第2話「ログアウト不能:身勝手な生存本能」
前書き:
「助けて」なんて、誰に向かって言っているんですか?
この村には、あなたを助けるフォロワーなんて一人もいないのに。
……おや、画面の端に映り込んだ「それ」、少し大きくなっていませんか?
本文:
「ヒッ、ヒギィッ……! 喉が、喉が固まる……ッ!!」
地面にのたうち回る真壁先輩の喉からは、もはや人間らしい悲鳴すら上がらない。
掻きむしった指先が、石化した皮膚に弾かれ、生爪が剥がれて血が飛び散る。
だが、その血さえも地面に落ちる前に灰色に濁り、小さな石の粒へと変わっていく。
「真壁……君……?」
結衣先輩が腰を抜かし、這いずるようにして後ずさる。
「ちょ、ちょっと待ってよ! 何これ、ドッキリ!? 勇人、これドッキリでしょ!?」
美波が震える手でスマホを向けたまま、ヒステリックに叫んだ。
彼女の瞳には、苦しむ先輩の姿ではなく、**「動画の再生数」**への未練が、どろりとした執念となって張り付いている。
「ドッキリなわけないだろ! 早く、先輩を車に――」
勇人が真壁の肩を掴もうとした、その時だった。
バキッ。
嫌な乾いた音が響き、真壁の右腕が付け根から呆気なく折れた。
切り口からは血の一滴も出ない。ただ、砕けた石の粉が舞うだけだ。
「……あ」
勇人の思考が真っ白になる。
真壁の顔は、すでに地蔵そのものの無機質な表情へと固定されていた。
見開かれた石の眼球が、じっと、自分たちを見つめている。
ピピピピピピピピピピピッ!!!
その瞬間、全員のスマホから、鼓膜を突き破らんばかりの警告音が鳴り響いた。
美波のスマホ画面には、真壁の遺体(石像)を起点にして、数えきれないほどの「顔認識」の枠が、蜘蛛の子を散らすように勇人たちへ向かって殺到してくるのが映っていた。
「嫌ぁぁぁぁぁ! 来ないで! 私、悪くない! 蹴ったのは真壁先輩じゃん!!」
美波が絶叫し、あろうことか、立ち上がろうとしていた結衣先輩の背中を、思い切り突き飛ばした。
「きゃっ!?」
「美波! お前、何を――!」
「うるさい! 私だけでも逃げるの! 車、車出してよ勇人!!」
美波は転倒した結衣先輩を跨ぎ、一目散に車の運転席へと走り出す。
だが、彼女は気づいていない。
投げ出された結衣先輩の背中に、**スマホの画面越しにしか見えない「石の腕」**が、何本も、何十本も、地を這うようにして絡みついていることに。
「……勇人……くん、助け……」
結衣先輩の手が、勇人の方へ伸ばされる。
しかし、その指先は、勇人に触れる直前でピキリと音を立てて固まった。
「美波! 待て、結衣先輩が――!」
ガチャン!
非情な音が響いた。
車に滑り込んだ美波が、中からすべてのドアをロックしたのだ。
「開けろ! 美波、開けろよ!!」
「無理! 無理無理無理! 誰か一人いれば『それ』は満足するんでしょ!? ごめんね、結衣先輩! 勇人、あんたも外で食い止めててよ!!」
窓越しに見える美波の顔は、恐怖で歪みながらも、自分の命を守るための冷酷な「足手まとい」としての本性を剥き出しにしていた。
バシャッ!
不意に、車のフロントガラスに「赤い何か」が叩きつけられた。
それは、結衣先輩が持っていたスマホだった。
画面は割れているが、まだ電源は落ちていない。
その画面の中、美波が閉じこもる車内の後部座席に、満面の笑みを浮かべた「首のない地蔵」が、美波の首筋に手をかけて座っているのが、勇人の目にははっきりと映っていた。
「……あ、あ、あああああああ!!!」
車内から響く美波の絶叫。
だが、勇人にはドアを開ける術はない。
背後からは、無数の「石が擦れる音」が近づいてくる。
勇人は、自分のスマホを握りしめた。
画面には、たった一行。
『ログイン完了。次は、あなたの番です』
後書き:
美波、期待通りの「戦犯」っぷりですね。
車の中に逃げれば安全だと思った彼女を待っていたのは、最悪の「相乗り」でした。
次は、一人取り残された勇人の、本当の地獄が始まります。
……ところで、あなたのスマホの「自動ロック」、設定時間は何分ですか?
その「数分」の間に、何かが入り込んでいないといいのですが。




