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4話


「おじゃまします」



 そう言ってキムラ武具店に礼儀正しく入ってきたのは、銀髪ショートのちんまい少女。

 4日程前ギルティンがやってきて話題にあがったユフィ・イシュタルであった。



「お、お~っ! ユフィじゃないか! 元気にしてたかよ、おい!」


「あはは、おかげさまで大した怪我もなく戻ることができました」



 カウンターから駆け寄り、開口一番自らの髪をグシャグシャに掻き乱すシンタローを、困ったような、でもけして迷惑そうではない顔で微笑み返すユフィ。

 いつも旅から戻ってくるたびに猫っかわいがりするシンタローに慣れてしまった部分もあるのだろう。

 こうして会うのは2ヶ月ぶりくらいであろうか。



「この前ギルティンさんにあって無事なのは聞いてたけどさ、アステアにいたんだって?

 随分遠くまで行くようになったなぁ……成長したなユフィ」


「ありがとうございます」



 シンタローの成長した子供を見たような言葉に、わずかに苦笑しながらも礼儀正しくお礼を言うユフィ。

 まさに大和撫子である。

 髪の色は銀だが。



「実は何度も危ない場面はあったのですが、精霊様の祝福のおかげで大事に至ることもなく。

 感謝しております精霊様」


【よいよい、妾らの加護などきまぐれ与えるようなものじゃ。そうありがたがるようなものでもないのじゃて】


【そうですよユフィ。私たちの力など、本来あるべき力をほんの少し後押しするだけ。

 全てはあなたの努力の賜物です、胸をおはりなさい】


「ウンディーネ様、シルフ様……」



 感激したように瞳を潤ませるユフィ。


 この感動の中水を差すようであるが、ユフィがウンディーネやシルフと会話することが出来るのは、彼女の生まれ持ったスキル『巫女』のおかげだ。


 このアストラル大陸に過ごす人々は皆、さまざまなスキルを人それぞれ持っている。

 それは魔法使いになるための必要不可欠な『魔力資質』であったり、優れた戦士に大きな力を与える『直感』、『闘気』であったり、なぜこんなスキルがという『安産』なんていうモノまで、その効果の強力の大小はあれど数えることが馬鹿らしくなるくらいのスキルがこの地を生きる人々を支えているのだ。


 そのスキルにも種類があり、大きく二つに分類される。

 『アクティブスキル』と『パッシブスキル』、この二つだ。


 例えばユフィの持つ『巫女』というのは生まれながらに持つ才能のようなもので、精霊に愛されやすく、対話を可能とするといった効果を持つ。

 こういった意図しなくても常時発動しているようなモノをパッシブスキルと言う。

 

 逆に『闘気』というスキルは、自らの気迫を物理エネルギーに変換し、それを身に纏わせ防御力、魔法抵抗力を上昇させたり、剣に纏わせ攻撃力を上昇させたり、その闘気を真空波のように飛ばし離れた相手を切り裂いたり吹き飛ばしたりすることが出来る。

 このように使うという意思に呼応して発動するのをアクティブスキルと呼ぶ。

 

 またこれ等のスキルは生まれつきの才能、と言われているが実際はそうではなく、努力や修練によって会得することが可能だ。

 確かに生まれついて所持しているスキルは何の努力もなく、気づけば使えているため才能と言ってもいいかもしれないが、努力によって会得できるこれは才能ではなく、あくまで『成長』なのである。

 会得してしまえば能力に差異はなく、うまく使えるか使えないかは本人しだいと言うわけだ。

 まあRPGのようにステータス画面なんていう便利な自己認識の手段はなく、スキルの有無は感覚や使えるかどうかで判断される。

 そのため才能が開花した、など素質がない、だのという見当違いの解釈は拭えない。

 しかしスキルの会得はその全てが努力や修練によって成されるものであり、そこに生まれつきの優劣などはない。

 いつの時代、世界でも『努力するものは必ず報われる』のである。


 関係のない話ではあるが、子供を産む前に子供の為に色々な行動をしたり、勉強したりすると『安産』は会得できる。

 そしてそういった安産で生まれた子供は、自然界の祝福系スキル、ユフィの持つ『巫女』などを生まれながらに持ちやすい。

 がんばる親は報われ、愛された子供は祝福される。

 いい話である、感動ものなのである。



【しかしまぁ、ウンディーネ達も嬢ちゃんを猫っかわいがりしちゃってまぁ、精霊だっていう自覚があんのかねえ全く】


【お前こそユフィに『加護』どころか『祝福』すら与えておるではないか。ワシら四精霊から加護ではなく祝福を受けた子など歴史上指折りだというのに。

 特にお前はひねくれておるからな、滅多に加護など与えぬくせによく言うわ】

 

【ちっ……】



 そのノームの言葉に反論が思いつかないのか、イフリートは憮然としたように舌打ちをする。

 ユフィを気に入ってるのは間違いのない事実ではあるのだ。

 というより何を隠そう、ユフィに一番最初に加護を与えたのは、他ならぬイフリートである。

 この男(というか精霊)、俗に言うツンデレ、そうツンデレなのである。

 イフリートはツンデレなのである!(←重要なことなので3度言いました

 

 余談ではあるが四精霊はそれぞれ火、水、風、土を司っており、それぞれ与えられる加護によってその内容はさまざまだ。

 『加護』ならば、

 火なら力の上昇+火属性攻撃半減。

 水なら自己治癒強化+水属性攻撃半減。

 風なら素早さの上昇+風属性攻撃半減。

 土なら体力の上昇+土属性攻撃半減、となる。


 そして『祝福』なら更なる能力上昇、属性攻撃無効、そして恐ろしいことに『奇跡』を行使できるようになるのだ。

 つまりユフィはシンタローにように、


『またイチローか』


 のミニバージョンをやろうと思えばやれてしまうのである。

 まあそんな事をしようとすれば『祝福』は即座に断ち切られるだろうし、ユフィの性格上しようともしないだろうが。


 今はまだ基礎体力や技術がスキルに追いついていないため、経験不足の感はあるが、まず間違いなくユフィ・イシュタルは歴史に燦然と輝く女性となるであろう。

 なにせ四精霊の祝福を受けた人物は伝説上の人物として、架空とすら考えられている者なのだから。



【う~む、しかし嬢ちゃんはめんこいのう。触れられないのが残念じゃ】


【主様、召還を】


「気軽に奇跡を行使させようとするなっ!」



 若干愛されすぎの感もあるようだが。













「あ、そういえばシンタローさん、見せたいものがあったんですよ」



 ユフィの歓迎が一段楽した後、機を見計らったのか、ふと思い出したのか、ユフィは腰に下げているスペースバッグをゴソゴソとあさり始めた。



「ん? あ、あ~……そういえばギルティンさんから聞いてたな。なんでも珍しい鉱石を見つけたとかなんとか」


「ええ。3鉱石ではないんですけど、それに匹敵するぐらいの鉱石なんじゃないかって期待しちゃったりしてます、あはは」


「3鉱石に匹敵する鉱石ねえ……ちょっと聞いたことがないな。

 現在確認されてる中じゃ、あれ以上の鉱石はないし、特に特殊な代物だからなアレは。

 あ……やべ、リレイさんのあのときの顔思い出しちゃった、震えがとまんない」


【お、思い出させるでない!】


【ありゃ~凄かったな……】


【うむ、長く生きたワシでも思わず身が震えたものだ】


【私なんて精霊界へ非難しちゃいましたよ】


「お前の裏切り、俺達一生忘れないから。この先ずっとイビリ続けるから」


【【【うむ】】】


【酷いっ!?】



 つい先日『超凄い剣』なるものを情にほだされて打ったシンタロー。

 打ったまではいいがそのとき使ったのが人様の物、その以上にリレイの3鉱石だったというのがマズかった。

 いい仕事をした、と満足気に汗を拭ったその後、許可もなく勝手に3鉱石を使ったのを思い出し、シンタローは絶望したのである。



「俺ってやり始めるとトコトンまで! って後先考えずにその場の勢いで調子に乗っちまうタイプだからなぁ……おおう、よく命が助かったもんだ。今思えばなんつー無謀な行為だったんだ」


 

 結局最終的には許してくれたものの、色々なモノを失ったシンタロー達。



【ま、まあ、リレイ嬢ちゃんも妾達の『加護』を得られたわけだし結果としては良かったではないかっ】


【半ば強制だったが】


【精霊に加護を強要した人間は、未来永劫アイツだけだろうよ……】


「……まあ過ぎたことだ……忘れよう。忘れたい。っつーか忘れさせてくれ……」

 


 願うように祈りをささげるシンタロー。

 その祈りは誰よりも真摯なものであっただろう……動機は不純たっだとしても。


 そんなたわいもない(?)雑談をしばらく繰り広げていた5人だが、落ち着いたのか今度はユフィの鉱石に興味が移っていった。



【ふむ……なにやらバッグから妙に色濃い精霊の気配がするのう。考えたくはないが、ユフィ嬢ちゃんの言う鉱石はひょっとして―――≪精霊石≫なのではないか?】


【はぁ!? あれは強力すぎるからって600年以上前に俺達が全部回収して精霊界に送還したはずだろ、んな馬鹿な】


【そうですよ。あんなものがこの世界にいまだ存在してたら、世界のパワーバランスがとうの昔に崩壊しています!】



 何気に怖いことを言う精霊達。

 


「……精霊石って、もしかしてアレか? 俺がこっちに来たばっかの頃、面白半分で魔改造した『アレ』」



 シンタローは精霊達の言葉から、過去自分がチートし放題でウカレトンチキ暗黒時代だった頃の遺物を思い出す。

 この世界に来たばかりだったシンタローは、自分の怖いぐらいの全能感やファンタジー世界というもの珍しさ、所詮お客様的な気分からやりたい放題だったのだ。

 その時に作ったモノが『アレ』であり、そのせいで精霊達と邂逅し一悶着あったのはまたの機会に語るとしよう。



【うむ。主が『ティート鉱石』とか名づけてたアレだな】


「やめて! 俺の黒歴史っ!! あれは若気の至りなんだ、俺は過去をアグストリア湖に投げ捨てたんだっ!」


 

 ティート鉱石とはシンタローがチートで作った鉱石である。

 チート鉱石ではなんか格調が低いと思い、少しひねってティート鉱石。

 実に痛い黒歴史である。


 本人にとっては黒歴史でも精霊にとっては悪夢のようなモノである。

 話し合いの末、アグストリア湖という精霊の力によって守護された湖に、彼の黒歴史は封印されることになった。


 アグストリア湖は四精霊の祝福がなければ近寄ることも出来ない特殊な湖で、今はもう閉じた精霊門から物質を移動できない現状、危険物を安置するにはもっとも安全と思われる場所なのである。



「あ、ありました。 スペースバッグは便利ですけど、中の物を探すのに少し時間がかかっちゃうのが難点ですね」



 そんなやりとりのなかユフィは目当てのものを見つけたのか、そう言って



「これです」



 ゴロン、とその手から置かれた鉱石を見た瞬間、



「………………」


【………………】


【………………】


【………………】


【………………】



 見覚えのありすぎるそれに、五人は口を開くことが出来なかった。



「アステアに行く途中、凄くきれいな湖があったんですよ。

 精霊様のお気に入りなのかも、と入るのを少しためらったんですけど、誘惑に負けて沐浴させていただきまして。

 その時、湖に沈んでいたこの鉱石を発見したんです」



 その証言の結果、シンタローの黒歴史『ティート鉱石』であることが確定されたのである。

 











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