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5話


「…………」


【…………】


【…………】


【…………】


【…………】



 時刻は閉店後11時過ぎ。

 相変わらず薄暗い工房の一室の中、シンタローの目の前の机の上に置かれている一つの物体。


 『ティート鉱石』もとい『精霊石』


 そしてそれを囲むように存在する4つの影。

 彼を守護し祝福する精霊達である。

 普段はハンマー(らしきもの)にその存在の欠片を移し、意識だけを媒体とした会話をしていたが、今回はさすがに洒落にならない事態なため、シンタローの『奇跡』による召還でその姿を顕在させていた。

 その重苦しい雰囲気の中、シンタローがその口を開く。



「武器にしてユフィに持たせるわけには…………いかねえだろうなぁ」


【【【【駄目ッ!!】】】】



 その言葉は即座に否定された。

 


【こんなもん一個人が所有するには物騒すぎるんだよ! あん時散々言っただろうがっ!】


【ワシも同感だ。この子は少し……この世界には強力すぎる】


【主よ。主がユフィを信頼する気持ちはよぉく分かるがのぅ、コレは本当に危険なのじゃ】


【元々この世界の生まれではない貴方様には想像し辛いでしょうが、精霊石というのは私達がこれほどまでに危惧するほどの物なのです。

 それは身をもって知っていらっしゃるはずですが?】


「う……スマンそのとおりだ。迂闊な発言だったよ」


【分かってくださればよろしいのです】



 シンタローは気まずくなってシルフから視線をそらすその先には、薄い翠色をした件の鉱石―――精霊石が輝いていた。

























―――精霊石。


 この世界に来たばかりのシンタローの黒歴史の集大成とも言えるこの鉱石は、確かにチートとも言えるべき性能を誇り、何も知らなかったシンタローをさらに有頂天にさせた。


 日本にいた頃のシンタローは小さな頃から凝り性であった。

 機械をはじめとしたギミックにロマンを感じた彼は、その身近にある機械を片っ端から分解しその仕組みを理解しようとした時期がある。

 こういう風にすればこういう結果が出る。

 目に見えて実感できるその機能美というのはシンタローの好奇心を大きく魅了したのだ。

 ラジコン、ミニ四駆などはその際たるもので、ギミックを理解し、機能美を追求すればするほど目に見える結果をだす為、夢中になってその性能を引き出そうとしたものだ。

 だが、そんな子供心はいつしか薄れていき、恋だ青春だなどとなる思春期を迎える頃には落ちついたものだが、ある日突然異世界に赴くことになったシンタローはその好奇心をぶり返してしまったのだ。

 異世界とはいえ大した力を持たなければ問題はなかったのだろうが、なんの気まぐれなのかシンタローは世界に危惧を与えてしまうほどの能力を手にしてしまうことになる。

 未知とは麻薬であった。

 見たこともない物質、抑える必要のない倫理観。

 所詮異世界だと玩具の様にそれぞれの機能美を追求しては、それを試す日々が続いた。

 人を実験台にするのは抵抗があるが、モンスターならば心は痛まない。

 そうしているうちに気づく。

 破壊とはなんと甘美なものだろう、と。

 自分が何をしているのかも分からぬまま、モンスターを傷つける為だけの武器を作り出した。

 まるで神にでもなったような恍惚感。

 そしてついに禁断の果実へと手を伸ばしてしまった。


 それこそが≪精霊石≫である。

 










「あの頃は若かった……」


【世界を滅ぼしかけておいてその台詞を吐けるアンタを、心底尊敬するぜ……】













 発端となったのは伝説の3鉱石。

 伝説とまで呼ばれる鉱石ではあったが、比較的簡単にそれを見つけることができたシンタローはその性能に疑問を抱かずに入られなかった。

 

―――伝説となっている割りにこの程度の性能なのか?

 

 この世界出身ではないシンタローのある種当然の疑問である。

 なにせもと居た世界の創作では山を割る剣、海を裂く剣、天空を貫く槍など、数々のフィクションの世界では当たり前のようにソレは存在するのだ。

 それに比べて本当の異世界であるこのアストラル大陸で伝説と呼ばれるモノはあまりにも物足りない。


 あらゆる衝撃を通さず、何よりも硬く頑丈だといわれるオリハルコン。

 だがしかしその重さによって担い手を選び、魔法に対してはあまりに脆過ぎた。


 あらゆる魔法の通さず、その効力を打ち消すアダマンタイト。

 だがしかし物理的衝撃に弱く、簡単に砕け散ってしまう。


 使用者の能力を底上げし、頑丈さ魔法抵抗力共に優れるミスリル。

 だがしかし常時その生命力を奪われ、長期的に使うことが出来ず脆弱をさらしてしまう。


 まるで『誂えた様な欠陥』。


 なぜ万能ではないのか。

 それでは最高の機能美とはいえないのではないか。


 そうした思いから様々な工夫、加工を施し、武器を作っては壊し、捨て、踏みにじった。


 そしてついに試作品は完成する。

 

 あらゆる衝撃、魔法を通さず、担い手の生命力を削ることなくその能力を増幅させるその鉱石はまさに万能といえるものであった。

 

 











「ここまではよかったんだけどなぁ……俺の好奇心っつーのはどうも前に前にって突き進んじまうみたいで……。

 よもやあんなとんでもないモノになっちまうとは……」


【いやこれでも結構ギリギリなのじゃぞ? 先日の剣がこれにあたるが『担い手と剣がその意思を共有し尊重する限りにおいて、能力を発揮し、その存在を許す』という縛りを掛けて、ようやく反則スレスレの綱渡りなんじゃからな】









 



 物足りないと思ったのは些細なきっかけである。

 確かにこの試作品は現状の鉱石から作られる武器としては破格なのだろう。

 だがその価値観を覆したのは『魔法』。

 ファンタジー世界の醍醐味ともいえるこれ等の現象は、シンタローが持つその武器の破壊力を上回っていることに気づいたのである。

 確かに魔法使いと戦えば負ける気はしない。

 なぜならあらゆる魔法を弾くのだから。

 だがしかし見方を変えれば、それは自分に効かないだけであって、相対的に見れば破壊力という一点で万能足りえてないのである。

 それに気づいたその瞬間、

 

―――ここからがシンタローの真の黒歴史であり、今なお剣を打つ原点なのであった。















「まあ過去を振り返るのはこの辺にして、いい加減コレをどうするか決めないとなぁ」



 ユフィには精霊石のことを黙ってもらうように、その詳細をうまくはぐらかして説明しておいた。

 だがユフィはこの精霊石の持つ特性による危険性を把握していない。

 それは当たり前だ、なぜなら知らないのだから。

 歴史上に精霊石なんていうものは記録に残されていない。

 精霊達が片っ端からその存在と資料、記憶を抹消していったためだ。

 


【二度と日の目に当たらないようにしたはずなんだがなぁ……】


【アストラル湖なら安全だと過信しておったの。なまじ加護という妾達が自ら選別できるといった、油断からの慢心というわけじゃ】


【ふむ、盲点であった】


【それにしても、こんな抜け道があったなんて】


「アストラル湖を見つけられるのは、俺を除けばこの大陸中でユフィだけだもんな。

 普通に探しても見つかりにくいのに、それを探し当てて潜って拾うとか、いったいどんな天文学的確率なんだよ」


【ユフィ……恐ろしい娘……っ!】


「…………お前よくそのネタ知ってんな。

 って、まあとにかくだ!」



 そういってシンタローは声を張り上げ、場の緊張を戻す。

 


「それっぽい鉱石見繕って、それっぽい武器に強化して誤魔化す。

 これでいこう」


【うむ……嬢ちゃんに嘘をつくのは気が引けるが、事態が事態じゃ……仕方あるまい】


【そのかわりとして、すばらしい武器を用意してあげないといけませんね】


【ちょっと待てよ、ユフィはまだ成長途中なんだぜ? この時期に強力な武器を持たせちまったらこれからの経験の阻害にならねえか?】


【確かにのう……】


【しかし、今のままの武器ではやはり強敵と渡り合うには不足です。成長を望むのであればやはりそれ相応の武器を持たせるべきではありませんか?】


【過保護だぜシルフ。ちょっとくらい武器が劣ってるくらいでちょうどいいんだ。

 苦労してこそ成長していくもんだ、甘やかしたら本末転倒だ】


【なっ!? イフリートに言われたくありませんよ! 私知ってますよ? あの娘が雪山で遭難しかかったとき、慌てて周囲の温度を調節してたでしょう! それが甘やかしでなくてなんというんです!】


【あのときのイフリートの慌てっぷりは見物だったのう……くくく】


【ちょ、見てたのか!? いや、違う……アレはたまたま雪山に用事があってだな、ほら俺って火の精霊じゃん? 周囲の温度上がるのは不可抗力で、手をかしたわけじゃねえんだぞ?】


【言い訳がましいですよイフリート】


【……テメこのやろ。さっきから言いたい放題……やるってのか、おぉッ!?】


【―――上等です、表に出なさいッ!】


【おお、久々の衝突じゃの、どれ妾も見物にいくとしようか】



 なにやら喧嘩に発展してしまった2人の精霊。

 そしてそれを面白そうに見学しようとするもう一人の精霊。

 威厳もへったくれもないこの様子に、これが四大元素を司る世界の一柱か、とシンタローは目を覆う。



「精霊を崇拝する教徒がみたら卒倒するぞ……。

 ってーかホント、ユフィって愛されてんのな。天性の悪女ってのはこんなモンなのかもしれねえなぁ」



 おそらく自分にしか聞こえないであろう激しい衝突音に、シンタローは耳を傾けながらため息をつくのであった。








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