第49話
東部分館の前に設置されている小さな木製のベンチ。先に着いた俺はそこに座って三宮を待った。このベンチは以前にも一度、三宮と座ったことがある。たしかあれは、お互いの夢を初めて語った時だ。
「すみません、待たせてしまいましたか?」
5分もしない内に、クリーム色のコートを羽織った三宮が姿を現した。肩には黒色のショルダーバッグを提げている。
「いや、俺も今来たところだ」
三宮──こうして実際に会うのは三ヶ月ぶり、か。
「とりあえず、座ったらどうだ」
「そうですね。では、お隣失礼します」
肩が少し触れ合う。この感覚も、随分久しぶりだ。
「こんな時間に呼び出してすみません」
「いや、全然大丈夫だ」
「夕飯はもう食べましたか?」
「ああ」
「何を食べましたか?」
「ローストビーフとかフライドチキンとか、クリスマスの定番メニューを一通り──あとはすき焼きだな」
「クリスマスにすき焼きは、珍しいですね」
「我が家の伝統だ」
「素晴らしい伝統だと思います」
話はそこで途切れる。
静かな夜だった。聞こえてくるのは風の音ぐらい。まるで世界に俺たち二人だけが取り残されたみたいな感覚。こうやって三宮と静寂の時間を過ごすのも悪くない。
「クリスマスの日に何を食べたか聞くために、俺をわざわざ東部分館に呼び出したわけではないだろ?」
だけど、今はそれよりも大切なことがある。
「すみません。多分、久しぶりにお会いしたので……緊張しているんだと思います」
三宮は俯き、手をもじもじとさせる。
「この東部分館も、結局廃館になってしまうかもしれないんですね……」
「──どういうことだ?」
「ご存知ないんですか? 以前廃館リストから外れた分館を、再び廃館にする方針で富川市が検討しているっていうネットニュースを今朝見たんですが──」
スマホを操作してそのネットニュースを探してみると、すぐにそれらしき記事が見つかった。記事にはたしかに そのような内容が書かれている。
「なるほどな」
「あまり驚かないんですね」
驚いてはいる、が──。
「色々とあってな」
「──そうでしたか」
三宮は深く追究してこなかった。俺に気を遣っているのだろう。
唯ちゃんの病気は再発し、東部分館はまたしても廃館の危機、大智を救ったかと思えば聡美の人生が台無しに──。
俺が変えた三つの運命──それらは変えたようでいて、何も変わっていなかった。いや、変わっていないどころか、元よりも悪化している。
俺は運命を、いたずらに混乱させただけだった。
やはり他人の運命を変えるなど、許されざることだったのだ。今のこの現状は、神罰が降った結果なのかもしれない。
「東部分館──振り出しに戻っちゃいましたね……」
「また一緒に、市長にお願いをしに行ってみるか?」
しかし三宮は俺の提案に対して首を横に振った。
「そうしたいんですが……私にはもう、無理なんです」
「──どういう意味だ?」
「私はもう、富川にはいられませんから……」
ますます意味が分からない──。
「富川から真照間島に移住することになったんです。そしてまさにこれが、今日、茜川君に伝えたかったことです」
真照間島に移住だと?
「それは、いつからの話だ?」
「──明日です」
俺は言葉が出なかった。
いくらなんでも急すぎる。
良い知らせが聞けるなんてことは全く期待していなかった。嫌な予感はしていたし、ある程度のことは覚悟していた。しかしこれは──。
「順を追って説明してもいいでしょうか?」
「ああ、頼む」
まずは事情を聞かなくては──。何かを考えるのはそれからだ。




