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第6話

「それで、医者を目指している理由の答えは?」


 信号は既に青に変わっていた。周りの通行人が動き出すのよりも少し遅れてペダルをこぎ始める。


「どうして俺が医者を目指していると思ったんだ?」


 横に浮遊しているにこまるには顔を向けず、正面を向いたままそう答える。


「だって、君の部屋の本棚に医学書が何冊かあるじゃん。医者に興味がなければあんな本を高校生が持っていないだろ?」


 いかにも、俺の部屋の本棚には医療に関する本が何冊か置いてある。ただ、それは医学書と呼べるような専門書ではなく、一般人が教養として読むような本に過ぎない。とはいえ、確かに普通の高校生なら読まないものばかりだろう。


「俺の運命が見えているなら、答えは知っているんじゃないのか?」


 素朴な疑問をぶつけてみる。


「見えている、という表現は少し違うよ。正確には、見ることができる、だからね」


 ああ、なるほど。


「昨日の俺の運命しか見ていないということか?」


 にこまるは世界中の全人類の運命を見ることができると言った。ただ、今の言葉から察するに、情報が自動的に脳に入ってくるのではなく、運命を知るには、誰の、そしていつのものを見るか意識する必要があるのだろう。


「昨日だけではないよ。君のすごろくはちょいちょい見ているからね。ただ、過去のものはあまり見ていないからさ」


 こんな訳の分からない生命体に自分の運命の一部を除かれていると思うと、どうも気味が悪い。泥水に浸かっている気分だ。


「お前の言うとおり、俺は医者を目指している。医者になったらもちろん、唯ちゃんの病気を治してあげたいとも思っている。だけど、医者を目指したきっかけはまた別の話だ」

「やっぱり医者は目指しているんだね。それで、そのきっかけとやらは何?」

「また今度話すよ」

「もったいぶるなよ」


 頬を膨らませるにこまるに、俺は右の人差し指を正面に向けて見せる。


「もう学校だ」


 県立富川中部高等学校。通称、富川中部。昨年度、創立百周年を迎えた伝統ある学校。


 県内トップの進学校であり、普通科と探究科学科という二種類の学科が存在する。探究科学科とは、探究活動と呼ばれる自分で課題を設定し、その課題について調べ、発表するといったゼミ形式の授業や、国内海外の大学と連携して行われる各専門分野に特化した授業などがカリキュラムに組み込まれており、世界で活躍できる人材を育むことを目指して創設された学科である。高度で幅広い学びがあるということで、生徒保護者両方から人気が高いことに加え、普通科40人5クラスに対して、40人1クラスしかないという非常に狭き門ということもあり、入試倍率は毎年県内で一番高い割合となっている。


 高校入試において、県内の全中学生トップ40人がここに集まる、と言っても過言ではないだろう。


 3年前、俺はその探究科学科に合格した内の一人だ。


 県内では富川中部の生徒となると、周りから優秀と称されること多いが、それが探究科学科になるとさらに格が上がり、天才扱いになる。


 だが、俺はこの県内の風潮に疑問を感じている。


 たかだか高校入試なんかで頭の良さを測れるとは思っていないからだ。


 屋根付きの駐輪場に自転車を停めて、生徒玄関までの道を歩く。


「なあ、にこまる」


 近くに人がいないことを確認してから、囁くように声をかける。


「何だい?」

「過去はあまり見ていないと言っていたが、未来は結構見てるんだよな?」

「まあ、それなりに」

「俺の未来は──どうなっているんだ?」


 別に自分の未来が、運命がどうなるのかを知りたいわけではない。ただ、何となく聞いてみただけだ。明日の天気を聞くぐらいの気持ちで。


 空中をふわふわしていたにこまるの動きがピタッと止まった。まるで電池が切れたロボットのように。


「まだ、言わないよ」

「いつ言うんだ?」


「くくくっ」というなんとも不愉快な声を出しながら、にこまるは表情をニヤつかせる。


「君が、シックザルを3回使用した後だよ」


 どういうことだ?


 なぜそんなタイミングで?


「君に聞かれなくても、僕は君がシックザルを3回使用した後に、君がどのような運命を辿るのか話すつもりだったんだけどね」


 3回使用した後ということは、言い換えれば、ラスト1回残っている状態の時だ。その時に何か意味があるとでもいうのだろうか。それとも──。


「そういうルールでもあるのか?」


「シックザルの力を与えた者は、その人物が力を3回使用した後に、その人物の運命を教えなくてはいけない」

みたいな謎の決まりがあるのかもしれない。


「そんなルールないよ。これは僕の、ただのこだわりさ」


 そりゃそうか。


「変なこだわりを持ってるんだな」

「別にいいだろ。それに、君だけじゃない。今までの人にだってそうしてきたことさ」


 にこまるの言葉に少しだけ意表を突かれた。


 しかし、その可能性もある──とは思っていた。


 シックザルの力を手にしているのは俺だけじゃない。


 だが、「今までの」ということは──。


「これまでに何人、シックザルを与えてきたんだ?」

「君を含めて4人だね」

「残りの3人はもう──生きていない」

「御名答。君、やっぱり頭の回転が早いね」


 こいつに褒められても全然嬉しい気持ちにならないのはなぜだろう。


 生徒玄関前には、俺以外の生徒の姿は見当たらない。スマホの時計を見ると、後2分で朝のホームルームが始まる時間になっていた。


 朝というのは、やけに体感時間が早い。


 遅刻になると色々とめんどくさいので、駆け足で玄関へ入る。


「まあ最後に、せっかくだからこれだけは言っておこうかな」


 俺が急ぎ出したためか、にこまるは話を切り上げようとする。そういう気遣いはできるらしい。


 3年生の教室は一階にある。ギリギリ間に合うだろう。足を止めることなく、耳を傾ける。


「君が迎える運命は──実に面白いことになっているよ」


 そう言い残して、にこまるは姿を消した。

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