17話
「さて…」
ユフィの剣…というか太刀を打つ事になったわけだが、色々考えることは多かった。
というのもシンタローは作ろうと思えば、極端な話パジャマでドラゴンが倒せる超凄い剣を討つことができるのだ(2話参照)
だが、それは剣士としてユフィの成長を阻害するだろうしリレイですらオリハルコン比率28%の剣、ギルティンはドラゴンブレス対策にアダマンタイトを随所に配合した剣であり、ここでユフィにどれだけの比率をもたせた配合率計算の太刀をもたせるかというのが問題になって来るわけだ。
ユフィは四精霊の祝福を受けているため、刀身か鞘をミスリル主体にしたところで、祝福の効果で打ち消し合いミスリルをリスク無しで使うことが可能である。
そのためミスリル主体で太刀を打とうと思っているのだが、
【ミスリルをリスク無しで使うのは流石にやり過ぎだと思うぜ? 使うとしても20~15%以下におさえたほうがいいだろ】
そうなんだよな。
アダマンタイト、オリハルコンのいいとこ取りがミスリルなわけで、闘気や魔法で重量操作して、努力を重ねオリハルコンを巧みに操り今の武技に到達したリレイに、
「純ミスリル製武器で太刀作ったよ! ユフィは四精霊の祝福があるからリスク無しで使えるよ!」
とか言ったら前人未到のローキックによるトリプルアクセルどころか、五回転半くらいまわっちゃいそうである。
異世界のプルシェ○コ並のアクセルをかましてしましそうである。
と、いまの会話で気づいた方も多いと思うが、リレイも祝福ではなく加護は受けている(強制的に)
ミスリルのピアスを切り札的扱いにしているが、別にそんな使い方しなくても四精霊の元に剣を打てば、ミスリル特有の『担い手殺し』も多少緩和されるため、リレイにも作ろうと思えば強化したオリハルコン&ミスリルの剣を作ろうと思えば作れるのだ。
「とはいえ、そう簡単にも行かない事情もあるしなぁ」
材料はあるし、作ることも可能、担い手も居るなら問題無いと思いがちであるが、それをしてしまうとリレイはUNKNOWNを次々と踏破してしまいそうなのである。
かつてシンタローはファミリアというパーティーを組んでハンター家業を営んだことがある。
勿論その実力はシンタローが作る武器もさることながら、メンバーの実力も桁外れに強く、当時UNKNOWNであった未開の地を切り開き開拓していったのはファミリアの躍進あってのことだったくらいだ。
当時はもっと人が住める地域は少なく国も五ヵ国しかなく、UNKNOWNであった土地を魔物を駆逐して、人が住めるような基盤を作りファミアを建国したのが何を隠そうファミリアの面々なのである。
自分の居場所というものに悩んでいたファミリアの面々にとってはそれはまさしく念願の土地。
だからがむしゃらに、ただただ一心に求めたのである。
そしてついに安定した基盤を作り人の住める土地になった瞬間、
―――そこは彼らにとっては自ら切り開いた、まさしく故郷になったのである。
だが、そんな蜜月もそう長くは続かない。
UNKNOWNというのは中心部に行く程モンスターが強力になっていくのは周知に事実である。
故に、大陸に外周に国を作り、人の住める基盤を作るので精一杯だったのだ。
ユーラシア大陸並みに広い大陸であるのに八カ国しか無いのはこのためである。
当時ファミア建国を知ったガルバーナの英雄王は、自らの民のさらなる安定、繁栄を求め領地を広げる政策を打ち出し、暫しの間それは成功を収めていた。
だが、悲劇はそこで起こる。
後に『ガルバーナの奇跡』と呼ばれるガルバーナの名を大陸に知らしめた、モンスターの大襲撃である。
その引き金を起こしたのは――――
【主や、手が止まっておるぞ?】
「お、おお…! すまねえ」
今はユフィの太刀を打つ為の事前準備の段階で、構成比率やら担い手の特徴やらの分析をしている最中である。
俺の『観察眼』はそういうところを結構詳細に表示してくれるので、剣を打つという職業上非常に重宝するスキルだ。
改めて集中して『観察眼』を使う。
―――――――――――
・種別
ツヴァイハンダー(※ユフィ・イシュタル専用)
・特殊能力
精霊の祝福により全能力に+数%の上昇ボーナス
・構成比
Purityダマスカス鋼 比率75.7%
Purityマカライト 比率8.4%
Purity鋼鉄 比率5.9%
Purity金 4.3%
Purityクリスタル2.7%
Purity銀 比率3%
・製造年
今からおよそ一年以内
・備考
過密なまでに緻密に計算された硬度、靭性の両立を自身の太刀づくりからの経験から、シンタロー・キムラが金属二重構造によって切れ味と耐久力と歪曲を防ぐための工夫を凝らされた名剣。
四精霊の祝福もかかっており装備者には力、耐久力、素早さ等にボーナスが派生するが、所有者がユフィ・イシュタル以外の者ではこの効果は発動されない。
現在は刀身半ばから砕けており、再生は不可能である。
―――――――――――
「我ながらスゲエ過保護な剣を作ったもんだな」
Purityとは純度100%かつ高品質の両立された鉱石を表す言葉で、それしか使ってないとか採算度外視にもホドがあるというものだ。
「あ、あのすいません! 私なんかにこんな剣を打ってもらっちゃって! それに…直ぐに壊して……っ」
涙こそ流さないが、俺が結構力を入れた作品をすぐ壊してしまったことに、そしてまた新しい剣を売ってもらうことに罪悪感があるのだろう。
ま、剣なんて消耗品って考えが蔓延る昨今、一振りの剣に命をかけるっていうのは鍛冶師としてはとても好感が持てる態度だ。
「まあ、『鉱石砕き』ならしょうがないわな。リレイもギルティンも事前に注意して置かなかったのも悪い。SSSならあらゆる危険を排除して進むべきだ」
「で、でも…」
「コレはパーティーの鉄則でもあるんだよな。人と組んでモンスターと戦うという命がけの作業の中で、味方がやられる事は自分の危機でもあるんだ。3対3が3対2になればどちらが有利かは言うまでもないしな」
「はぁ…」
恐縮してばかり居るユフィ。
「っていうかリレイもギルティンも、そもそもそんな状況を作ろうとしない。お前の実力を客観的に判断して問題無いと思ったからこそ随伴を許したんだ。お前はある意味あの二人から一人前の戦力扱いされているんだぞ?」
「あ…っ……うぅ…っ」
おれのその言葉を聞くと、ユフィは遂に涙を堪えることができなくなったのか、ポロポロとその瞳から真珠のような雫をこぼれ落とす。
リレイもギルティンもハンターの中では相当上のランク、というかファミアだけでなく全大陸を見渡しても両手の指に入るだろう。
そんな二人の足を引っ張らないように相当必死だったに違いない。
まだまだ少女といってもいい年だ。
本来なら親に守られて笑顔を振りまいていればいいだけの少女がこんなハンター家業に身をおくこと自体が間違っているんだ。
どうしてこんな事になってしまったんだろうか?
その原因を考えてシンタローは、俺が原因じゃねえか、と溜息を付くのだった。
「さて、ユフィ軍曹、準備はできていると思う!」
「ハイ、師匠」
何故か軍隊のノリである。
こうなった原因は、少しでも早く二人の役に立つために事前に訓練を積みたいとのことで俺に太刀の練習を志願してきたのだ。
多少悩んだものの、精霊たちは相変わらずユフィ贔屓で、
【……ああ、アレを教えておればユフィは死なずに済んだものを…】
【なんとういう狭量な! そんな子に育てた覚えはありませんよ!!】
【別に見てやるくらいいいだろうが】
というウンディーネ、シルフ、イフリートのユフィ親衛隊にやんややんや言われて今に至るという(ちなみにノームは中立派)。
まあ、太刀も練習用にちょうどいいのがあったし、もしユフィに袈裟斬りにされてもそうそう死なない身体だしな、俺。
と、んなことはいいから抗議を始めるとするかね。
「まあ、最初は太刀という特性から慣れるべきかもな」
「特性ですか」
「コレばかりは言ってもわからないと思うから、鞘から刀身を抜いてみるといい」
「は、はい…」
そういっておっかなびっくりに刀身を抜こうとするも、日本刀特有の反りがあるため、まっすぐ抜けずにいる。
まあ、それが日本刀に触れた時の最初の反応だよな。
「見てもわかると思うけど太刀っていうのは片刃で刀身が反っているんだ」
「はぁ…でもなんか綺麗な刀身ですね。芸術品をみているみたいです」
まぁ、実際美術品としての評価も高いからな日本刀は。
それだけ人を惹きつけるものがあるんだろうな。
「んで、なんで反っているかというと、普通ハンターが使ってる剣は振り下ろして叩ききるものだよな?」
「……そうですね。後は横薙ぎで叩くとか…」
「うん、そうだな」
大剣の使い方っていうのは大体そんなものである。
精霊の祝福のためユフィはかなりの膂力を持っているので、大剣を軽々と振り回せてしまう。
思えばそこら辺ちょっと雑になっていたのかもしれない。
「太刀の振り方は袈裟斬りって言って―――」
受け取った刀を上段に構え、
―――ヒュッ!
右肩口から斜めに一閃。
「コレが基本かな」
「おぉ~…」
ユフィの賞賛の言葉にふっとアルカイックスマイルを浮かべる。
最近誉められることのないシンタローはとても嬉しかった!
「この袈裟斬りを含めて、主に九種類の攻撃方法があるって言われてる。例えば今の袈裟を外した場合は刃が下を向いているだろ? そこで支点である左手を上手く使いつつ握りを返して、テコの原理で右手を押し上げ、剣先を下からかち上げる。顎や腕を狙うのが効果的だな。この二連撃が燕返しっていう、まぁ基本(?)の二連撃だな。しかも攻撃後の態勢は自然に剣を振り上げた状態になってるだろ? 一石三鳥てわけだ」
「なるほど」
まあ燕返しには諸説あるが、基本はニ連撃という点にある。
俺がこの技を好むのは例え攻撃が当たらなくても隙が少なく、更には追撃に持って行きやすい上段の構えに自然になる所である。
正眼の構えはあんまりモンスター相手に使わないしな。
突きはモンスターに対してはリスクが高いからな、威力は申し分ないんだが。
「よし、やってみろ!」
「ハイ!」
―――ヒュヒュンッ!!
まさに完璧な軌跡を描いたを描いた燕返しであった。
師匠より上手いかもしれないという危機を覚えるくらいに。
しかも教えていないのに残心までして次の攻撃に対しての心構えができている。
ココらへんはさすがのセンスのなせるワザというところなのだろうか。
シンタローは数百年の努力でここまで地力を上げてきた人間なため、結構センス持ちにはコンプレックス持ちである。
「ま、まあまあだな」
「よかったぁ…」
実際まあまあどころではないが。
というかこの調子で行くとひと通りの扱い方を教えるよりは、鞘との二刀流ならぬ、一刀一鞘流というべきか。
そういった立ち回りを教えたほうがよさそうだな。
「太刀での立ち回りで重要なのは間合いって奴だ」
「間合い…ですか?」
この世界だと瞬間移動してきたり、射程距離半端ない魔法はなってきたり、一瞬で目の前に現れる脚力(闘気など併用)で間合いはあまり重視されていない。
そもそも戦う相手はモンスターなんだから、人間には不可能な動きをしてくるからな。
ヘタに間合いを取ってたり動かずに睨み合っていたりすると思わぬ攻撃にやられたりする為、的を絞らせない闘気による強化やら加速やらで動きまわることが需要になる。
特に前線は防衛ラインを予め決め、その円の中に後衛を置き、後衛の絶対防衛ラインを割らせない様に立ちまわる。
そういった防衛ラインは戦況が変わるごとに入れ替わり、そういったやり取りの上手いパーティーは生存率が高いと言われている。
「まあ、間合いって言ってもこの世界での太刀特有の間合いってやつだけどなぁ。闘気と太刀っていうのは案外相性は悪くなくてな、鞘から一気に抜き放ち相手を切り裂く技を『居合い抜き』ていうんだが」
「居合い抜き…ですか」
「まぁ、みてろ。コレばっかは慣れだからなぁ。太刀が出来た後に自分で研鑽してみるといい」
そう言ってシンタローは納刀すると、
「ハッ!」
―――ィン!
気づいたうちにはその場にシンタローはいなく、十メートル位は離れたところで刀を振りぬいている姿とともに、切り裂いたであろう一本の木がゆっくりと傾きズレ落ちていく。
ユフィには剣先も、移動した残像すら見えていなかったに違いない。
「す、凄い……一体どうやって…?」
「まあコレが基本の動きで、応用すると」
もう一度納刀して、今度は精霊の気配が漂い始める。
火の匂いが強いため、おそらくイフリートの力による攻撃だろう。
瞬間、
―――ゴォォォンッ!!!
今度はその場で刀を振り切り、それと同時に火炎魔法…いや爆発魔法だろうか、が発動していた。
今度は岩や地面が抉れ、粉々に砕けている。
凄まじい威力だ。
「これぞ木村流居合精霊術、焔の型が壱『爆砕刃』」
ニヤリと口角を上げるシンタローだが。
「ごめん、実際やってなんだけど凄く恥ずかしかった」
顔を覆ってうずくまる。
この世界にきてメッチャハシャいでた時期の技で、中二病全盛期のシロモノである。
さすがに何百年も経って再び使うと、自分で考えたり仲間と考えた『カッコいい必殺技を考える会』で付けられた名前で技を使うのは恥ずかしいようだ。
「い、いえ! 凄いとしか言い用のない技でした!」
「……そ、そう?」
案外受けたみたいで一安心だが今度からは必殺技を叫ぶようにするのはやめようと心に誓うのだった。
「要は如何に自分の攻撃範囲を把握しておくかってとこかなぁ」
「攻撃範囲、ですか?」
「ユフィは大剣から太刀に変わるから、その分敵に近づかなければならないし、的に近寄る分魔法は使いづらいって理屈はわかるよな?」
「はい」
魔法を使うには集中力が必要であり、目の前に敵が迫っている中集中できるかというとなかなか難しいものだ。
だからこそ前衛と後衛というポジションが生まれたわけで。
「前に鞘を杖にするっていたけど、厳密には増幅器?ってかんじかなぁ…ほれっ」
「わ、わ…っ」
そう言ってユフィにシンタローは鞘だけ渡す。
落とさぬようにキャッチしたユフィは、その鞘をまじまじと見始める。
片刃の剣というだけでも珍しいなか、反りのはいった刀身を収める鞘というのはやはり妙な形をしており、ところどころに細工はしてあるだろうが見た目的には黒塗りの素っ気ない形をしたものであった。
「ユフィ、これを触媒に精霊魔法使ってみな」
「? わかりました。 ハッ!」
鞘を持って、いつもの様に精霊魔法を使うと、
―――――ドゴオオオオオオオオオッ!!!!
「ひぃぃぃぃぃッ!!!!」
「ハッハッハ」
炎の魔法を灯すくらいで使ったはずなのに、凄まじい勢いで吹き荒れる炎。
辺り一帯を焼きつくすと、役目を終えたかのごとくその姿を消していく。
「でもこれじゃあ前線では……」
「お、勘がいいな。まぁおまえに打つ太刀はもっと使いやすく調整するから心配するな」
「は、はぁ」
なんとも納得の行かない言葉ではあるが、従う他ユフィには選択肢がないのでしょうが無い。
ともあれ確かにこの劣化版でも必要なときに、必要な魔法が使えるだろう。
そうユフィが考えてると、
「おいおい、鞘と剣を両方持って戦うんじゃないぞ? 基本的に鞘は腰に刺して、左手で触れて行動する。右手は柄を握るか握らないかの……まぁこういう格好だな」
実際にシンタローが姿をとってみせると、なるほど、さっきもずっとこの格好だったかもしれない。
「つまり左手で鞘、杖を握りつついつでも、斬撃に移れるのがこのスタイルの強みってわけさ」
「でも、剣を抜いて置かないと攻撃できないんじゃ?」
その質問を待っていたと言わんばかりに、ニタリとシンタローが笑う。
かの悪鬼スマイル並のきもちわるさである。
「さっき見せただろ? なぜ太刀は反っているか」
次の瞬間ユフィは動くことも瞬きすることも出来ず、
「鞘に刀身を収めたままの即時攻撃を可能とするためさ」
―――首筋に刃が冷たく押し付けられていた。
「まあ、後は練習と修練あるのみだから、出来上がったら色々試すといいよ」
ヒラヒラと手を振りながら去っていく男、シンタロー。
彼は鍛冶師であり鑑定士であるはずだった。
それがなぜ深き森の魔女【メルティーナ・ヴァステン】と面識があるのか。
今見せたような剣技を可能とするのか。
悩みは尽きないが、今は敵ではない事は確かなことである。
「ふぅ」
ユフィは深く考えることを放棄し、帰路につくのであった。