第7話「共犯のハッシュタグ:美波という名のシステム」
前書き:
「いいね!」を押す指、まだ動きますか?
一度ログインしたアカウントは、二度と自分には戻せません。
……今、あなたのスマホの「設定」画面、勝手に言語が変わっていませんか?
本文:
「ねえ、勇人……。もっと近くで、私を撮ってよ……」
勇人のスマホのスピーカーから、ノイズ混じりの美波の声が響く。
広場の中央、粉々に砕けたはずの真壁先輩の車から、ズルリと「何か」が這い出してきた。
それは、もはや美波の形をしていなかった。
下半身は車と溶け合い、背中からは数十台のスマホが「羽」のように生え揃っている。
顔の半分は石に覆われ、残った片目だけが、異様な情熱を湛えて勇人を射抜いた。
「バズってる……。見て、勇人。私の配信、同時視聴者数が十万人を超えたの。みんな、私たちが『食われる』ところを見たいんだって」
美波の背中のスマホが一斉にフラッシュを焚く。
勇人は目を細めるが、逃げる足が動かない。
ふと自分の手元を見ると、スマホを握る右手の人差し指が、第一関節から先、完全に灰色の石に変わっていた。
「……ッ!? なんだ、これ……動かない……!」
「いいでしょ? それはね、**『決定ボタン』**になったのよ」
美波が歪んだ笑みを浮かべる。
勇人のスマホの画面が勝手に切り替わり、そこには勇人の家族や友人の連絡先が一覧で表示されていた。
「勇人、その指で誰かの名前をタップして。そうすれば、あなたの石化は止まるわ。代わりに、選ばれたその人が『ログイン』するだけ。ねえ、誰にする? お母さん? それとも、あの仲のいい担任の先生?」
「ふざけるな! そんなことできるわけないだろ!」
「ふふっ、強がっちゃって。でもね、一秒ごとに、あなたの指は一本ずつ『ボタン』に変わっていくのよ」
ピキリ、と乾いた音がした。
中指が、薬指が、冷たい質感に上書きされていく。
勇人の意志とは無関係に、石化した指がスマホの画面をなぞり、誰かの名前を「選択」しようとする。
「やめろ……やめてくれ……!」
「ダメよ、勇人。みんな待ってるの。あなたの『裏切り』を。それが一番いいね!が稼げるんだから。……ほら、次の指も、石になっちゃった」
美波の背後のスマホ群が、一斉に勇人の顔を「顔認識」の枠で囲む。
画面越しに見える自分の顔は、恐怖で歪み、鼻筋から少しずつひび割れが始まっていた。
勇人は、自分の石化した指先が、妹の名前の上に止まるのを見て、絶叫した。
後書き:
美波は、もう「友人」ではありません。
村のシステムに取り込まれた、冷酷な「管理者」です。
……あなたのスマホの「共有」リスト、一番上にいるのは誰ですか?
意図せずその人を「招待」してしまわないよう、気をつけてくださいね。




