第1話「バズりの生贄:地蔵サッカーの夜」
前書き:
深夜の山道。圏外のはずのスマホが、一斉に「シャッター音」を鳴らし始める。
それは、何かが僕たちを「認識」した合図だった。
……あなたのスマホのカメラロール、最近身に覚えのない「真っ黒な写真」が増えていませんか?
本文:
深夜二時。
真壁先輩の改造車のエンジン音だけが、重苦しい山あいの空気を切り裂いていた。
カーナビの画面は、とうの昔に道を失っている。
現在地を示す自車位置のアイコンは、何も描かれていない漆黒の空間を、ただ無機質に彷徨い続けていた。
「ねえ、まだぁ? 電波死んでてライブ配信止まっちゃったんだけど!」
後部座席で美波が不機嫌そうにスマホを振る。
助手席の結衣先輩も、顔色の悪いまま窓の外を凝視していた。
「……ねえ、さっきから変だよ。バックモニター、誰もいないのにさっきから『接近注意』の警告音が消えないの」
結衣先輩の震える声。
勇人がモニターを覗き込むと、そこには街灯一つない闇が映っているだけだ。
だが、障害物検知の警告音は、次第にその間隔を短くしていく。
ピッ、ピッ、ピッ、ピピピピピピ――。
「チッ、壊れてんだろ。ほら、着いたぞ。ここが例の『■■■村』の入り口だ」
真壁先輩が強引に車を止める。
ヘッドライトの光が、霧の向こう側に並ぶ石地蔵の列を照らし出した。
どれも首がなく、苔むした胴体だけが異様に長く引き伸ばされたような、不気味な造形をしている。
「うわっ、マジで首ねーじゃん! 最高、これ絶対バズるって!」
車を飛び出した美波は、真っ暗な村の入り口をスマホのライトで照らし、すぐさま自撮りを始めた。
恐怖よりも承認欲求が勝っている彼女の姿に、勇人は言いようのない吐き気を覚える。
「おい勇人、見てろよ。これが一番『映える』んだよ」
真壁先輩が笑いながら、一体の地蔵の前に立った。
その足元には、最近落ちたばかりのような、妙に瑞々しい質感の「石の首」が転がっている。
「先輩、やめてください……! それ、本当にヤバいですよ!」
勇人の制止など、真壁の耳には届かない。
彼はスマホを美波に向け、合図を送った。
「よっしゃ、回せよ! 地蔵サッカー、キーーーック!!」
ゴツッ、という、生々しい音が響いた。
真壁の足が、地蔵の首を正確に捉える。
石の塊は放物線を描き、深い藪の中へと消えていった。
「アハハハハ! ウケる! 真壁先輩、マジ神なんだけど!」
美波の甲高い笑い声が、村の奥へと吸い込まれていく。
だが、その直後だった。
勇人のポケットの中で、スマホが狂ったように震え出した。
画面を見ると、電波は「圏外」。
それなのに、画面中央には見たこともない通知が表示されていた。
『新規ユーザー:■■■が、あなたの背後にログインしました』
パシャッ。
不意に、真壁のスマホが勝手にシャッター音を鳴らした。
「あ? なんだよ勝手に……」
真壁が自分のスマホを覗き込み、次の瞬間、絶叫した。
「うわあああ! なんだこれ! なんだよこれえええ!!」
奪い取るようにして勇人がその画面を見ると、そこには先ほど撮ったばかりの動画が再生されていた。
地蔵の首を蹴る真壁。
だが、画面の中の真壁の「顔認識」の枠は、彼の頭部を囲っていない。
黄色い枠は、真壁の足元――先ほどまで首が転がっていた、地面の何もない空間を、執拗に囲い続けている。
そして、その枠の中から、ゆっくりと「石のような指」が這い出し、画面越しにこちらへ向かって伸びてきていた。
「痛い……。首、痛ぇ……。重い、重いんだよぉ……!」
真壁が自分の喉を掻きむしりながら、その場に崩れ落ちる。
彼の首の皮膚が、みるみるうちに灰色に変色し、ザラついた石の質感へと変わっていく。
「真壁先輩!? ちょっと、冗談きついってば!」
美波がスマホを向けたまま笑う。
だが、彼女のスマホの画面に映る「顔認識」の枠は、今度は、**泣き叫ぶ真壁の背後にある「闇」**を、一斉に囲み始めた。
一つ、二つ、十、二十――。
数えきれないほどの四角い枠が、こちらに向かって一斉に走り出す。
それは、スマホ越しにしか見えない「それら」が、僕たちを『認識』した瞬間だった。
後書き:
真壁先輩の首は、もう人間の肉ではありませんでした。
次は、この「認識」の連鎖から逃げられない美波と結衣先輩、そして勇人の絶望が加速します。
……あなたのスマホ、今のシャッター音、あなたが押したやつですか?




