第5話:自動更新される死:ハッシュタグは「遺言」
前書き:
死んだら、SNSのアカウントはどうなると思いますか?
この村では、あなたの意思に関係なく「更新」され続けます。
……ほら、あなたのタイムライン、一分前に「死んだはずの誰か」が投稿していませんか?
本文:
車内は、完全な静寂に包まれていた。
かつて美波だった「石の塊」は、スマホを握りしめたまま、満足げな笑みを浮かべた形で固まっている。
勇人は震える手でドアを離れ、暗闇の中を走り出した。
だが、ポケットの中でスマホが震える。
『美波:おすすめのスポットを共有しました。目的地まで徒歩五分です』
画面には、美波のアイコンから勝手に送られてきたナビゲーションが表示されていた。
「やめろ……もう、放っておいてくれ!」
勇人が電源を切ろうとしても、ボタンは反応しない。それどころか、スマホ本体が異様な熱を帯び、手のひらの皮が焼けるような痛みが走る。
「……勇人……くん……こっち……だよ……」
スピーカーから流れるのは、ノイズ混じりの美波の声。
逆らえば殺される。本能的な恐怖に突き動かされ、勇人はナビに従い、村の中心部へと足を踏み入れた。
そこで目にしたのは、狂気の光景だった。
村の広場を埋め尽くす、数十体の石像。
彼らは一様に、スマホを顔の前に掲げ、最高の笑顔で自撮りをするポーズのまま固まっている。
驚くべきことに、彼らが持つスマホの画面は、今も青白く光り輝いていた。
チリン、チリン、チリン――。
無数の通知音が、まるで吸血害虫の羽音のように広場に充満している。
勇人が恐る恐る一体の石像の画面を覗き込むと、そこには今この瞬間の「自撮り写真」がアップロードされていた。
『#■■■村 #貸し切り状態 #新しい友達が来たよ』
写真の端には、怯えた表情で広場に立ち尽くす――自分自身の姿が写り込んでいる。
石化したはずの彼らは、電子の幽霊となって、今もなお「観測者」を求めて発信を続けているのだ。
勇人のスマホのコメント欄が、爆発的な勢いで更新される。
『あ、新しい生贄だ』
『今回のやつ、いつ石になるかな?』
『賭けようぜ、次は左足からだ』
肉眼では見えない。だが、スマホのレンズを通すと、石像たちの掲げるスマホから、**青白い「認識の糸」**が何条も伸び、勇人の体に絡みついているのが見えた。
「ログイン……継続中……」
どこからか聞こえる、大勢の、重なり合った声。
石像たちのスマホのライトが一斉に勇人を照らし出す。
逃げ場はない。
この村そのものが、巨大な「スタジオ」であり、逃げ惑う勇人は、世界中の悪意に晒された「コンテンツ」に過ぎなかった。
後書き:
石像たちは、今も「いいね!」を待っています。
彼らの投稿にリアクションをした瞬間、あなたの座標も「認識」されるかもしれません。
……さっき、何気なく押したその「いいね!」、本当に安全ですか?




