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二十

「あの、 何で」

 ついなは東雲の様子と瑞穂の言葉におろおろとうろたえる。

 助けを求めるように瑞穂と瑞木を交互に見れば、 真冬の氷の如き視線が瑞穂から。

「東雲殿が、 お前の様子がおかしいと、 必死の様子で駆け込んできた」

「…………」

「話を聞いて、 私達にはお前が何をしようとしているか検討もついた」

「…………」

「で、 だ。 …………何やってる?」

「しのちゃんを、 こんなに不安がらせて」

 神社組からの突き刺さるような視線と言葉。 黙った東雲の変わらぬ辛そうな表情。

「東雲、 私は」

 じっと見つめてくる緑の瞳は不安に揺れている。

「ついな、 馬鹿な事をする前に、 お前はやらなきゃいけない事があるんじゃないか?」

「しのちゃんに、 言わなきゃいけない事、 あるんじゃないのー?」

 瑞穂と瑞木の言葉に、 ついなはわけがわからず二人を交互に見遣った。

「東雲殿に」

「なんで妻問いしたか」

「その訳と」

「気持ちー。 言わないからこんなにしのちゃんが不安になって、 こんな事になったんじゃないの?」

 瑞木が東雲に抱き着いて頭を撫でる。

 ああ! 私だってそんなのした事無いのに! ついなはそう思って羨ましがりそうになったが、 瑞穂の視線がそれを許さなかった。

「ついな」

 視線だけでなく、 声まで氷点下で吹雪いている。

「お前がやろうとしている事も、 東雲殿が喜ぶような事だと思っているのか?」

「これは私が嫌なんです」

「ほぅ、 つまり、 お前は東雲殿の気持ちなんて総無視しても構わないと、 そう言いたいわけだ?」

「違います!」

「違わない。 違うなら、 もっと先に東雲殿の気持ちになって言うべき事とか聴く事があるんじゃないのか?」

「しのちゃんが人間の妻らしい事しようとしても断ったんですって? 理由も言わずに」

「それは!」

「ついな」

 再度、 瑞穂はついなの名を呼んだ。

 既に眼光声音共に極寒である。

「わ・か・った・か?」

「はい……」

 瑞穂と瑞木の猛攻に、 ついなは心中ズコズコと土に埋まる思いだ。

「よし。 じゃあ帰れ。 今すぐ帰って東雲殿にわかって貰えるまで話して、 …………東雲殿の気持ちもちゃんと聴け」

 瑞穂はそう言って溜め息をつき、 待ちぼうけをしている猫の方へ寄った。

 それを見てから、 瑞木は東雲の頭を撫で頬擦りをして。

「ちなみについな、 そもそも私の守護する地で禍事(まがつこと)起こさないでよね! まったく」

「まだやってません」

「だからやるなって言うの。 それから、 非番なら何でしのちゃんの為に一日使おうって思わないのよ。 こんな所に来る暇あったら、 ついなが目覚めるまで付き添ってくれたしのちゃんにお礼言って、 目覚めるまで居てくれた意味考えなさいよね!」

「え」

 ついなが何かをいう前に、 瑞木は東雲から離れると、 猫の背に(また)がった瑞穂の後ろにちょこんと横座りする。

「お前は東雲殿に送ってもらえ」

「瑞穂はここから吉野までなんて歩いて帰れないから、 この子借りるわよ」

「ちょっと待って下さい!」

 しかしついなの声は綺麗に無視され、 瑞穂と瑞木を乗せて猫は走り去って行った。

 残されたのはついなと東雲の二人だけ。

「…………」

「東雲…………あの……一緒に、 帰ってくれますか?」

 ついなの恐る恐るな声かけに、 東雲は曇った表情のまま、 小さく頷いた。




 風に乗せて運ばれるのは初めてで、 けれどついなは景色よりも黙ったままの東雲の方が気になっていた。 あれから一言も東雲が口をきいてくれていない。

 猫の背とは比べ物にならない程の速さではあった筈なのだが、 家の前で下ろされるまでついなはほとんど負荷を感じなかった。 東雲が注意を払ってくれたのだろう。

 だけど無言。 家に着いてからは顔を見てくれない。

 ついなはどうすれば良いのかと、 戸惑った。

「東雲」

 無言で玄関をくぐり、 家に上がるその背に声を掛ける。

「話し、 してくれますか? 顔……見せてくれますか?」

 東雲は無言で家の奥に進んで行く。 無言は肯定で良いのだろうかと、 ついなは後に続きながらどう話せば良いかと考える。

「ついな」

 ぽつりと聞こえた呼び声に、 ついなは思わず姿勢を正す勢いで返事をした。

「はい!」

 出たときはまだ高くあった太陽も、 今は西に傾き辺りを茜に染め上げている。

 そんな中で、 東雲の表情は変わらずつらそうに歪んでいた。

「私は…………私、 式神として迎えられたの?」

「違います! それは先程も」

「そうね。 違うと言ったわね。 なら、 どうして『何もしなくて良い』の?」

 何もしなくて良いのなら、 居ても居なくても一緒にしか思えなくて。 恋をしたと、 自覚した時からどんどん不安になっていった。 ついなが妻にと言ったのは、 本当に妻としてなのか。 陰陽寮で式神の話しをされた時、 少しほっとした。 だってそれなら『理由』になる。

 けれど、 確かめた所でついなは違うと言った。 また、 わからなくなった。


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