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18話

 

 

「太刀を打つのも久しぶりなんだよなぁ。こうやって考えると」

 

 ユフィの剣、太刀どっちでもいいがまあ武器を打つために作業場に立ち、様々な鉱石や器具に囲まれながら、軽い物思いに耽るシンタロー。

 この世界に来た当時のシンタローは日本刀こそが最高の武器であると信じて疑わなかった。、ある意味日本刀の信者的部分があったわけだが、長い間この世界を生きているとどうしても万能な武器コレこそが一番である、という武器は存在しない、という結論に至るのだ。

 何故なら対人戦に特化した日本刀がティラノサウルスみたいな筋肉の塊に勝てるわけないし、やはり切れ味では致命傷をモンスターに与えるのは限られた種族のみであり、魔法であったりバスタードソードやツヴァイハンダーみたいな大剣が主なダメージを刻んでいくのだ。

 

 ならなぜ今刀を打とうというのか。

 それは一刀一鞘の剣と魔法の二刀流がユフィに可能だからである。

 

 ってそういうウンチクはもう既に通った道だから省くとしよう。

 

「ミスリルを主体とした、鞘を魔力媒体の杖としても使える太刀。今現時点でのユフィに相応しいぶきの構成率は……っと」


――――そうして次代を担うハンターの新しい武器の息吹が吹くのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってなわけで嬢ちゃんに太刀を打ちましてね」


「……はっ。久しぶりなんじゃねえのか? テメェが太刀を打つなんてよ」


「まぁ、百年以上は打ってなかったかもしれませんねぇ…」


 そう言って向き合った老齢の男とテーブル越しに酒を飲み交わすシンタロー。

 その相手は、シンタローに鍛冶の技術を一から叩きこみ、ハンター時代には武器を打って貰っていた人物―――ゴルヴァス・ハーベスト。

 そして【ファミリア】の武器を一手に担い、命を預ける似たる武器を打ってくれた大恩人であると同時に、今やかつての時代を知る数少ない人物である。

 

「ま、色々心境の変化というかなんというか…


 言葉を濁すように、グラスに手を伸ばすシンタロー。

 彼はあまり酒をたしまないが、唯一アリアが好きだった甘口ワインに氷を入れた、ワインってそういう飲み物でしたっけ? 的なアルコールを口にするときはある。

 

『美味しいんだからいいんでしょ! 要は如何に美味しく飲んで酔うかなんだから、お酒ってのは!』


 とかいう、酒飲みを敵に回すような言い分を口にして、酔って大暴れしていたアリアを思い出す。

 ある意味それは真理だ。

 どんなに美味い酒でも一人で飲むよりは二人、三人がいい。

 特にアリアは破天荒な性格をしていたくせに、人一倍孤独を嫌い、人一倍楽しいことが大好きだった。

 そういう意味でも酒というハメを外せる名目になる飲み物は彼女にとっての一種の楽しみでもあったのかもしれない。

 そんな事を思って苦笑すると、

 

「……アリアのことでも思い返してんのか?」


「ま、そんなとこです」

 

 シンタローが酒を飲むときは大抵一人では飲まない。

 なぜならシンタローが酒を飲むときは『孤独や感傷を忘れたい時』だからである。

 だから一人で飲むことなど殆ど無く、メルティーナやゴルヴァス、そして他にも幾人…

 

「あら? もう始めちゃってたかしら?」


「いや、俺達も始めたところだよ」


 そう言って現れるのは、長身の女性。

 亜人特有の角が額に絡むように生えており、それがまるでサークレットのような装飾にも見える。

 軽装できたのか起伏のある肢体を魅せつけるような格好であるが、ここに居るのは推定数百歳を超えたジジイどころの騒ぎではない男たちである。

 予め用意して席に腰を掛けると、どこからか取り出したのか一升瓶と盃を出し、勝手に注いで飲み始めている。

 

「おいおい、いきなり手酌で乾杯なしとか相変わらず『規則』ってのを嫌うというかなんていうか」

 

「アンタねえ、アタシが普段どれだけ禁欲的で規則正しい生活を強いられてるか知らないから言えるのよ。1週間もアタシと同じことしてみなさい、暴れたくなるから」


 そう言って、豪快に一杯目を飲み干した後、プハー!!! っとおっさん臭い息を吐いた後二杯目は流石に俺に一升瓶をわたし、酌を要求してくる。

 俺は望むままに酌をしてやると、そのまま盃に口をつける。

 今度は味わうように飲んでいるようだ。

 

「で、久しぶりに呼び出しがあったと思えばジジイとイ○ポテンツしかいないじゃないの。メルティーナやアインハルトはいないのぉ?」


「イン○とか言ってんじゃねえよ!! 俺はまだ現役だっつーの!!」


 流石に男の尊厳がかかっているため必死の形相のシンタロー。

 対するゴルヴァスはもともと老け顔なのは承知しているためジジイと言われるのは慣れているし、いまさらなのだろう。

 

「えぇ~…でもアリアが死んでからもずっと操を捧げてるんでしょう? だったら百年単位で女性経験がないわけじゃない? それって童貞も同然じゃなかしらねえ」


「ちげーよ! 一度も突撃して砦に侵入したことのない兵みたいないいかたすんじゃねえ! 俺は何度も砦に侵入し落としてきた歴戦の勇者なの! 今や名誉職で将軍なの!砦の外から兵を指揮する立場なんだよ!!」


 童貞、イン○と言われたことが相当悔しかったのか、女性に食って掛かるシンタロー。

 

「大体お前に言われたくねえよ、ナナミ! お前なんか未だに処女の行かず後家だろうが!」


 かなりのカミングアウトであるが、ナナミと呼ばれた女性はそれをむしろ誇るように胸を張る。

 自分自身に圧倒的な自信があるということの現われもあるのだろう。

 


「いやねぇ、一度も攻略されたことのない砦よ? 凄く頼もしいじゃない」


「時間の経ちすぎた砦は、見向きもされなくなるか攻める価値もなくなるんだよ」


「何言ってるのよ、強固すぎて攻め入ろうとする勇気が持てない砦なだけよ。それに私を年増扱いはやめてほしいわね、ヤマト女王ナナミ・ヤマト18歳です♪」


「「「おいおい」」」


 お決まりの合いの手を入れる。

 これはなかば強制的なイベントなのでゴルヴァスも参加させられるのだ。

 と、それ以前にどういうわけか合いの手を入れる人数が増えていた。

 ちなみにこの時点で、いきなり現れた女性はヤマト女王であることが判明したのであった。

 

「すまない、ウチもちょっと手が離せない用事あって遅れてしまった」


 そう言って、金髪碧眼の男性が軽く手を上げる。

 容姿は銀○のアイザック・シュ○イダーを意識してもらえるとそのとおりになると思われる。

 

「いや、来てくれただけでも嬉しいさアレク。最近ブリュッセンで色々きな臭い噂を聞いてたもんだからな」


「そういえばそんな噂も届いていたわねえ」


 ナナミもその話に興味が有るのか、シンタローに続く。

 その言葉に困ったようにアレクは両手を突き出すと、

 

「まぁ、話は後にして、まずは座られてもらっていいかな」


 そう言って、テーブルを指差すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今ここに居合わせるのは、

 

 シンタロー・キムラ

 

 ゴルヴァス・ハーべスト

 

 ナナミ・ヤマト

 

 アレク・アーレス

 

 の四人である。

 本来なら、ここにメルティーナ・ヴァステンも加わっているはずなのだが、

 

「またいつもの引きこもりでね」


 そういってシンタローは茶化すように言うが、テーブルを囲む他の三人は苦笑はすれど笑いはしなかった。

 何故ならここに居る全員がみな心に大きな傷を負っている者であり、過去を過去と認識し、切り捨てるには余りにも多くの思い出を抱え込んでしまった者たちだからである。

 

『悲しみはいつか風化して思い出に変わる』


 なら積み重なった思い出の行き先はどうなるのだろう。

 悲しみを風化させた思い出はただただ積もり積もっていくのである。

 寿命を持つものならいいだろう。

 思い出に変わりそして死んでいくのだから。


――――だが死ぬことの出来ない人物なら?

 

 生き続ける限り嬉しさや悲しさといった感情は揺さぶられる。

 そしてなにか心に残る出来事があれば心に刻まれ、風化して思い出へと変わるのだろう。

 メルティーナ・ヴァステンは過去を忘れたくないという思いと、クロードへの愛情が少しでもこの心から風化に変わらないように。

 そうやってただ一人と【ファミリア】という青春の思い出を抱え、深き森へと姿を消したのである。

 そしてその生き方を否定できるものは、この中にはいなかった。

 

「ま、アタシは本当の意味で人を愛したことなんて無いからわかんないけどさ、クロードは本気の本気でいい男だったよ。私がメルティーナの立場でも変わらないことをしたかもね」


 珍しく感傷的なナナミに、ゴルヴァスが口を挟んだ


「テメェの場合は人里にありながらそれができる女だ。ようは不器用なのさヤツは」


「……そういうもんかしらね」


 そう言ってナナミは杯を傾ける。

 人を愛することが出来ないのではなく、『人を愛することを許されない』女ナナミ・ヤマト。

 彼女は彼女で人には抱えられない重い物を抱えている女性である。

 

「クロードか…。いい男であり、そして素晴らしい剣士でもあった。彼がいなければ、かの『ガルバーナの奇跡』は起きなかっただろね」


「んでメルティーナの嬢ちゃんはクロードに惚れることはなかったわけだ」


 そうゴルヴァスが合いの手を入れると四人が笑い合う。

 あの時のクロードは勇者という称号が相応しいほどに輝いて見えたもんだ。

 それからは色々な思い出とともに四人、酒をのみ語り合ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宴もたけなわ、話が一段落ついた頃にナナミがぽつりとつぶやいた。

 

「っていうかさ、いまさらなんだけどなんでアタシ達呼び出されたわけ? 別に用がなくてもこうやって飲み合う分にはかまわないけどさぁ」


 じつにこの集まりの趣旨を表す言葉である。

 この人数を集めたのはシンタローであったが、すっかり忘れていたようだ。

 

「ああ、そうだった」


 そう言ってシンタローは今日このメンツを集めた目的を話していく。

 

「俺の鍛冶屋にSランクオーバーのハンターが三人いるんだが、その三人がパーティーを組み始めてな」


「ほぉ、凄いじゃないか。キミの店にそんな腕利きが専属で居るなんて」


「そこかよ!」


 思いがけぬ言葉に思わず突っ込んでしまったシンタロー。

 ごほんと空気を整え、口を開く。

 

「その三人の名前はリレイ・フォレスタ、ユフィ・イシュタル……そしてギルティン・『ウェーバー』」


「「はぁぁ!?」」


 事情を知らないゴルヴァス以外の二人は思いっきり立ち上がり絶叫を上げる。

 それはそうだろう。

 俺も事前知識なしにこんな話を聞かされていたら同じように絶叫していたであろうから。

 

「ウェーバーってお前…」


「ああ、思っている通りで合っている」


 そういってシンタローは口を開いた。

 今までなら報告することはなかった。

 だがしかし、リレイとユフィがパーティーに加わるとなると話は別になってくる。

 なぜならあの三人ならかなり深くのUNKNOWNに食い込むことができるだろうからである。

 もしもの時の対応として、用心としての対処は打っておくべきであった。







 

「――――そう、『破滅の龍』ニーズベックのクソ野郎が、無理やり人間に産ませた直系の子孫だ」



 

 

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