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8話



 ある日、キムラ武具店にこんな一通の封書が届けられた。




『シンタロー・キムラ殿へ。

 

 突然の手紙さぞ驚かれたかと思います。

 しかし私としても驚きを隠せないのでお相子ですね。

 

 言いたいことが山ほどありすぎて、何から話したらいいものか。


 ……まあ密書として送りましたが、どこで情報と言うのは漏れるのか分かりませんので後程お聞きいたします。


 では、最後に一言だけ。






 さっさと王城に来い。





 ファミア女王 シルヴィア・K・ファミアより』



 

 ついに来たか。

 封を開けたまま、シンタローは小一時間固まっていたと言う。
























 厳かな雰囲気で見るものを圧倒させる王城。

 煌びやかな装飾品もまばらに、だが下品と言った印象は受けない。

 それは民の血税から賄われているものであるが、国家の頂点に立つ者の威厳を示すためには仕方のないことなのであった。


 威厳を失った国は、他国の風下に立つ。

 威厳を失った王は、臣からの信頼を失う。

 

 一国の頂点立つ人物としての帝王学である。


 今シンタローの目の前に居る人物こそがこの国、そのファミアの頂点。


 『女王』シルヴィア・K・ファミアその人であった。



「さて、用件は分かっていますね」


「はっ」



 その言葉にシンタローは跪き、恭しく頭をたれる。



「直ぐにでも話を始めたいところですが、その前に―――宰相、我が側近以外人払いを!」


「仰せのままに」



 女王の隣に侍っていた、初老の老人が恭しく礼をすると、素早く周りに居た近衛兵を謁見場から撤収させていく。

 その手際はなかなか堂に入ったもので、滲み出る貫禄というモノがそれを可能とさせるのであろう。


 そうしてしばらくすると、謁見場にはシンタロー、女王と宰相、近衛兵隊長の3人だけが残された。

 


 『女王』 シルヴィア・K・ファミア。

 

 『宰相』 ロンダール・マクガフェン。


 『近衛兵隊長』 アーロン・グランヴェル。



 この国の中枢を担う、大黒柱達である。

 4人しか居なくなった事を確認したシルヴィアは、徐々にその表情を歪ませ始める。

 ピキ、と女王が代々持つと言う杖が悲鳴を上げ始めた。



「……さて、そろそろ宜しいですね?」


「……ご存分に」



 宰相を同意を得たシルヴィアは、もう耐え切れねえ、とばかりにその口を開いた。



「あ・な・た・と・言う人はぁ~~~~~ッ!

 馬鹿ですか!? アホですか!? 死にますか!?

 気軽な行動はあれほど慎めといった私の言葉が分りませんでしたか!?

 そこまで貴方の頭はあっぱっぱーですかっ!?」


「ひぃぃ!?」



 ベキ、とついにへし折れた杖。

 代々伝わってきた女王の証であるその杖は、はかなくその命を絶やした。



「各国から貴方の打った『剣』に対する質疑が殺到してます!

 どこの国の鍛冶師が打ったのかだの、秘匿することはハンターの質の向上に問題があるだの、8カ国会議の話題を独り占めでしたよ!

 おかげで国同士の疑心暗鬼が高まり、ある国など調査団まで派遣することになりましたっ!

 戦争を起こす気ですか貴方は!?」

 

「す、すみません……」


「幸い『剣』の所持者が貴方の事をうまく誤魔化してくれたから良かったものの、もし貴方の名前を出しでもしたら……いくら私が国の力を使ったとしても、匿いきれる保障はないのですよ!?」



 グシャ、と怒りに任せて投げ捨てた杖が床と熱烈なキスをする。

 新しく作り直さねばなるまい。



「そのうえ”エリクサー”!? 考えなしにも程がありますッ! 

 私の病を治してくれたのは感謝してますけど、それを誤魔化すのにアーロンが命を懸けてアカシャの森へと赴き、材料を持って『深き森の魔女』と涙の交渉の末に入手した、と言う美談にした事で各国からの追求の目をかいくぐって工作したと言うのに……っ! 貴方は非常識すぎますっ!!

 非常識なのはその外見だけにしてくださいッ!!」


「……返す言葉もございません」



 まさに喧々囂々といったシルヴィア。

 肩を怒らせて怒鳴り散らしていたが、その怒りも収まり始めたのか表情に落ち着きを取り戻し始めた。

 そして今度は一転して、その瞳に影を落とす。

 


「ふぅ……シンタロー……貴方の息子である初代国王様から続く、代々受け継ぎ守り続けてきたこのファミアの大地を危険にはさらしたくないでしょう?」


「………………」




 ファミアという国は諸国と比べ比較的新しく建国された国である。


 遥か昔、まだこの大地がモンスターの手によって手付かずであった頃、ある4人のハンターがその大地からモンスターを駆逐し、開墾し、人々が暮らせる程度の基盤を作り上げたという。

 その四人のハンターは集まってきた人々と手を取り合い、


『ここを俺達の故郷にしよう』


 4人の中心であった男は新しく平和になった大地に起こした街の代表として、その言葉を合言葉にファミアという街から国へと進展させたのである。

 やがて時は流れ、4人のハンターの内の2人に子供が生まれる。

 生まれた子供は祝福され、暖かくも厳しく周りから育てられ、やがて国として体裁を保てるようになった時、成人を迎えたその青年を初代国王として擁立した後、4人のハンターはその姿を消したと言う。

 その理由は諸説様々であるが、その名を歴史に刻もうとしなかった所を見ると、4人はあくまで自らの『故郷』を作りたかっただけであり、その国を統べるのではなく、その国の一市民として暮らしたかったのではないか、というのが有力な説とされている。

 




「『時が流れれば時代が変わり、人もその様相を移ろわせる。

  それは人が人であり続ける限り続く、進化とも退化とも呼べる運命である』


 貴方が幼い私に何度も言い聞かせた言葉でしたね。

 初代国王から代々受け継がれる薫陶……貴方が忘れたなんて言わせませんよ?」


「…………ああ、忘れるわけがない。俺は”そのためだけにここ居る”」



 シンタローの過去を思い出すような、そんな寂寞とした表情。

 それを見たシルヴィアは、座っていた玉座から立ち上がり、



「でしたら軽はずみな真似は止して下さい。

 ……話は以上です」



 そう言って謁見場から立ち去っていった。






















「こってりしぼられましたね、シンタロー様」


「……悪かったよ、もう蒸し返してくれるな」



 王城から出たシンタローは、キムラ武具店までお送りします、というアーロンと共に帰路についていた。

 アーロン・グランヴェル。

 その立ち姿には隙がなく、近衛隊長という役職が伊達ではない事を示していた。

 シルヴィアと同年代で、国の有力貴族の出である彼は、シルヴィアとは幼い頃から付き合いで、俗に言う幼馴染の関係にある。

 だが彼はその立場に甘んじることなく研鑽を積み、周囲からの信頼を獲得し、実力で今の地位についている。

 公私共にシルヴィアに尽くすその忠義は誰もが認めるところであり、故にシンタローはこの青年を信頼し、その過去を打ち明け、時にはその手ほどきをもしているくらいだ。



「シルヴィア様は素直ではないですからね、全てはあなたを思っての行動だとご理解ください」

 

「…………」



 その言葉を聴いているのか居ないのか、シンタローはアーロンの言葉に何も返さず、足を進める。


 やがて見えるのは、シンタローが今腰をすえているキムラ武具店。

 そのまま店まで歩き、そのドアに手をかけたシンタローだが、



「なぁ、アーロン」


「はい?」



 視線はそのままドアに向けたまま、シンタローはその口を開いた。



「お前、この国が好きか?」



 その問いかけが意外だったのか、アーロンは不思議そうにシンタローのその背中を見つめる。

 やがてその問いの意味を理解したのか、



「もちろんです、私の故郷ですから」



 何一つ迷うことなく、胸をはりそう答えた。

 






 かつて4人のハンターが基盤を作り、代々その子孫が繁栄させてきたというファミア。




『ここを俺達の故郷にしよう』

 


 

―――その意思は今も確かに受け継がれている。





 

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