第八話:国、それは国民の魂
こんにちは、河異零次です。
今回は少し、ほんの少しだけ物語が進むかな?ってところです。
それでは本編です。どうぞ
俺達は町の騒音で飛び起こされた。
「なんだ?」
町が騒がしい。祭りか?
そう思って外を見ると、
「なんだよ・・・これ」
町は燃え盛る火に覆われていた。
俺は宿から飛び出していた。
「エレン、この火、吸収できるか?」
『当然。急ごう。ここは危険だ』
俺はエレンを抜き、火を吸収するイメージをする。
火はほとんど消えたが、まだ少し残っている。
「あれ?全部消えてないぞ?」
「魔力の貯蔵量の限界だ。これ以上は吸収できない!」
「嘘だろ。火はまた広がっちまうぞ」
クソッ!魔力をどうにかしないと吸収できない。他に一旦魔力を移したりとかできないのか?
「タカ!これを使え!」
イソラが窓から何かを投げてきた。
なんだこれ?ビン?
「そいつは魔力を保存するビンだ。そいつに魔力を移せ!」
そいつは便利。さっそく使わせてもらおう。
ビンは一つで俺の半分以上の魔力を持っていった。
これならいける!
近くにある火は全て吸収し、魔力はまた十分に貯まった。
「しかし、一体この国で何が起きてるんだ」
反乱?革命?テロ?他国からの攻撃?
その時、ウルスさんの言葉が頭をよぎる。
「そんなことしてないで、王に抗議したらいいのに」
国民の不満が爆発した?どうして今?
そうか。最近は物価が上がった。
闘技場でなんとか不満は治まっていたが、それでも限界だった?
待てよ?俺達が貰った賞金は何処から出ていた?当然闘技場からだ。
もし、闘技場で賭けが行われていたら?
つまり、賭けで負けた人たちは生活が苦しくなって、国への怒りが限界になった?
俺の推測だから、合っているかはわからないが、それなら納得だ。
国は国民の心を映し出す。それはどの世界でも同じか・・・。
「今、この国の内政は酷く乱れているみたいだね」
「ああ。これは急いで騒ぎを止めないとな」
それにしたってどうする?まずは騒ぎの中心に向かう必要がある。
場所は?いったい何処だ?
「そんなの決まっているだろう?」
俺達がこの町に来た目的
「マジで国と戦うんですか」
「今回は事態の鎮圧だから、どちらかと言えば、国の味方側じゃないかな」
「国を潰しに来たのに、国を助けるって・・・」
どうしてこうなった。
「君がさっさと潰しに行かないからじゃないかな?」
おっしゃる通りですね。
「で?国を潰すのに国を守れって?」
宿からイソラ達が出てきた。
「ああ。こんな状態じゃ被害は増えるだけだ」
元々サッっと終わらせるつもりだったんだけどなぁ。
「とりあえず、あそこの城に向かうぞ!」
「「応!」」
残り時間・・・十八時間
◆
「意外と・・・遠いん・・・だな・・・」
「おいおいタカ。そんなんでへばってたら、この先でも足手まといになるぞ?」
うっ。足手まといは嫌だな。
でも、三十分以上走ってるから仕方ないよね?
「君の体は、多少肉体強化が施されているけど、基本の部分の能力値が低いから、強くなったように見えないんだよね」
前世での運動不足が仇になったな。
「こんなことになるなら、もっと運動しておくべきだったぜ」
「君は前の世界で何をしていたんだい?」
「う~ん。特に何もしてなかったな」
当然、帰宅部だった。
「ふふふっ。君はグ~タラさんだね」
「その通りと言えばその通りなのだが、その言い方だと、俺が本当に何もしていないみたいじゃないか」
「じゃあ、何かしていたのかい?」
「・・・学校の中で鬼ごっことか?」
「学校というものが何なのかわからないけど、君は何をしているんだ」
いや、普段はできないけど、たまにやるよね。校内の鬼ごっこ。
「鬼ごっこをしていたなら、もう少しスタミナがあってもいいだろうに」
「さすがに走りっぱなしってわけじゃないからな」
マドカとか全然余裕そうなんだけど。魔法使いって、体力とか少ないもんじゃないの?
そんなことを考えていたら、下り坂で足がもつれた。
「うわぁ~!」
「えっ!?ちょっ、タカ君!?」
マドカを見て考え事をしたせいだろう。俺は一直線にマドカに向かって転がっていった。
フニュン
ん?何だろう、この手にある柔らかい感触の物は?
まだ意識がハッキリしない頭で考える。
目の前にはマドカの真っ赤になった顔。ぶつかったからな。目の前にいてもおかしくない。
しかし、問題だったのは俺の手の中に納まっている、マドカの胸だった。
「あちゃ~。やっちまったなタカ」
「うわ~、タカ君。これはちょっとやそっとのお説教じゃ済まないんじゃないかな?」
イソラとエレンが気楽な事を言っているが、俺の耳には届かない。
「タ、タカ君。とりあえずどいてもらえるかな?」
「?あ、ああ、うん。ゴメン」
気付かなかったが、俺はマドカを押し倒していたらしい。
「え、え~と、これはだな・・・」
なんとか話をそらさなければ・・・。
話題を探せ!何がある?まずは定番の・・・
「今日もいい天気だな」
空は弓や怒号が俟っている。
「タカ君・・・」
あ、これは失敗。今日の朝に戻るとかの選択肢って出てこないかな?
「そんな便利なものが存在したら皆使ってるよ」
だよなぁ~。
「タカ君。今は時間がないから、後でお説教ね」
「・・・はい」
お説教が確定してしまった。やだなぁ、正座。時間によってはご飯も抜かれるかもしれない。
「あと、歯、くいしばって貰えるかな」
普通に殴られた。平手打ちとかじゃなくて、普通のグーパンチ。
へへっ、いいもん持ってんじゃねぇか・・・ガクッ。
初めて触った女の子の胸は・・・なんかこう、柔らかかった。
残り時間・・・十
「いい感じにこの章を閉じようとしないで。もうちょっと続くから」
叩き起こされた。ちょっ痛い!やめてっ!グーで殴ったところを重点的に叩かないでっ!
「まったく。タカ君はどこの主人公なのさ」
「どこかの主人公な気がしないでもない」
「お前が主人公とか、どんな物語だよ」
「なんかこう、俺TUEEEみたいな感じ?」
全員が首を振った。
「そりゃね~って。お前が強いとか片腹痛いわ」
「ちょっ!?俺だって強いはずだよ!?今回の戦いで証明されるはずだ!」
「今回どころか、次回使っても証明されなさそうだね」
「私はまずタカさんの力を知らないので何とも」
全員が全員同じ意見だったようだ。
俺に見方はいないのかっ!
ちなみに、ミーさんは俺が坂から転げ落ちたころからずっと笑いをこらえている。
いいんですよ?笑ってもらっても。俺悲しくないですから。
俺の心は鋼鉄でできてるんで、よっぽどのことがないと傷つきませんよ?
「タカさん、勇者を辞めて、芸者になったらどうですか?絶対当たりますよ?」
・・・俺の鋼鉄の心が溶かされた。傷つきにくいだけで、傷つくんですよ?
心に穴が開かないからって、溶かしちゃダメでしょう?
「タカ、泣くな」
「イソラ・・・俺の心の味方はいないのかなぁ」
「・・・いないんじゃないか?」
そこは自分を入れろよ。
その時、建物が崩れた。いきなりだった為、俺達は二手に分かれてしまった。
俺とアリシャにエレンのチームと、マドカとイソラにミーさんのチームだ。
「後で合流しよう」
崩れた建物の奥から声が聞こえた。どうやら負傷は無いらしい。
「とりあえず城の前で合流な」
「そっちも気を付けろ」
「ああ」
建物越しだったので多少大声になってしまったが、それでも聞こえないくらい周りがうるさかった。
「さて、俺達も行くか」
「うん。急ごう」
「そうですね。行きましょう」
しかし、そうは簡単にいかないのが残念なところ。目の前には兵士が十数人
「俺達はまだ敵じゃないんだが・・・」
これから敵になる予定です。
「町に放った火が一瞬で消えた。貴様の力か?」
兵士の代表が聞いてくる。ここはいろんな先人たちがやってきたあの手段を使おう。
「そうだ。俺はお前達を灰すら残さずに焼き尽くすことができる」
そう、ハッタリ。正直なところ一人相手にできるかすら怪しい。
相手がビビってるならそこに付け込むべきだろう。
上手くいけば何人か逃げてくれるだろ。
「そうか。ならばこちらもそれ相応の力で応じなければ」
兵士達が剣を構える。
あれ?なんか俺の予想外の方向にそれ始めたぞ?
「タカ君・・・やっちゃった?」
「やっちゃったぜ」
「タカさん・・・」
アリシャが心配な目、エレンが心配そうな声で次の行動を待っている。
ここは・・・
「三百六計逃げるにしかず!」
ここはダッシュで逃げるしかない!ムリムリムリ!だって皆強そうなんだもん。
「タカ君、君は今、自分が強いのを証明する絶好のチャンスを逃したよね」
そんなもの知りません。俺が?強い?世迷い事を。俺は強くない。オーケー?
「オーケーオーケー。君はヘタレチキンだという事はよくわかった」
しかし、俺の運命力は俺を面白がっているのか、逃げた先は行き止まり。
「・・・やるしかないってのか」
「普通ならかっこいいセリフなのに」
「私はどうすれば?」
「アリシャはそこにいてくれ」
アリシャに戦闘能力がないことは初めて会った時を考えればすぐにわかる。
「背水の陣で強くなれないかな」
「仕方ない。僕がサポートするよ」
「サポート?」
「剣の軌道を修正したり、ある程度の補助はしてあげる」
そんな便利な仕様なら初めから使ってくれ。てか、使わなくともあることは言えよ・・・。
「・・・あんまり傷つけたくないなぁ」
「そんなこと言ってる余裕はないはずだけど?」
「まだ前の世界のルールが残ってるんだよなぁ」
具体的に言えば、人を殺せば罪に問われる。みたいなルールが抜けていないのだ。
「それは慣れの問題じゃないかな?死に直面すればそんな余裕は消えるだろう。戦場で敵を殺せないなんて戦力外もいいところだ」
正当防衛ではなく、こちらから、倒す。
「殺される覚悟がない奴は殺せないと言うけれど、殺さなければならなくなったらどうすればいいんだろ?」
「覚悟すれば?」
「そんな簡単にできると思うか?」
「ま、ヘタレチキンな君には無理だろうね」
「でもなぁ。ケイナに言われたしなぁ」
「ん?なんて?」
「いや。割り切らないとこの先辛いぞ。って」
「うん。その子は良くわかっている。簡単に言えば諦めてしまっている。大人になるという事は、自分で何かを決めることだというけれど、考え方を換えれば、諦めることができるという事だ。なぁなぁにして、誤魔化すことができるという事だ。君はいい加減に覚悟を決めなくちゃいけないときが来る。そのときに間違った答えを出しちゃいけない。自分で考え、最後まで向き合わなきゃいけない。」
「ケイナはまだ十五だけどな」
「それは将来が楽しみだ」
覚悟を決めなきゃいけないとき、か・・・。
「今じゃないと思うけどね」
「今がその時だと思った俺の気持ちを返せ」
「今はなんとか切り抜けられるさ。その剣を使えば、ね」
エレンの言葉に背中の剣がカタリと動く。
俺を使えって言いたいのか?
違うと言いたいのか剣が背中で激しく動く。
使わせてやるって言いたいのか?
剣はまた否定するように動く。これもも違うようだ。
う~ん。・・・私を使えって言いたいのか?
今度は肯定するように一度だけカタリと動く。
・・・あ、そっち?
微妙な違いだが、かなり重要な事だ。つまりこいつも、人型になると女の子になるらしい。
今まで気が付かなかった。
剣を引き抜くと、剣は電気を帯びていた。
「これは・・・」
「使ってあげなよ。結構ヤキモチ、焼いてるみたいだからね」
不服とでも言いたげに、剣がカタカタと動くが、そこには少し動揺も混じっているような気がした。
「何だよ。結構可愛いところあるじゃねーか」
剣は動くのをやめた。
そこに兵士たちが追い付いてくる。
「時間もないし、一気に行くか」
電気を帯びている剣は、武器で受け止められても、鎧で弾かれても、電撃で、兵士を一撃で沈めていた。
スゲェ。スタンガンってこんな感じなのか。
「普通のよりは出力が高すぎると思うけどね」
対人戦のときは基本これで戦おう。
好評価に満足したのか、バチッっと電気が弾ける。
こいつが何を言いたいのかはこういう反応で察するしかないからな。
会話なしで意思疎通するのって不便。
いや、せめて表情がわかればいいんだけど、コイツ剣じゃん?わからんって。
エレンみたいに話してくれないもんかと思ったがどうやら向こうはまだ俺と話す気はないらしい。
「追っ手がくるかもしれない。早くこの場を離れよう」
「そうだな。アリシャ、早く――――――」
アリシャに声を掛けたところで異変を感じる。そういえばさっきから無言だった様な。
ぐらりとアリシャの体が傾く。
「危ない!」
なんとか倒れる前に受け止めることができたが、もう少し離れていたら危なかった。
「おいおい大丈夫か?」
しかし返事は無い。
「おい!?大丈夫か!?」
息はしているがぐったりとしている。
「気を失っているだけみたいだね」
「そうか?それだけじゃない気もするんだが・・・」
倒れる前も焦点が定まって無かった様な気もするし、どことなく元気も無かった気がする。
「それは後で考えよう。今はアリシャを安全な場所に移すことが先だ」
俺はアリシャを背負い、近くの建物に入った。ドアが簡単に破られないように椅子などで簡単なバリケードを作る。
「マドカ達はどうする?」
「これで連絡を取ろう」
そう言ってエレンが取り出したものは、トランシーバーのような、携帯電話のような機械だった。
「それは?」
「魔道具さ。簡単に言えば魔力で動く道具だね」
「そのまんまかよ」
「名前なんてそんなもんさ」
「そんな便利な物よく持ってたな」
「昨日イソラに渡されたのさ」
「どうやって使うんだ?」
「魔力を込めて、登録してある連絡先に通信すれば使えるみたいだね」
え?てことはいつでもどこでも使える携帯電話じゃないですかー。しかも、魔力って自分で作れるんでしょう?時代はエコだよ兄貴!
「君の考えはたまに物凄いところに飛んでいくよね。具体的には月から太陽くらいまで」
エレン?君は月と太陽がどれだけ近いと思ってるんだい?それともわかっていてその距離だと言っているのかい?
「やだなぁ。僕がそのくらいのこと、分からないはずがないじゃないか」
「そしたら俺の思考は飛躍的過ぎんだろ!あれ?月から太陽って、どれだけ距離が離れてるんだっけ?」
物凄くだけど、どれだけ離れてるのかは正確には覚えてない。
「知らないよ。そんなの正確に覚えているわけないだろう?それよりも、マドカ達に連絡しないと」
「ああ、そうだったな」
ええっと。魔力を込めて、連絡先を選んで(一つしかない)、よし、できた。
「君は機械オンチかい?」
「ちげーよ。初めて触るものだから操作が難しいだけだ。おっ、繋がった」
「もしもし?タカか?今、ちょっと、忙しいん、だが」
電話に出たのはイソラだ。息が酷く乱れている。向こうも戦闘中なのだろう。
「取り込み中悪いが、アリシャが倒れた。原因はわからない。そっちが終わってからでいいから、こっちに来てくれ」
「ああ、分かった。すぐにそっちへ行く」
電話はそこで切れた。
「向こうも戦ってる。・・・イソラが息を切らすなんて、そっぽどの強敵か、急いで息が切れたところを襲われたのか・・・」
「今の感じからすると、少し不安だけど、向こうには二人もいる。それに僕たちは今ここから動けない。今は信じるしかないだろう」
「そうだな」
そして俺とエレンはアリシャを見て、早く目が覚めて欲しいと思った。
残り時間・・・十六時間
残された時間は、多いようで少ない
改めましてこんにちは。河異零次です。
本来なら今回はもう少し早く更新できたのですが、実は風邪をひきまして、頭痛、鼻水、咳にのど、ととてもパソコンに向き合える状態ではなかったために少し遅れてしまいました。
風邪をひいた原因はたぶん、風邪のひきやすい季節の変わり目であり、寝不足で耐久性が減り、学校のあれこれで疲れていたからだと思います。
皆さんも風邪には気を付けましょう。
では、今回はこの二人です。
ミ「皆さんゆうばる~イソラの使い魔ミーことミースと」
エ「ゆうばる~、タカ君の従者のエレンだよ~」
ミ「え?エレンさんってタカさんの従者なんですか?」
エ「契約を交わした武器と使用者はそういう関係になるんだ」
ミ「そうなんですか。知りませんでした」
エ「従者って言っても、僕とタカ君の関係はフレンドリーだけどね。命令があれば僕は従うしかないけど、タカ君はそんなことしないと思うし」
ミ「人柄ですかね」
エ「さて、今回は少しタカ君の初めから所持していた剣にライトが当たっていくよ」
ミ「どちらかといれば、やっと、という感じですけどね」
エ「もう少し早くても良かったと思うけど、僕の登場が早すぎたのかもね」
ミ「作者自身、ここまで来たらもう少し伸ばしたかったみたいですけど」
エ「仕方ないんじゃないかな?作者も実力不足は痛感してるみたいだし、ここは大目に見て欲しいかな」
ミ「しかし、アリシャさんにいったい何が・・・」
エ「それは次回のお楽しみじゃないかな」
ミ「作者さん、風邪良くなるといいですね」
エ「今も頭痛と戦いながら書いてるからね。無理はしない程度に頑張ってほしいよ」
ミ「それでは次回も」
エ「お楽しみに!」