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15話

 

 

 

 

 時は夕焼け空眩しい時間帯であった。

 

「ふい~…つかれたぜぇ…」


「………さすがに同感だわ」

 

「…………」

 

 そう言いながら、相も変わらず閑古鳥のなく≪キムラ武具店≫に三人の見慣れた男女が息も絶え絶えと店の中に入ってくる。

 ユフィは眠っているのかギルティンにおぶさっておりユフィ、ギルティン、リレイというこの店の常連の猛者を上から順に並べたようなメンツがこうまでボロボロになって帰ってくるて言うのは少しばかり異常事態でもあった。

 

「お疲れ様です…って、皆疲れてますねぇ。あれから二週間くらいだから往復考えるとそう遠くまでは行ってないように思うんですけど?」


 リレイの目的としているUNKNOWNは人が立ち入れないような場所であるため、人里離れた場所であるのは考えればすぐわかることだ。

 しかしリレイの性格を考えるとすぐさまパーティを組んだからといってUNKNOWNに踏み込むほど浅はかな考え方をしてはいないだろう。

 まずはSS、SSSと様子を見ていけるなら踏み込む、いけないなら踏み込まない。

 こういう判断や直感というのがリレイは特に鋭く、それがまたハンターとしても人間としても深みを増していることには違いあるまい。

 

「いや、パーティの幸先は良かったな。どうやら俺達はお互いが足りない部分を補い合えて、性格的にも問題は無さそうだ」


「まあ、そうでしょうね」


 三人ともタイプは違うが、目の前のやるべきことをしっかりと把握し、自分のやれることをしっかりと理解している。

 ユフィあたりはまだ経験上、そのあたりの意識が甘そうだが、『奇跡』を使えることがそれを大きく助けている。

 

 ユフィは分類してしまえば万能方で、剣士でもあれば魔法使いでもあるのだ。

 魔法使いにも分類があり、攻撃型、回復型、補助型等いくつにもわかれていて、言ってみればなんでも出来る器用貧乏ならぬ器用万能なのだ。

 四精霊の祝福を受けているため属性攻撃無効なうえ身体能力も半端無い。

 この世に魔王という存在がいたら間違いなくユフィは勇者という役職に選ばれるであろう優遇っぷりであった。

 

 とまあ、ユフィの話は置いておいて、リレイとギルティンは見た目や言動に似合わず、周りに歩調を合わせる事ができるタイプである。

 気に入らないメンバーがいてもピンチになれば助けるし、パーティーとしての仕事をまっとうすることのできる割り切る姿勢を保つことが出来るのだ。

 それは自身が絶対的な強者であるゆとりとも言えるし、自身がどう見られるかというのを自覚であり、パーティーの利益が自分の利益に還元されるというロジック。

 もし見捨てて怪我でもされれば遅れをとるし、精神的にもイラッとするかもしれない。

 戦力の低下という点も考えられるわけで、自分にとっての最大限の効率で動くタイプであるのだ。

 とまあこれは普通のパーティーの場合で、この3人は特殊なので適用されるかは分からないが。

 ギルティンもそうやって割り切ることの出来るハンターだろう。

 意外に気が利く人物なのだ。

 

 だからこそパーティー編成に問題があるとは思わず、こんなに憔悴して帰ってくるとは思わなかったのだ。

 この戦力ならSなら鼻歌交じり、SSならコサックダンスで、SSSなら真面目に戦えば完勝できると思ってたがゆえの意外さである。

 いやコサックダンスっていっても連戦は無理だろうけど。

 

「っていうかユフィは寝てるのか? 余程緊張したんだな」

 

 昔っから気を使う性格だったため、初めてのパーティー戦で色々学ぶことも多く、気を使うことも多かったんだろう。

 そっとかみをなでてやる。

 

「ロリコン現る」


「やかましいわ」


 俺はギルティンからユフィを受け取ると、店のソファに寝かせてやる。

 どうもユフィを見てると昔を思い出す。

 アリアからよく叱られたもんだ。

 

 

 

『抱き方が悪い!』


『もっとシャキっとしなさい! 一児の父親でしょ!』


『……ごめん、ずっと側にいられなくて…』


『……人は、老いるけど………国は、老いない…わ。この”ファミリア”を…どうか…』

 


―――ゴッ!!


「―――いてぇ!?


「なにボーっとしてんのよ、だからさっきから頼みがあるって言ってるでしょ?」


 瞬間、凄まじい痛みが走る。

 一瞬何が起こったのかわからなかったが、リレイが俺の向こう脛をアタックした模様だ。

 あの、そのブーツ硬度重視の特注製でしたよね?

 っていうか蹴りっていうかローキックでしたよね、そのフォロースルー的に。

 

「まあ、それはいいとして」


「よくねぇよ! 俺じゃなかったら夢の四回転ジャンプで技術点も加算されてるわ!」


 シンタローのよくわからないジャッジ法の批判はさておき、ギルティンはスペースバックから一振りの剣を取り出す。


「いいから、ほれ」


「これは……」


 それは半ばから砕かれ、もはや剣としては生きてはいない。

 そして良くみればその工法や技法には見覚えがある。

 色々考えて配合率を計算し、完璧な計算による一振りだったはずだ。

 その一振りとは、

 

「ユフィのツヴァイハンダーが砕かれた…?」


 鍛冶師としてはかなりショックな出来事だ。

 この剣を作ったのはあの忌々しいティート鉱石をごまかすために、今持てる最高の技術をそそぎ、3鉱石は使わなかったものの様々な鉱石をふんだんに且つ贅沢に使い、数打ちではなくこの手で魂を込めて打つ真打のユフィが振るうためだけの剣だったはずだ。

 おそらくRPGだったら、ユフィ専用装備とか記述が出るくらいの力作だった。

 力+4とか素早さ+5とかのボーナスすら出たくらいの名剣であったはずだ。

 

「この剣は簡単に砕かれるシロモノじゃないぞ? 一体何があったんだ?」


 俺は顔を上げギルティンとリレイを見ると、少し罰が悪そうに、

 

「すまねえ、すっかり『奴』の存在を忘れちまっていた」


 そう言って申し訳なさそうに頭をかくギルティン。

 リレイも同じなのか、居心地悪そうに視線を逸らしている。

 

「『奴』……そうか、『鉱石砕き(メタルイーター)』か!」


 メタルイーターとは主にSS~SSSに生息するモンスターである。

 大きさはクマと同程度の体格であり、動きもそう早くない。

 SSランクが2人もいれば対処が可能なくらいのモンスターではあるが、このモンスターには厄介な特性がある。

 その厄介な特性とはその名の表す通り『鉱石砕き』。

 その腕から繰り出す一撃は鈍重で、避けるのは容易いが決して受けてはならない。

 そして特に重戦士などは盾でこの一撃を防ごうとするのだが、その行為は決してしてはいけないのだ。


『鉱石砕きの一撃は全ての鉱石を破壊する』

 

 どういう理屈かはまだ解明できていないのだが、その腕の一撃に耐える武器は現状オリハルコンとミスリルの伝説の3鉱石のうち2つだけらしい。

 リレイはオリハルコンの武器を持っているし、単独でSSSを行き来するギルティンはこういう知識には詳しかったのだろう。

 ただ、ユフィだけはその知識がなかった。

 背後からの強襲で咄嗟に剣で受けた所、剣は砕けたが身体は無事であったらしい。

 余程頑丈に作ったからな、四精霊も見てるし。

 まぁ、軽症ではあったが奇跡を使う分には剣はいらないわけで、其処からはリレイとギルティンに補助、回復、援護射撃と奇跡で対処したらしいのだが。

 それがリレイとギルティンが言うには、

 

「………もうも~ど~れない~」


「………援護なしに~は~」


 というほど凄まじい身体能力の向上と回復、サポートであったらしい。

 どんな剣士とて手傷は負うものだ。

 そしてそれは確実に動きの幅を狭める。

 リレイやギルティンはそれを重々承知しているが上に、立ち回りに慎重さを重視して戦っていたらしいのだが、偶々負った傷が一瞬で後方のユフィが奇跡で直してくれた辺りから風向きがおかしくなっていく。

 もともと気が利く性格のユフィがあれやこれや気づいた所から、奇跡でサポートしてたらしく、欲しいと思うだろうところに援護を、強敵が現れたら身体強化を、味方が傷を負ったら回復を。

 そんな事を繰り返していたら、倒れるのも当たり前であり、最高にハイになっていた二人は一瞬で目が覚めて引き返してきたという。

 

 そう語った後、コホンと空気を入れ替えリレイは口を開く。

 

「ユフィには悪いけど、ユフィが剣士として戦うよりはこのまま援護に徹してくれたほうが私としては、UNKNOWN攻略には向いてると思う」


「これに関しては俺も同意権だぜ。アレほどのサポートを受けられるんなら腕利きの剣士2,3人よりユフィの援護を選ぶね、俺は」


「………むぅ」


 確かに四精霊の祝福による『奇跡』はアクティブスキルとしてはどんな魔力より強力なモノだ。

 ただここで後方支援としてのユフィを確立してしまっていいものか悩むところだ。

 あの素直なユフィは、二人が望めば喜んで剣を置き杖に持ち変えるだろう。

 だがユフィ自身は剣士として二流どころか一流だ。

 でなければ史上最年少S級ギルドハンターなど獲得できようもない。

 

「それに今更オリハルコン、ミスリルを調達してくるというのも至難だぜ?」


 そう伝説の3鉱石と呼ばれるくらいなのだから、今から入手というのは如何にも難しいことである。

 

「………」


 シンタローは腕を組み考える。

 解決方法はなくもない。

 というか、既に解決しているも同然であり、いまここで悩んでるのが馬鹿らしいくらいの問題なんだが。

 これ以上悩んでも仕方ないと、思い切ってシンタローは二人を信用して問うことにした。

 

「お前らさ、メルティーナ・ヴァステンって知ってるか?」


 俺の問いにリレイとギルティンは訝しげに首をひねる。


「はぁ? 数百年前から深き森に住んでる魔女のことでしょ?」


「ま、間違っちゃいないんだけどなぁ」


 実際アイツは数百年マジであの森から出てないからな。

 出不精っていうかなんて言うか。

 

「アイツは今現時点で最高の魔法使いだというのは周知の事実だと思うが。んで、俺ってアイツと面識があるんだわ。割とマブダチっていうか」


「「はぁぁぁ~~~~~~!!!???」」

 

 思わぬ言葉に二人が絶叫を上げる。

 

「実はアイツの家が俺らの拠点になってて、ミスリルもオリハルコンもアダマンタイトも腐るほど余ってるんだよね。あ、これ内緒で頼むよ?」


 シンタローは唇に人差し指を当て、シークレットだとカッコつけて言うが全く似合っていなかった。

 

「まあ、だから材料は問題ないよ。以前リレイさんの3鉱石勝手に使っちゃったからその侘びってことで」


「………はぁん、ようやく納得がいったわ。あの時はよくもまあ使ってくれたと思ったけど、アンタにとって『3鉱石など珍しくもなかった』のね? だからちょっとしたイタズラ程度の気持ちで使えてしまったわけね?」


「いやはや、あのときは申し訳なかったです」


 まだまだ世間ずれっていうのは治らなくて。

 何百年も生きてるとやっぱりそういうところで不備が出てくるもんだよね。

 

「ユフィの武器は俺が打つ。それが杖になるか剣になるかはわからない…でも」


 そういってシンタローは二人向かって視線を向ける。

 今までにない威圧感、覇者の瞳というべき視線。

 

「自分たちの都合のためにユフィに剣を捨てさせて欲しくはない」


 そう行った後、視線を戻すと、リレイとギルティンは息苦しさを覚えていたのか、倒れこむように膝に手をついて息を吐く。

 少しづつ落ち着いてきたのか、ギルティンは顔を上げシンタローに対し口を開いた。

 

「……あ、アンタ一体何者なんだ? 今までもおかしいとは思ってたけど、流石に度が過ぎるぜ…」


 ギルティンが流石に参ったといった感じで問うてくる

 シンタローは暫し考えると、ニヤリと口角を上げた。

 

 

「―――故郷を守りし者【ファミリアン・ガード】……ってちょっと中二病臭いかなぁ」

 

 

 そう言って肩をすくめるのだった。

 

 

 

 

 

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