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13話



「ん……?」


「お……?」


「あれ……?」


 

 ある日のことである。


 キムラ武具店のドアの前でばったりと顔を合わせる3人。

 それぞれがそれぞれの顔を知らなくとも、その存在を知っているという特殊な関係性を持つこの組み合わせ。



「貴方達……たしか……」


「お前達は……」


「え~っと……」



 思い出すようにそれぞれが顔を見合わせながら首をかしげる。

 


「『龍殺し』……よね?」


「『精霊の申し子』……だったか?」


「『赤き魔法剣士』……ですよね?」



 それぞれがそれぞれの二つ名を口にしていく。


 二つ名とはSランク以上のハンターランクを持ちつつ、かつその個性、実力、実績によって付けられる異名の様なものだ。

 

―――『赤き魔法剣士』 リレイ・フォレスタ。

 

 国家認定Sランクハンター。

 ファミアでその名前を知らないものはいないと言われる、その実力からの二つ名を持つ女性である。

 数少ない使い手である『魔法剣』を筆頭に多彩なスキルで苦手な分野を補い、最近に至っては『精霊の加護』を取得したことからさらなる飛躍が期待される、ハンター界でも注目の実力者だ。

 そしてなにより国家認定ハンターであるにもかかわらず、国の指令に目もくれず大陸中を駆け回る問題児としても有名である。

 それがなければSSSランクであっただろうともいわれている。

 


―――『竜殺し』 ギルティン・ウェーバー。


 SSランクギルドハンター。

 なぜか執拗にドラゴンを狩って周るという行動原理から、その実績によって付けられた二つ名を持つ男性である。

 そもそも若手時代の頃からドラゴンに執着していたこともあり、その実績のほとんどがドラゴンによるものであり、他のモンスターを狙って幅広く活躍していれば今頃はSSSランクであっただろうというのが周囲の見解である。

 本人はランク自体はさほど気にしていないようだが、その実績に裏づけられた風格はさすが歴戦の猛者といったところか。



―――『精霊の申し子』 ユフィ・イシュタル。


 Sランクギルドハンター。

 わずか14歳という若さでありながら、すでにSランクを取得している凄腕の成長株であり、大陸史上類を見ない『精霊の祝福』を四大精霊から受けるという個性から付けられた二つ名をもつ少女である。

 まだまだ未熟な部分も多々あれど、既にその名は大陸中に広まっており、数々の街や村で人助けを繰り返すことでも有名だ。

 このまま実績や経験を積めば、そう遠くないうちにSSSランクに昇格するのは間違いないだろうと言われているハンター若手のホープとも噂される何かと話題に事欠かない少女。


 つまりのところ、この三人に共通するのは国家に1人いるかいないかと言われているSSSランクを間近ともされている、という点にあるといえる。

 そんな3人がファミア、さらにはキムラ武具店という閑古鳥が鳴くような店の前で出会うということ自体が、なんとも運命の数奇さを感じさせた。

 なにはともあれ、



「……とりあえず中に入る?」


「そうだなぁ」


「はい」



 今日のキムラ武具店は色々な意味でカオスとなりそうである。
































「うわぁ……凄いですね! オリハルコン比率28%なんていう業物始めてみました!!」


「こっちは幅広の両手剣……3鉱石はつかってねぇみたいだが、これを獲物に振り回すとなると、若手のホープって噂は伊達じゃないみたいだなぁ、オイ」


「ふ~ん……3鉱石でもアダマンタイトを主に柄や刀身に仕込んであるわね。確かにドラゴン相手ともなるとブレスは物理ではなくて魔法……そのかわり刀身の脆弱性と攻撃力不足は『闘気』で補っているって事かしら?」



 それぞれの獲物を眺め感想を口にする3人。 

 そしてそれを眺める店の店主シンタロー。

 ギルティンにいたってはブンブンと店の中で振り回すものだから危なっかしくて仕方がない。



「そういえば3人とも初対面でしたっけ?」



 シンタローとしては顔なじみで専属のお得意様であるから珍しい顔ぶれでもないわけだが、確かに考えてみるとこの3人が店で鉢合わせたことはなかった気がする。

 


「おう、話には聞いてたがお前の店で専属契約してるとは思わなかったぜ」


「まあ、この店はいつも閑古鳥が鳴いてるのにSオーバー3人も抱えてること自体が異常だしね。

 盲点といえば盲点だったかしら」


「お目にかかれて、感激です!」



 ファミアという国はSSSはおろか、Sランクオーバーの存在自体が他の国に比べ少ない。

 その代わり国の中枢である近衛や文官が優秀な、国が国を守るという国家主体の政治体系を持つ独特の国柄なのである。

 ハンターに頼り、国の安全を保障するという国も多く、そういった点でファミアは国土こそ他の国に比べ小さいが、国力という点ではどの国にも負けない安定した力を持っていた。

 そもそもSオーバー自体がハンターの1割に過ぎない現状だ。

 いったいなんだこのカオス、といったところであろう。



「そういやお互いを知ってはいても、初めて顔を合わせるんだったな。

 俺はギルティン・ウェーバーだ。

 かたっくるしいのは面倒なんで、ギルティンと呼び捨てにでもしてくれ」


「私はリレイ・フォレスタ。

 まあ、後々知られて面倒なのもごめんだから言っておくけど、一応フォレスタ家の長女よ。

 気にせずリレイでいいわ」


「ユフィ・イシュタルです。

 お二方と比べるとお恥ずかしいですが、Sランクに名を連ねさせていただいてます。

 どうかよろしくお願いいたします」



 三者三様の自己紹介。

 ホント個性のある面々だな、とシンタローは改めて思った。



「いや、俺が言うのもなんだが、Sランクってのは実力がなきゃ絶対その名を刻めねぇ。

 ましてや二つ名まで通ってるんだ、自信持っていいんだぜ嬢ちゃん」


「い、いあえ!? そ、そんな私なんてお二方と比べたらっ!」


「…………なにこのかわいい娘。ねえシンタローこの子いくらかしら」


「確かにいまどき珍しい、器量の良さそうな娘だ。おい、シンタロー俺にもくれ」


「自重しろ、このロリコン共」



 アタフタとするユフィに本気なのか人身売買的行為を働こうとするリレイとギルティン。

 ギルティンはどうだかわからないが、まず間違いなくリレイは本気だろう。

 目の輝きが違っていた。


 そんな会話の中、シンタローはふと思い出すように、



「そういやリレイさん。例のブツの鑑定結果出ましたよ」


「あ、そうなの? で、どうだった?」



 リレイは本来その目的でこの店を訪れたのだろうが、ユフィやギルティンとの出会いですっかり忘れていたのだろう。

 どこまでもマイペースな人である。



「あれから色々試してみたんですけどね、どうもスキル効果の底上げが主って所でしょうか。

 説明がちょっとややこしくなるんですけど、なんていったらいいのかな……効率化が良くなる?

 まあそんな感じでしたよ」


「スキル効果の効率上昇……ねぇ?」



 よくわからないリレイに、シンタローはユフィとギルティンを見る。

 その行為の真意に気付いたのか、リレイは一つうなずいて先を促した。



「例えば……」



 シンタローはリレイの返答を確かめた後、水晶珠を取り出し、先日打ったマカライト製の剣をその鞘から抜き放ち『闘気』を込める。

 そしてその刀身が蒼く輝きだした。



「この剣はマカライト製の剣なんですけど、マカライトの特性ってわかりますよね?」


「スキル浸透率の上昇……だっけ? 私の剣にも多少配合されていたから覚えているわ」



 マカライトの特性はリレイの言ったとおり『スキル浸透率の上昇』である。

 10の闘気を11にしたり、10の消耗を9にしたりとその効率を上げる特性である。

 ただ酷く脆い鉱石であるため、主に魔術師の杖に配合されるのが本来の用途なのだ。


 その言葉にシンタローは頷く。



「趣味で作った剣が鑑定の役に立ちましてね、この剣は『闘気』を込めるほどにその輝きを増す特性を持ってます」


「……相変わらずお前は変な方に穿ったモン打ってんな」



 ギルティンの突っ込みをガン無視したシンタローは続ける。



「で、この状態でこの水晶珠を手に持つと……」



 シンタローがカウンターに置いてあった水晶珠を、開いた手で握る。

 すると刀身の輝きが更に増し、力強さを見せる。


 おお~、とユフィが歓声を上げる。

 ふ、愛いやつめ、なんていうシンタローの感想は誰も聞いていない。



「とまあ、こんな感じで。

 本来マカライトの特性である『浸透率の上昇』の上位補完といったところでしょうか?

 このサイズでこの効果ならマカライトの、そうですね2~3倍はあるかもしれないですね」


「おいおい……すげえ貴重なモノなんじゃないのか? 剣に配合すれば相当な戦力になるだろ」



 その言葉にシンタローは首を振る。



「いえ、確かに効果も堅牢性もマカライトとは比べ物になりませんけど、どうもコレほかの鉱石と相性が悪いみたいで、どう組み合わせても効果は打ち消されました。

 もう少し研究すれば効果を期待しつつも剣に配合できるかもしれませんが、そうなると時間がかかりますし、使い込めば耐久性を落として性能が下がってしまいますから。

 貴重なモノですし、ネックレスか何かにして身に付けるのが一番だと思いますよ、身に付けるだけで効果はありますし」



 そう言って剣を鞘に仕舞い、水晶珠をリレイに渡す。

 リレイは受け取った後考えるようにその水晶珠を手のひらに載せ眺める。



「……さすがはUNKNOWNのNONAMEモンスターの落し物って所ね。

 期待以上の効果で踏み込んだ甲斐があったものだわ」


「はぁ!? UNKNOWNだぁ!?」


「えええええええぇぇぇぇ!?」



 リレイの呟きを聞き逃さなかったのか、二人が飽きれたような驚きの声を上げた。

 それはそうだろう。

 過去何年、何十年も地図は更新されていない。

 ハンターの中では、現状既にこの地図の範囲が限界だと言われていた人間の活動範囲が覆されたのだから。



「おいおいおい……なんかとんでもねぇ嬢ちゃんだな、オイ」


「す、凄いです。私なんてSSでもいっぱいいっぱいなのに」


「いや、3鉱石も持たずそこまで踏み込むのも大概だからな?」



 ギルティンはドラゴン専門でUNKNOWNに興味はあまり示しておらず、ユフィは言うまでもなく経験不足。

 ユフィなら経験を積めば踏み込める可能性があるが、ギルティンは『精霊の加護』を持たないハンターだ。

 その差はリレイが大きくその活動範囲を伸ばしたことでわかるだろうが、非常に大きい。



「UNKNOWNって言ってもSSSからそう離れていない場所で、一戦しただけよ?

 そんな大げさな話じゃないと思うけど……」


「そんなことないです! 凄いことです! 尊敬します!」


「…………」



 べた褒めするユフィ。

 対照的に考え出すギルティン。



「……ギルティンさん?」


「………………決めた」


「はぁ……?」



 不審に思ったシンタローが声をかけるとギルティンはその顔を上げリレイに向き合い、



「嬢ちゃん、頼む! 今度の旅、俺も連れて行っちゃくれねねえだろうか!」



 そう言って頭を下げた。

 頭を下げられたリレイは状況を掴めていないのか?が頭に浮かんでいる。



「俺はドラゴン専門のハンターだが、現状の区域での活動で自分の限界を感じていたんだ。

 そこで今、アンタの話を聞いて希望を見た!

 頼む、俺にもUNKNOWN捜索をてつだわせちゃくれねえだろうか!」


「……私はドラゴンを目的としていないわよ?」


「かまわねえ! 俺は今までわけあってドラゴンの討伐をしてきた。

 だがそれが効果を見せねえ現状、もうUNKNOWNしかねえんだよ!」



 頭を下げ続けるギルティン。

 決してこの男は軽々しく頭を下げる男ではない。

 相応の理由があってのことなのだろう。


 リレイはその言葉を吟味するように、を閉じ口を開く。



「確かに単独でのUNKNOWN捜索は危険だと身をもって知ったから1戦で帰還したんだけど……。

 でもそれは剣士での限界というか、どうせなら魔法使いが……」


「あ、あの!!」



 今度はリレイの言葉に割り込むように口を開くユフィ。



「私も、私もお手伝いします! 確かに魔法使いではないですけど、『奇跡』は使えますから回復でも補助でも役に立つと思います! だから……!」


「…………」



 ギルティンを頬って置けなかったのだろう、ユフィもリレイに頭を下げ始める。

 ユフィは親の愛に報いるという目的があるが、その為にはまず力と財力も必要だと考えていた。

 それに困った人を見捨てる事ができない気質だというのも大きいだろう。

 

 そのユフィの言葉に更に考え込むリレイ。

 確かにユフィの『奇跡』があればUNKNOWN捜索は格段に楽になるだろう。

 魔法使いの『魔法』と『奇跡』の違いはその規模と使い手の少なさにある。

 後衛専門というわけではないが、将来性もあるしその性格からサポートを苦手とすることはないだろう。


 ギルティンとてドラゴンを単独で討伐できるほどのハンターでSSランクとこのメンバーの中では一番ランクの高いハンターである。

 さらには経験と知識も豊富であろう事は間違いない。

 この3人で組めばかなりの戦力の上昇が期待されるのだが……。


 悩むリレイはちらりとシンタローを向く。



「…………(サムズアップ」



 親指をへし折りたい感情を覚えた。

 俺は頼りにならないぞ、という意思がビシバシ伝わってくる。

 そうしてしばらく考えてみたリレイだが、



「……はぁ……そうね、まずはなんでも試してみないことには判断は出来ないかしら」


「本当か!? ありがてえ!!」


「あ、ありがとうございます!!」



 そうしてひょんなことから3人全てがSランクオーバーという、恐ろしい破壊力と癖をもつパーティーが、閑古鳥のなくこの店で仮結成されたのである。







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