5 乙女ゲー?
「今日はありがとう。話、聞いてくれて。」
車の中で彼が言った。
「ううん。でも、びっくりしました。王子さまだったなんて!
王子さまだったときの名前で呼んだ方がいいですか?」
「いや、今世の両親が付けてくれた名でいいよ。もう30年になるんだ。前に比べたら微々たるものだが、それでも慣れたからね。」
冒険者になってもそのまま名乗っていたのだからよっぽど気に入っていたのだとおもっていたが、そうでもないようだ。助かる。純日本人な彼をあの名で呼ぶのは少し気が引ける。愛称にするとイヌっぽいし。
キラキラネームってペットに付ける名前っぽいと常々おもうのだが。
そして「ママ」「パパ」は自分のこどもには絶対呼ばせたくない。この二文字は呼びやすいがゆえに大声で何度も叫ばれるのだ。ウザいことこのうえない。まるでペットの鳴き声である。
おっと、またズレている。
でも、彼の口調がヤバイ。変な顔をしてしまいそうだ。つい脳内が世の父母を冷めた目で見てしまっても仕方ないのではないだろうか。
彼の口調がヤバイ。前世(?)に戻りそうだ。秘密を打ち明けたことによって芝居地味た口調に変わりつつあるようにおもえる。
一瞬ではあるが、わたしが微妙な顔をしてしまったのに気付いたのだろうか、彼はわたしを怪訝な顔で見つめる。
「大丈夫。今世に生まれてから魔力は感じない。俺は人間だ、君を傷付けたりはしない。」
優しく彼はわたしに微笑んだ。
セーフ!彼はわたしが怯えているとおもったようだ。
ここはカワユク返事をせねばな。
「そんな心配はしてないです。ただ、今世とか言うから戸惑っただけで……」
彼の肘に手を当て、目線は下に。ナルちゃん降臨である。
嘘は吐いてない。これは重要である。
嘘を吐くことは良くないことであるが、誤魔化しや言わなくていいことは言わない、というスキルは円滑な関係を育むためには必要である。
ナルちゃんは保身に長けているのだ。
「戸惑うのは仕方ないことだよ。でも、信じてほしい。
俺は前世魔族で悪いこともしたけど、今世ではそんなこと全く思ってない。今世の両親には感謝してるし、人間も好きだ。」
「うん。今日はありがとうございます。おやすみなさい。」
「……こちらこそ。おやすみ。」
はい、到着です。そしてスルースキルもアップしました!
芝居地味た、とおもってたけど、これはもしや巷で流行りの乙女ゲー風!?