20話
「気をつけてください、既に『NONAME』は私達を追い詰め、仕留めにかかってきています…っ」
「狩る側が狩られる側ってかぁ? 冗談キツイね」
「幸い数は一体………大きさは………3m四方くらい…でしょうか?」
「それだけわかれば上出来よ、ありがとユフィ」
リレイが礼を言いながら緊張を解かず、いつでも攻撃できる体制を崩さず、辺りを警戒している。
勿論ギルティンもだ。
ユフィが一刀一鞘の構え(要は間合いの範囲内であれば魔法でも斬撃でも可能な変則二刀流)を保ちながら、最大限に『感知』、『索敵』、『直感』等自らが持つあらゆる敵を探し出す手段を働かせているのである。
それをリレイとギルティンが背中を預けるようにフォローしあっている。
場所はなんてことはない、上手く立ち回れば剣を振り回せるくらいの余裕のある森だ。
ただ其処がUNKNOWNといわれる未開の地であるだけで。
森の構造自体が違うわけではなく、ただがにいるモンスターが桁違いなだけなのだ。
通常の探知手段では見つけられない。
魔法を駆使して、更に増幅させてなおようやく掠めるくらいの存在感だった。
「チッ…私の方は全然駄目ね。おおよそ一人で物事を解決できる魔法剣士なんて言ったところで所詮は剣士よりの魔法しか研鑽してないから、変則的に特化した相手だと全く役に立たずだわ」
自分の不甲斐なさになのか思わず舌打ちする。
今まで挫折らしい挫折をして来なかったリレイ。
それは彼女の実力が、単独でも行動可能な引き出しの多さ、それによる実績や経験を積んだ、学び努力をする天才であるからである。
自らの能力を客観的に見て、最も効率良く自分を研鑽し磨き努力してきたからからこそといえるだろう。
いかに自分に適したスタイルを確立し、それを昇華していくかだけであり、事自らのことに関して彼女は回り道ということをしたことがなかった。
人は彼女を天才と呼ぶが、近くにいる者彼女に近しいものは彼女をこう評価したことがある。
『自らの可能性を的確に開花させる才能……『センス』とでも呼ぶべきパッシブスキルでもあるんじゃないかしら?』
彼女は傲慢でも孤高でもなく、ただただ合理主義であっただけで、今まで仲間を必要としてこなかったから一人でハンターをやっていただけで、必要に迫られてきていなかっただけなのだ。
別に自分一人でなんでも出来るとは思っていなかっただろうが、ここまで自分が補助に周り他人に勝利への道を委ねることになるとは思わなかった。
ギルティンはともかくユフィは戦力ではあるが、守ってやろうという意識が働いていたことは否定できず、だが現実はこの体たらくである。
自分一人で状況を打開できないはじめての経験であった。
そして今、その彼女が生まれて初めて弱音を吐き、他人の力、仲間を必要とした瞬間なのかもしれない。
「一人でここに来てたら死んでたわねぇ。これからもっと厳しくなるんだから参っちゃうわね」
「……案外余裕だなぁ」
天才は一度挫折すると脆い。
ギルティンはこの状況の中、リレイの中で自信が失われていくのを感じながらも、別の何かでその傷が埋まっていくのを感じていた。
それは自分や、ユフィによる周りの力というものの認識によって埋められていくものであるだろうということはなんとなく察しはつく。
彼女本人は気付いていないだろうが、リレイは精神的に自立しているようでその行動は短絡的かつ幼稚である部分が随所に見られた。
それは彼女の実力に裏付けられた計算によって導き出した結果なのだろうが、やはり人は一人では限界があるのだ。
結局はリレイは自分自身でその事に気づき決着を付けなければいけなかった。
リレイの危うさのようなモノをを知っていながらギルティンはあえてそれを指摘しなかった。
必要になるまでわからないことだろうし、もしそれで死んだとしても、リレイは「あれやっておけばよかったかな」くらいの明るさで死んでいきそうだからである。
それにギルティンにはリレイがその事で悩みはしようとも、心配はいらないだろうと確信をしていた。
それだけの信頼感というか頼りがいというべきか、リレイという一人の人間を高く買っていたのである。
「なんていうのかね、『勇者』っていうのはこういう人物を言うのかもしれねえなあ」
そんな感想を抱きながら引き続き警戒を怠らず、NONAMEへと対峙するのであった。
敵影は微かに感じる程度の気配しか感じさせず、高速移動をしながら巧みに姿をくらませているらしい。
いやらしいことに魔法的要素もあるようで、『直感』も『感知』も働きにくいのだ。
「―――ッシ!」
気配を掴んだのか、一瞬で間合いを詰め、居合い抜きで切り捨てるまでには至らなくも鍔迫り合いに持っていくユフィ。
最初のリレイへの奇襲から何かしら硬質の物質で切り裂く武器を携帯しているのはわかっていたことだ。
むしろ鍔迫り合いに持っていけたほうが都合がいい。
「其処に留まってなさいっ!!!」
『闘気』と『魔力』を組み合わせた未知なる力。
先程から戦場でありながら剣を鞘にしまい、その両手に集まっていき、空間が軋み歪んで見えるほどの力だ。
リレイ自身は『練気』と呼んでいるが、これは2つを組み合わせて力を増幅するとかそういうレベルのシロモノではない。
そして『練気』とかいう字面であらわす雰囲気のものでもなかった。
リレイがその両手を地面にかざすと、一瞬で光の五芒星がリレイを中心に半径数メートルに渡って地面に走り、NONAMEやほかのただのモンスターや生き物も巻き添えを食らって身動き一つ取れない一種のバインド状態に陥っていた。
どうやらリレイが仲間だと認識している人物たちは無事のようだが、他は一網打尽で、ゴキブリホイホイにかかったゴキブリのようにピクピクしている。
「このバインドを使ってる最中は魔法陣の維持で無防備だし、使う前の準備段階って事前準備やらで剣を収めなきゃいけないし今まで使えなかったけど、パーティで使うなら結構使えるかもしれないわね」
「どう考えても対NONAME戦での俺達パーティの切り札的戦術だバカタレ。それからその力はあんまり教えたくないだろうが、死にたくなかったら少しぐらいは情報を小出ししてくれよ」
「ま、考えとくわ」
数メートルに渡って相手の動きを一方的に封じるなんて反則もいいところである。
ハンターにとって自分の力や能力は商売道具であり、パーティであっても秘匿することは原則禁じられていない。
即席で組むパーティも多いし、そうやって得た知識を転売することもできる為だ。
この三人は長い付き合いになりそうな雰囲気こそあるが、まだまだ結成して間もないパーティであり、お互いの秘密に踏み込むにはまだまだ時間が必要そうである。
例のNONAMEとの遭遇から数々のNONAMEと数戦し、数時間が立ったところで流石に疲労が限界になり、SSS~SSと抜け、Sランク辺りならこのメンバーなら問題はないだろうということで、野営をすることになった。
幸か不幸か3つのドロップアイテムを落としたので、三人で話し合い、それぞれが1つずつ受け取ることになったのだ。
リレイは前回のような丸い玉のようなもの。
水晶珠はかさばらない割に強力な効果を発揮するので、そういう効果を期待してのことだろう。
ギルティンは鉱石のようなものだ。
3鉱石ではないが既存の鉱石でもない辺り、新しい鉱石かとも期待したが、粘土のように崩れそうで崩れなく妙な鉱石である。
武器などに使えるかは疑問ではあるが、ここらで伝説の3鉱石を超える鉱石が出てきてほしいものだとギルティンは思った。
ユフィが貰ったのは透き通るような手のひらサイズの宝石である。
なんとなくイフリートを意識させる色だったので想像してみたら、
【なんだぁ、火精石がどっかで流出でもしたかぁ…て、げえ!?】
いきなり宝石が輝き始め、その光は一瞬で消えた。
「………なんか急に喋り出したわよこの石」
「………妙に聞き覚えがあるな」
「………いえ、あの~どうかんがえても…」
想像した精霊が精霊だったので、もう一度イフリートを想像して力を込めると、遂に諦めたような声で、
【………火精石にまでてが届くような場所まで来ちまったんだなぁ】
「はぁ…」
どう答えていいものかわからず、気まずい沈黙が流れ始めた。
「とりあえず、イフリートが喋れるって頃は話ができるってことだろ? どんなものなのか教えて貰ったらどうだ?」
ギルティンが何気なく問う。
【別に難しいことじゃねえよ、火の力が強まる石ってだけだな。後、魔力込めて投げつければ爆弾にもなったりするな】
「以外におっかない宝石だな、オイ」
ギルティンがその説明に冷や汗を流していると、
「火の力ですか」
そう言って、ユフィは火精石の力を借りるように火の力を増幅しながら一刀一鞘の構えを取る。
かつて見たあの光景。
剣閃は見えずとも、技の本質は理解できている―――!
「―――キムラ流居合精霊術、焔の型が壱『破砕刃』」
そう言って、極限まで高められた集中の中、鞘の中で火の力を循環増幅させながら、指向性をもたせた火の炸裂、爆発の衝突を居合とともに鯉口を砲身に見立て刀身を射出する。
刀身には勿論炸裂、爆発のエネルギーは付加されており、その一撃は膨大な熱エネルギーの爆発…まあ科学的に書くと何だが要は火の精霊達を鞘の中に閉じ込め、押し込め、詰め込み、指向性をもたせ刀身に纏わせ解き放つのである。
そして見事成功したその技は、岩を砕き何か爆発が起きたグラウンドゼロのような状態になった岩を持って完成したのだ。
「やった…っ」
今まで成功しなかった技を成功させた喜びで仲間を振り返ってみると、
「アハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」
「ギャハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」
【フハハハハハハハハハハハハハ!!】
皆して腹を抱えて笑っている。
最高に失礼な光景であった。
「キムラ流って! それシンタロー直伝!? ネーミングセンス悪ぅ! アハハハハ!!」
「焔の型が壱って! 駄目だ、耐えられねえ…っ! 弐の型もみせてくれぇ!! ギャハハハハ!!」
【ブハハハハ!! 結局四精霊全部の型4つくらい作って、最終的に奥義の型とか言ってそればっか使ってたから、一回も使ってない型とかもあるぞ? 意味ねぇ~っ!」
「「ワハハハハハハハハハハ!!!」」
哀れシンタロー技の威力云々より、その痛すぎるネーミングセンスにより馬鹿にされることが確定となったのである。
ちなみにユフィはこの技を酷く気に入っていたらしく、しばらく不機嫌をひどく損ねることになる。
結局ユフィはなんと言おうとキムラ流居合精霊術を極めるつもりらしく、シンタローも悶え転がるのだがそれは別の話である。