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第47話

 家に帰宅し、荷物を自室に置いてから台所へ。冷蔵庫から麦茶の入ったペットボトルを取り出し、ガラスのコップに入れてリビングへ持っていく。


「おかえり」ソファに座る母親が俺にそう言った。麦茶を一口飲んでから、「ただいま」と返す。


 何か様子がおかしい。母親はスマホをいじるわけでも、本を読むわけでもなく、ただじっと座っていた。何より、顔色が少し悪いように見える。


「どうしたんだよ?」

「翔、あのね……」


 この感じ、前にもあったような気がする。嫌な既視感を覚える。


「今日のお昼頃にね、唯ちゃんが学校で急に倒れちゃったらしいの」

「それって、まさか──」

「病気が再発してしまったみたいなの……」

「悪い冗談はやめてくれ」

「本当の話よ。さっき家の前で、中野さんに会って聞いたんだから。今は症状が落ちついているけど、いつまた発作が起こるか分からないからしばらく入院だって。中野さん、色々荷物を持って病院に戻って行ったわ」

「何で病気が再発したんだ? もう大丈夫だったはずじゃ──」

「私に聞かれても分からないわよ……唯ちゃん、この間会った時は元気そうにしてたんだけどねえ……」


 何でこんなことになってる。


 俺はたしかに唯ちゃんの運命を変えたはずだ。唯ちゃんが、病気で亡くなるという運命を変えたんだ。それがまたどうして、元のように戻っている。


 飲みかけの麦茶をリビングのテーブルに置き、自室に戻る。


「にこまる、説明しろ!」

「うるさいなあ。何だよいきなり」

「何で唯ちゃんがまた病気に罹っている?」

「いや、知らないよ」

「知らないわけないだろ」

「本当に知らないよ、落ち着けって。でも普通に考えてさ、『唯ちゃんの病気が治る』っていう運命に変わっていたように見えて、実際は『病気が一時的に治るがまた再発する』っていう運命に変わっていたっていうだけの話だろ?」


 唯ちゃんは、病気が治って、希望に満ちていたはずだ。それなのに、希望を持たせてから絶望を与えるなんて──許せない。


 壁を殴りつける。怒りは全然収まらない。俺はにこまるを睨んだ。


「待てよ、僕は何もしてないぜ? 僕を恨むっていうなら筋違いだ」

「ひょっとして、お前は運命を操れるんじゃないのか?」

「はあ? どういうことだよ?」

「シックザルを使って変わる運命の内容は、お前が意図したものにできるんじゃないかって意味だよ」


 もしそうだとしたら、こいつはやりかねない。唯ちゃんの命を弄ぶような運命を作ることを、こいつなら。


「残念ながら僕にそんな力はないよ。そもそも、自分で運命が作れたら面白くないし」


 そう言ってにこまるは否定した。


「君は唯ちゃんにシックザルを使って運命を変えた。その運命が今のこの現実、ただそれだけだよ」


 唯ちゃんの病気が再発したのは、俺が運命を変えたから──。


 そうだ、あの子に光を見せてから闇に突き落としていたのは、他でもない、この俺だ。


 途端に寒気がした。


 分かってはいたはずなのに。人の運命を変えることが、いかに恐ろしいことかということを。


 シックザル──俺は改めてこの力に恐怖を抱いた。

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