みんな違って、みんなキモ良い
メッセージを眺めながら、私は心の内で反吐を出していた。
『おい。無視すんじゃねえよ』
『返事もできねえのかこのバカ女』
『前は仲良かったじゃん。ねえ、返事して』
その他、様々なメッセージが間髪おかずに流れてくる。
複数人ではなく、一人の人間から。
たしかに、最初は仲が良かった。複数人いるゲーム募集用のサーバーで知り合った当初は。
他人の悪口を言い始めるまでは、いい人だと思っていたのだ。
「気持ちわる」
「なんか言った?」
「なんでもないです」
嫌悪感を抑えられず、つい口から出た言葉は目の前の相手に聞こえてしまったようだ。
「ふーん。まあいいや。それでさ、春菜ちゃんって彼氏いんの? あ、待って当てていい? いないでしょ? 俺わかるんだよねそういうの。春菜ちゃんって理想高そうっていうか、どうでもいいやつにはめっちゃ冷たそうだよねー」
「あははー。そんなことないですよー」
「いやいや、まじで。当たってるっしょ?」
「どうでしょうねー」
「恥ずかしがることないって。春菜ちゃんかわいいし。自信持ちな?」
「ありがとうございますー」
先程から随分親しげに話してくるこの男はただのバイトの先輩である。それ以下ではあるが、それ以上ではない。
今は休憩中なのでスマホを触って寛いでいただけなのに、やたらと話しかけてくるのだ。
気持ち悪いから話しかけんなよおっさん。
「あ、そろそろ休憩終わるのでいきますねー、ではー」
「おー。また話そうぜ」
嫌に決まってるだろ気持ち悪い。
こいつも最初はいい人だと思ってた。
いや、こいつは初めて会った時からずっと目線が胸元にしか行ってなかったっけか。
「あっ。やっと春菜ちゃん帰ってきた!」
休憩室を出ると、明るい声が私の名前を呼ぶ。
由麻先輩は両手に複数のジョッキを握りながら顔を綻ばせる。
どうやらかなり忙しそうだ。
「すぐホール入ります!」
「あ、待って!」
由麻先輩に言われて、私は立ち止まる。
すれ違いざま、由麻先輩が私の首元に顔を近づける。
「春菜ちゃん、さてはイライラしてるでしょ。そういう匂いがする」
「由麻先輩! 匂いは嗅がないでって言ってるじゃないですか!」
「ごめんごめん。でもみんないい匂いだからついね。あ、7番卓お願いね!」
由麻先輩はいい人なのだが、人の匂いを嗅いで感情を読むというキモい特技がある。
一部の男は喜んでいるが、迷惑極まりない。これさえなければなあ。
7番卓の注文を取り、空いた皿やジョッキを抱えるように持っていると声をかけられる。
「ちょっとー!店員さん!」
「あっ、はい!」
足を止める。
呼び止めたおじさんは酔いが回っているのか、鼻頭が赤い。
四人組のお客様だ。
「これさー、この唐揚げ。画像と違うんじゃないか? 色がまず、違うし。カリカリジューシー唐揚げって書いてるのに、全然カリカリじゃないし。どうなってんの?」
おじさんは唐揚げを指し示して眉を歪めている。
「それは、すみません」
この唐揚げはよくクレームになるのだ。
実際、名前と違ってこの唐揚げはシナシナでパサパサであることが多い。
当然、作り方を改善すべきだが、店長が「カリカリでジューシーだが?」と、謎のこだわり持っているため、誰も止められないのだ。
キモい。
「これ、何とかならない?」
「すみません、すぐにお取り返します!」
「頼んだよー」
私はおじさんから唐揚げを受け取り、厨房に戻ろうとした。
こういう時は店長以外の厨房担当に作り直しを頼むのだ。
「それはそうと、春菜ちゃん、だっけ? いやー良い尻してるねー。触りたくなっちゃうなーおじさん。あ、こういうの今はダメなんだっけ? いやー、時代だねえ」
と、ワキワキと指を動かし始めた。
キモーい!
今はダメとかじゃねえし、時代でもねえよ。いつの時代においても死に値するキモさだ。
こんなおじさんでも結婚指輪をしているあたり、世の中どうかしてる。
私は、あははー、できるだけお早くお持ちしますねー、と愛想笑いを振りまいた。
キモい先輩たち、キモい店長、そしてキモい客。
彼らに囲まれながら私はバイトの時間が過ぎるのをただただ耐えていた。
バイトが終わって、私は家に帰り、服を脱いでベッドに飛び込む。
「あー!疲れた!」
なんで人間ってどいつもこいつもキモいんだろう。
まあ、私の肉体が魅力的だから仕方がないのか。
我ながら、素晴らしい肉体をしてるからね。キモい人間が集まるのは仕方がないのだ。
だからといって、キモいものはキモいので関わりたくなんてないけど。
さて、今日もストレス溜まったし、イケメンがオナラして泣き喚く動画でも見よっーと。
もちろん、18禁のね。
あ、この女優の人不倫したんだ。へー、私も叩かなきゃ!
みんなどこかしらキモい。キモさを許しましょう。




