第8話「規約違反:神の眼(レンズ)の正体」
前書き:
「利用規約」を最後まで読んだことはありますか?
あなたが「同意」したそのボタン、実は自分の『魂の譲渡』だったとしたら。
……ほら、画面の隅で、小さな文字が高速で書き換わっていますよ。
本文:
「嫌だ……! 妹だけは、絶対に選ばない!!」
勇人は石化した人差し指を、血が滲むほどスマホの画面に叩きつけた。
だが、中指も、薬指も、冷たい無機質な感触に侵食され、もはや自分の意思では1ミリも動かせない。
画面の中では、妹の連絡先のアイコンが、まるで心臓のようにドクンドクンと脈動している。
「あはは! 勇人、いい顔。その絶望、今まさに『一〇〇万いいね』を突破したわよ。おめでとう、あなたは歴史に残る『最高のコンテンツ』になったの」
美波の顔をした「化け物」が、車と一体化した異形の体を引きずりながら近づいてくる。
彼女が掲げる数十台のスマホの画面には、信じられない光景が映し出されていた。
それは、この村を上空から捉えた映像。
だが、その視点はドローンでも衛星でもない。
**「空に浮かぶ、巨大な眼の形をしたレンズ」**だった。
「……なんだ、あれは……。何なんだよ、この村は……っ!」
「教えてあげる。ここはね、神様が『観賞』するための檻なの。神様はね、人間が苦しみ、裏切り、無様に壊れていく姿を、スマホの画面越しに見るのが大好きなのよ。地蔵を壊したのも、私たちがここに来たのも、全部『脚本』通り」
美波の言葉とともに、勇人のスマホに強制的に「利用規約」の画面がポップアップした。
そこには、これまでこの村で死んでいった者たちの実名が、果てしなく続くリストとなって並んでいる。
そして、その末尾には――。
『同意者:佐伯 勇人。提供するもの:全神経、及び周囲の人間への伝染権』
「……伝染……権……?」
「そう。あなたがここで石になれば、あなたのスマホの連絡先に登録されている全員に、この村の『招待状(呪い)』が届くの。あなたが死ぬ瞬間のライブ映像と一緒にね。ねえ、素敵でしょ? 絶望が、Wi-Fiを通じて世界中にダウンロードされるのよ!」
ピキリ。
ついに勇人の首筋まで、灰色の石化が到達した。
喉が固まり、声が出なくなる。
その時、勇人の石化した指が、ついに妹の名前を「タップ」してしまった。
――ピロリン。
残酷に響く、送信完了の通知音。
「アハハハハハハ! ログイン完了! 勇人、あんた最高! 最高のバカッターだよ!!」
美波の狂った笑い声が、村全体にこだまする。
勇人の視界が、急速に灰色に染まっていく。
スマホの画面には、妹からの返信が届いていた。
『お兄ちゃん、どうしたの? この動画、なに……? 後ろに、誰かいるよ?』
勇人は、石の檻に閉じ込められる直前、空に浮かぶ「巨大な眼」が、満足げに瞬きをするのを見た。
後書き:
「共有」ボタンを押したのは、勇人自身です。
たとえ、それが物理的に強制されたものだとしても、システムは「同意」とみなします。
……あなたのスマホ、今、誰かから「動画」が届いていませんか?
開いた瞬間、あなたの『ログイン』も始まってしまうかもしれません。




