第6話「インサイド・アウト:石の檻で叫ぶ魂」
前書き:
「ビデオ通話」に出る時は、背景に気をつけてください。
もし、映っている相手の背後に「自分」が映り込んでいたら。
……その通信、未来のあなたからの「遺言」かもしれません。
本文:
石像たちの青白いライトに照らされた広場で、勇人は逃げ場を失っていた。
無数の「いいね!」を求める通知音が、耳鳴りのように頭の中に直接響く。
その時だった。
足元に転がっていた、ひび割れたスマホから、聞き覚えのある着信音が鳴り響いた。
『着信:結衣先輩(ビデオ通話)』
「結衣……先輩……?」
勇人は、吸い寄せられるようにその画面を手に取った。
つい先ほど、美波に突き飛ばされ、石像の群れに飲み込まれたはずの彼女だ。
震える指で通話ボタンをスライドさせる。
画面に映し出されたのは、真っ暗な、粘り気のある「闇」だった。
『……けて……勇人……くん……たすけて……』
スピーカーから漏れるのは、喉が潰れたような、湿った結衣先輩の声。
カメラがゆっくりと反転し、彼女が「今見ている景色」が画面に映る。
そこには、「石の内側」から見た、歪んだ世界が広がっていた。
灰色の石の層が幾重にも重なり、その隙間から、外にいる勇人の姿が、魚眼レンズのように歪んで見えている。
結衣先輩の魂は、石化した肉体という名の「永遠に開かない檻」の中に閉じ込められ、スマホのカメラレンズだけを唯一の「眼」として、外の世界を眺め続けていたのだ。
「そんな……意識があるのか……? 石になった後も、ずっと……」
『熱い……の……。スマホが、ずっと熱いの……。私の意識を、Wi-Fiで吸い出されてるみたいで……痛い、痛いよぉ……!』
結衣先輩の叫びに呼応するように、広場中の石像たちのスマホが一斉にフラッシュを焚いた。
パシャッ、パシャッ、パシャッ!
勇人のスマホに、次々と通知が届く。
『結衣:新しいストーリーを投稿しました』
そこにアップされていたのは、石の中で泣き叫び、意識が電子信号に分解されていく結衣先輩の**「魂の自撮り」**だった。
コメント欄には、残酷な賞賛が並ぶ。
『エモいwww』『ガチの絶望顔助かる』『早く勇人もこっち(石の中)に来いよ』
「……見て……勇人くん……後ろ……」
画面の中の結衣先輩が、消え入るような声で囁く。
結衣先輩の「石の眼」が捉えた、勇人の背後。
そこには、**美波の顔をした巨大な「認識枠」**が、スマホの画面を突き破らんばかりの勢いで、勇人の喉元に手を伸ばしていた。
「ログイン……完了まで……あと少し……」
結衣先輩のスマホから、彼女の涙の代わりに、熱を持ったバッテリー液がドロリと溢れ出した。
後書き:
石化は、死ではありません。
「意識」をネットの海に永遠に放流され続ける、終わりのない公開処刑です。
……あなたのスマホ、最近身に覚えのない「発熱」をしていませんか?
それは、あなたの魂が「アップロード」され始めているサインかもしれません。




