第32話:崩壊、そして次なる鉄の影
「これで終わりだ、サイバーレギオンのボス。あんたたちの犯罪ビジネスは、ここで《完全終了(サービス終了)》だよ」
俺――青真は、素顔のまま静かに男を見据え、言い放った。
両手を挙げたサイバーレギオンのボスは、力なくその場に崩れ落ち、降伏の意思を示した。街のすべてのインフラを掌握し、裏社会の頂点に君臨していた電子犯罪組織が、俺たちの「仕様ハック」によって完全に崩壊した瞬間だった。
「ふぅ……。これでようやく、この街のネットワークも平和になりますね」
カレンが木刀を収め、安堵の息を漏らす。闇風も警戒を解き、静かに俺の隣へと戻ってきた。
「お見事。全員、完璧な仕事だったよ」
背後から見守っていた蓮会長が、満足げに微笑みながら歩み寄ってくる。メグもノートPCをパタンと閉じ、丸メガネを誇らしげに押し上げた。
だが、安堵の空気が流れたのも束の間。
ボスの背後にあるメインモニターの電源が、主を失ったはずなのに突如として勝手に立ち上がり、不気味なノイズを上げ始めた。
『――対象:サイバーレギオン。戦術的価値、ゼロと判定』
『フェーズ4(現実領域のインフラ掌握試験)を終了。これより、プランEを実行する』
「な、何よこれ……!? 組織のメインサーバーは落としたはずなのに、外部から強制的に上書きされてる!」
メグが慌てて端末を開き直すが、画面には未知の暗号化コードが目まぐるしく走り、一切の操作を受け付けない。
画面に表示されているソースコードの書き方、関数、そしてデータの処理速度……これらは現代の地球の技術で作られたOSのものではない。俺がかつて狂ったようにプレイし、バグの裏まで知り尽くしたあのゲームのシステム根幹の記述と、完全に一致していた。
「まさか、奴らが裏で操られていたのか……? 街を乗っ取ろうとしていたサイバーレギオン自体が、ただの『テストプレイヤー』に過ぎなかったってことかよ……!」
俺の言葉に応えるように、モニターのノイズがさらに激しくなる。画面の奥から、無機質で圧倒的な『意思』の視線を感じた。間違いない。サイバーレギオンの裏にいる、この世界のシステムを弄ぶ黒幕――『運営』だ。
『イレギュラープレイヤー(ギルド百華繚乱)の戦闘データを収集完了。これより、第5段階――直接排除フェーズへと移行する』
画面に表示されたのは、一つの巨大な組織のロゴマーク。あるいは、かつてあのクソゲーの公式チートとして存在した、運営直属のデバッグ部隊。その下に刻まれたコードネームは――【アイアングリッチ】。
「アイアングリッチ……? 聞いたことがない組織ですね」
闇風が怪訝そうに眉をひそめる。
「いや、違う。組織なんかじゃない」
俺は冷たい汗をにじませながら、画面に走る不穏なデータを睨みつけた。
「あのクソゲーに存在した、絶対に勝てない仕様の公式チート――運営の直属部隊だ。サイバーレギオンなんて比較にならないレベルの、本物のバグの塊が現実世界に投下されるぞ」
その言葉を証明するかのように、深夜の臨海地区の夜空が、一瞬だけ不気味な紫色にフラッシュした。
遠くの市街地で、地響きのような重苦しい駆動音が響いた。
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