では既存の法律など機能していないのだが、幹耶は肩を竦めるだけに留める。


「臭い臭いと思ったら、モルモットが病院で何してるんだぁ?」

 突然、背後から妙な粘度を持った声が上がった。頭から泥水でも掛けられたような顔をしながら、真斗が嫌々振り返る。

「……プロフェッサー」

 真斗からそう呼ばれた男はシャルムと同じように長身だったが、それ以外は何もかもが違っていた。ニヤニヤとした、いやらしい笑顔。薄汚れた白衣と目の下の深い隈が陰気な雰囲気を漂わせ、そのくせきっちりと撫でつけられた艶めく髪が向かい合う者の神経を逆撫でする。そして極めつけは、その絡みつくような話し方だ。


「また派手にやったそうじゃないかぁ。どちらが害獣なのか、解ったもんじゃないねぇ」

 そう言って陰鬱な男が喉を鳴らす。踏み潰された蛙のような笑い声だ。

「スイーパーは治安維持部隊の一員として、正しく機能しています。そのような言い方は止めてください」

 真斗は胸を張り、男を正面から見据えて言葉を返す。対する男のこめかみに、青筋が浮かび上がる。

「ああぁぁぁ? モルモット風情が俺に口答えすんのかぁ?」男の醜い顔が更に歪む。「ちょっとばかり特殊なだけのサンプル風情が。立場をわきまえたらどうかねぇ?」

 大きく舌打ちをし、男が幹耶へ視線を向ける。汚泥のような気配に、幹耶の背中が泡立った。

「お前が新しいモルモットかぁ?」男は幹耶へ、舐めまわすように視線を這わせる。「話は聞いているよぉ。特に面白みも無いアーツだが、威力だけは相当なようだなぁ?」

「あ、ありがとう――ござい、ます?」

 男の放つ異様な雰囲気に、幹耶はすっかり飲まれてしまっていた。男は戸惑う幹耶を楽しそうに眺め、潰れた笑い声を上げる。

「お前はいくらか素直そうだねぇ、モルモットにしては珍しい。扱いやすい奴は好みだ。男に興味はないけどねぇ」

 私も貴方に興味なんてありませんよ、と言いたくなるのを幹耶はぐっと堪えた。幹耶はこの男の名前も知らないが、既に好感度は地に落ちてめり込んでいた。


「もういいですか。特に御用が無いようでしたら、これで失礼させて頂きます」

 耐えきれないと言った様子で、真斗が二人の間に割って入る。

「おお、お前らが臭過ぎてすっかり忘れていたよぉ。さっさと消えろ。俺はお前らと違って忙しいんでねぇ」

 男が言い終わるのを待たずに、真斗は幹耶の手を引いて早足で歩き出した。「自分から話しかけて来たくせに、なんなのあいつ!」と真斗が唸り声を上げる。


「真斗さん。ちょっと、真斗さん」

「何っ!?」

 桃色の髪を勢いよくなびかせながら、真斗が振り返る。

「落ち着いてください。腕、痛いです」

「あ、あぁ。うん……」幹耶の腕から手を離し、真斗は小さくため息をつく。「ごめん。見苦しい所を見せたわね」


「あの人は一体何者ですか? 異様な雰囲気でしたが」

「あいつは、磯島はダストを含むアゾット結晶とアンジュに関する研究の、主任研究員よ。頭だけは天才的なようで、バベルの基礎設計にも携わっていたって聞いているわ」汚い物を吐き出すような表情で真斗が言う。「でも性格は最低最悪。アンジュだけじゃなくて、アイランドに住まう人々全てを実験動物としてしか見ていない、下衆野郎よ」

 幹耶は磯島の纏わりつくような視線を思い出す。形容しがたい不快感を思い出し、鳥肌が立った。

「確かに仲良くはなれなさそうなお人でしたが。それだけでは無さそうに見えましたがね」

「いや、まぁ」真斗は迷うように視線を泳がせる。「さっき、アンジュの研究って言ったでしょう? 私の不死性は研究者にとっては垂涎の品らしくてね、それはもう、色々とされた訳よ」

「……例えば?」

「言わせないでよ。思い出すだけでも、ストレスだけでもう一回死んじゃいそうだわ」

 せっかくに休日に雨に降られた、とでもいうような軽い調子で真斗が笑う。しかしその瞳の奥に揺らめく暗い炎に気が付き、幹耶は喉を詰まらせる。


 不死性の研究。どんな乱暴な実験をしても壊れる事のない、最高のサンプルとしての扱いを受けたのだろう。少し想像を巡らせてみただけでも吐き気を催す程の凄惨さだ。そして恐らくは、磯島はその全ての事を真斗に対して行ったに違いなかった。あるいは、それ以上に。あの人を見下しきった陰鬱な男に、慈悲の心が欠片でも存在するとは思えなかった。


「ああ、胃がムカムカするわね……。そうだ。幹耶くん、ちょっと付き合ってよ」

「と、言いますと?」

「ここの五十五階にバベルを使った〝ダイブコネクト・トレーニング〟ってのができる場所があるのだけれど、お昼ご飯前に少し運動していかない?」

「私は肩に大穴を開けたばかりですよ?」

「あら、アイランドの最先端医療を舐めちゃいけないわ。傷ならもう塞がっているはずよ」

 そう言われて、幹耶は改めて自身の身体を確かめる。なるほど、確かに傷は塞がっているように思えるが……。

「人工筋肉と人工皮膚が馴染むまでは多少の違和感はあるだろうけれど、問題なく動けるはずよ」

「何というか、なんでもありですよね、この街は」

 感心とも呆れともつかない幹耶の溜息に、真斗が楽しそうに笑う。


「というか、上にトレーニングルームって……。病院じゃないんですか? ここ」

「半分正解ね。ここはアイランドの中心部、〝モノリスタワー〟の中よ」

 幹耶は高機動装甲車の窓越しに見上げた、天を貫く黒い威容を思い出す。

「せっかくですから、初めてはもっとまともな状態で訪れたかったですね」

「気持ちは解るわね。この街の象徴だもの」真斗が苦笑いをして肩を竦める。「とりあえず、向かいましょう。トレーニングルームは早い者勝ちよ」

 元気よく駆け出す小さな背中を追って、幹耶は歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ