第3話「共有される絶望:ログインの代償」
前書き:
「位置情報、オンにしましたか?」
あなたが隠れている場所、実はもう、フォロワー全員にバレてますよ。
……もちろん、画面越しにあなたを狙う「それ」にも。
本文:
「開けろ! 美波、開けろよ!!」
勇人が車のドアノブを壊れんばかりに引くが、集中ロックされた扉はびくともしない。
車内では、美波が後部座席に現れた「何か」に怯え、狂ったようにスマホを操作している。
その時、勇人のポケットの中でスマホが震えた。
画面には、死んだはずの――いや、石になったはずの真壁先輩からのメッセージ通知。
『今、入り口。これから帰るよ。自撮り送るわ(笑)』
添えられた写真は、真壁先輩が笑いながらピースをしているものだ。
だが、その顔は、地蔵の無機質な石面に、無理やり先輩の生前の「笑顔」を貼り付けたような、歪な合成写真だった。背景には、血の気を失った顔で車の外を叩く、勇人自身の後ろ姿が映り込んでいる。
「これ……今、撮られたのか……?」
震える勇人のスマホが、次に最悪の通知を弾き出した。
『Instagrim:勇人さんがライブ配信を開始しました』
「何だよこれ……勝手に……!」
画面には、勇人が今見ている光景がそのまま配信されていた。
そして、画面の隅には、現在地の正確な緯度・経度と、地図上のピンが表示されている。
コメント欄が猛烈な勢いで流れ出す。
『ここ、例の村じゃんw』『勇人、後ろ後ろ!』『顔認識の枠、百個くらいあるぞww』
その視聴者たちの「視線」に導かれるように、霧の向こうから、無数の石地蔵たちがずりり、ずりりと、勇人の座標を目がけて集まってくる。
「勇人! 勇人、聞いてる!?」
突然、車内の美波が窓を叩いた。
彼女はスマホを「それ(地蔵)」に向けたまま、何かに取り憑かれたような目で勇人を睨みつけている。
「ねえ、美波! 早くロックを解除して――」
「交渉したの! 私、交渉したんだから!」
美波の声は、もはや正気ではなかった。
「『それ』が言ってるの! 『誰か一人のログイン(登録)を完了すれば、他のメンバーはログアウトさせてやる』って! だから勇人、あんたがログインしてよ! あんたが外で地蔵になってくれれば、私は助かるんだよ!!」
彼女は、勇人のスマホの「配信ボタン」を車内から操作しようと、狂ったように画面をタップしている。
彼女にとって、勇人はもう友人ですらなかった。
自分が生き残るために、「それ」に差し出すための生贄のログイン情報に過ぎない。
バキッ。
車のフロントガラスにヒビが入る。
勇人のスマホの配信画面。そこには、勇人のすぐ背後にまで迫った、巨大な「石の腕」が映し出されていた。
「ログイン、完了まであと一〇秒だって! アハハ、ごめんね勇人! バズったらお葬式にお花、いっぱい送ってあげるから!!」
美波の笑い声と、スマホから鳴り響く「カウントダウン」の通知音。
勇人は、逃げることも、隠れることも許されない。
全フォロワーが、そして美波が、勇人の「死」を画面越しに認識しようとしていた。
後書き:
友情よりも、恋心よりも、生存本能。
美波の「交渉」は、果たして成功するのでしょうか。
……あなたのスマホの「共有設定」、今すぐ確認した方がいいですよ。
知らない誰かと、あなたの「命」が共有されているかもしれませんから。




